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38.お父様に相談です



 家に戻ったのは、予定より大幅に遅れた時間だった。

 とはいえ、夕食にはまだ時間がある。それまでの時間を潰すには何をしようかしら?

 勉強……は、なんとなくする気になれなかった。

 これもリアム様のせいだわ。そもそもあんな所でばったり出くわすなんて、ものすごく運が悪いとしか言いようがない。

 はしたなくも怒りに任せてドスドスと歩こうとした途端、バルコニーの手すりに手をかけて外をぼんやりと見ているお姉様を見つけた。

 お姉様の今のお気持ちはどんな感じかしら? ヴィンス様はリアム様に言ったように、お姉様にも同じことを言ったのかしら?

 でも、婿に入ってもいいといっても、相手は王族派――お父様が手放しで賛同してくれるとは思えない。


 そういえば、お父様はどうして中立であろうとするのかしら?


 聞きかじった程度の知識しかないけど、今の最大派閥は貴族派で、王族派のほうが少ない。中立派は更に少ない。

 その少ない中立派にいる意味はなぜかしら?


 疑問に思うと、お父様に聞きたくなってきた。

 今は社交シーズン、お父様は王宮に勤めているわけではないので、領地から上がってきた報告書に目を通していることが多い。

 となれば、今は家に居るわよね。

 ちょっと行って訊いてみようかしら?


 お姉様に気づかれる前に踵を返して、お父様の執務室へと歩きだした。

 お仕事の邪魔をするのは気が引けるけど、お姉様とわたしの将来のこともあるので、大目に見てもらおう。

 廊下を歩いて、お父様の執務室の前に着くと、重厚な扉を3回ノックした。


『誰だね?』

「エレンです。お父様」


 扉はセキュリティを考えてなのか、中の音はほぼ聞こえない。そのために部屋に入る人は扉のある箇所を叩くと、それが中と繋がる魔道具になっているらしい。

 最初の頃は、扉を叩いただけでよく分かるなぁと思っていたのだけど、そういう仕組みだったらしい。


『入りなさい』

「失礼します」


 少しして、お父様から入室の許可が出たので、扉を開いて中に足を踏み入れた。


「なんの用かね?」

「お父様にお聞きしたいことがありまして」


 そう言ったものの、なんて切り出そうかしら。

 思いつきで来たので、ノープランもいいところだわ。



「ふむ、お前が聞きたいのはローズのことかね?」

「!」


 図星だ。

 けど、何処から話をしていいのか分からないでいると、お父様は続けて言った。


「実はね、エアルドレッド侯爵家から釣書が届いたんだよ」

「エアルドレッド侯爵家から?」


 仕事が早くない?

 でも、『嫁にください』なのか『婿に立候補します』なのかで、大きく変わる。

 エアルドレッド侯爵家は――ヴィンス様はどちらで話を持ってきたのかしら。


「お姉様に……」

「しかも、婿入りしても構わないと来たよ」

「まさかの、婿入り……」


 確かにリアム様を通して覚悟を見せろとは言ったけど、まさか婿入りオーケーで釣書が届くなんて思わなかったわ。

 昼間、リアム様に聞いていたのに、衝撃が強い。


「お前はどう思うかね?」

「……お姉様がエアルドレッド侯爵令息と想い合っていると、とある方から聞き及びました。ですから、お姉様だけに限ればとても喜ばしいことだけど……」


 嫁ぐなら王族派でもまだいいだろう。

 でも、入り婿に王族派は、お父様のお考えと異なる。


「派閥のことを気にしているのかな?」

「はい。お父様――うちは代々、中立派だと聞いています。でも、エアルドレッド侯爵家は王族派……お父様が承諾してくれるのか、不安です」

「これでも、ローズも幸せになって欲しいんだけどね」

「分かっています」


 お父様はわたしを甘やかしていたけど、溺愛という程ではない。ただ、お姉様は割を食っていたところがあるので、記憶が戻る前はわたしのほうがお父様とお母様に愛されていると勘違いしていた。

 でも、お姉様に我慢させてはいたけど、その目は憎しみからではなく、『我慢することを覚えなさい』と言っているようだった。

 当然といえば当然なのかも。男性社会と言えるこの国で、少ない中立派の貴族の当主として生きて行かなければならないのだもの。我慢も必要になるでしょうね。

 お父様のしたことがベストとは言えないけど、お父様なりの教育だったのだわ。


「お父様はそんなにお姉様を思っているのに、お姉様には厳しくて、わたしには甘かったのですか?」


 家のことを考えれば、わたしにも同じように教育を施すべきだった。

 そうすれば、お姉様は王族派に嫁ぐこともできたはず。少なくとも、うちに王族派を入れるよりも、嫁ぎ先が王族派だったというくらいなら、中立派のままいられたはず。


「私はね、お前たち2人に争うような真似をさせたくないなかったんだよ」

「争う? わたし達が?」


 お父様の言いたいことが分からずに、首を横に傾ける。


「お父様はね、この家の長子だった。そして、1つ下には優秀な弟が居てね」

「クリフ叔父様のこと?」

「いや、クリフとの間にオスカーという弟がいたんだ。私より優秀でね。子供の頃はよく比較されて落ち込んだものだよ」

「初めて聞きましたわ」

「そうだね。ローズやエレンが生まれるもっと前のことだからね、言わなくてもいいかなと思っていたんだよ」


 そうなると、お父様は弟2人に妹1人の4人兄弟だったのね。

 クリフ叔父様は貴族籍から抜けて、今は商会を切り盛りしている。あちこち商売で出かけては、珍しいお土産を持ってきてくれる人。

 叔母様は伯爵家に嫁ぎ、伯爵夫人としてクリフ叔父様の商会で扱う商品の広告塔をしている。

 うちにもそういった品々が届くので、お母様も同じようにお茶会や夜会で珍しいものを披露していて、お母様と叔母様はちょっとした流行の先端をいくので夫人方の中で人気なの。

 最近ではお姉様も同じように、叔父様の商品を身に付けてお茶会に出ていたわね。


 ……と、話がそれてしまったわ。

 お父様が言いたいのは、その事ではないはずだもの。

 今までわたしはお姉様のものを欲しがって、お姉様は我慢してわたしにくれて、言い争いもほとんどしたことがないので、お姉様と争うという展開が全然思い浮かばないわ。




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