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 横になっているから余計に眠くなるんだ――と思い直して、わたしはがばっと起き上がった。すると、眩暈がして気持ち悪い。頭に手を添えて、眩暈が治まるのを待った。

 眩暈が治まると、次にどうするべきを考える。

 紙に書こうかと思ったけど、見られたら困る。いや、日本語で書けばいいのか? と思ったけど、起き上がっただけで眩暈がするので、立ち上がったりしたらどうなるか分からない。倒れて音がしたら、しばらく1人にしてもらえないだろう。人が居るとしっかり考える事が出来なくなる。

 仕方なく頭の中で漫画のストーリーを思い出して、なにか対策が出来ないかと考えた。



 漫画では、アドルフ様は非の打ち所がない婚約者だった。わたし(エレン)の婚約者になったのは、エレンが強く望んだからだった。そして、アドルフ様なら領地経営の勉強をしていないエレンを支えて、ペイリー伯爵家を切り盛りしてくれるに違いない――と考え、お父様は簡単な気持ちで婚約者をわたしに変えてしまった。

 そして、ローズは当主として立つ事もなくなり、自分の存在価値に思い悩む事になる。その間にも、エレンが「婚約者が~」とローズに言うものだから、自分は両親にも愛されない子なのだと日々枕を濡らす日々を送る。

 そして、たまたま出席した夜会でヴィンス・エアルドレッド侯爵令息に出会い、会話が弾みそこから恋仲に発展していく。

 家での扱いを憂えたヴィンスが、エレンがアドルフと結婚する前に、ローズをエアルドレッド侯爵家に嫁入りさせてしまう。そして、2人は幸せな生活を送る……。



 というのが漫画のあらすじだった。

 問題なのが、わたしがお姉様の物を欲しがらなければいいというわけではない。

 漫画の最後にその後のペイリー家として、描かれているのがアドルフ様の浮気三昧とペイリー系の没落という所謂ざまぁシーン。

 これらをなんとかしなければ、我が家は終わる。いや、我が家だけならまだしも、ペイリー伯爵領の皆にも迷惑をかけてしまう事になる。

 でも、お姉様のものを欲しがらない=婚約者はアドルフ様のまま、という事になる。そうなると結婚後にアドルフ様はどうするのか。お姉様と結婚して婿入りした我が家で、堂々と浮気しまくるのか。

 今は本性を見せていないので、その辺が分かりづらい。今のアドルフ様はお姉様の婚約者としての振る舞いに何の問題もないし、わたしのわがままにも付き合ってくれる。両親は、家族思いの優しい好青年だと思っているだろう。


 そうなると、婚約解消する理由がないのよね……。

 漫画通りになるのは嫌だし、かといって、お姉様が犠牲になるのも嫌だ。不思議な事に、お姉様のものをあれだけ欲しがってわがまま言っていたのに、エレンの中にはお姉様に対する憎悪や嫌悪はない。あるのは、はっきり言えば……嫉妬。

 両親に期待されているお姉様が羨ましかった。

 ただ甘やかされている自分と違って、お姉様は期待されていたから。だから、わがままを言ってお姉様を困らせてやりたかった――というのが、エレンの本音だ。あと、お姉様と同じ物を身に付ければ、お姉様に近づける――という馬鹿な考えもあった。

 自分で言うのもなんだけど、なんとも捻くれた愛情だわ。


 ……と、話を戻して、お姉様とアドルフ様の婚約をどうにかして無くさないと。

 特にヴィンス様と会ってしまう前に事を終わらせなければ。そうでないとお姉様はヴィンス様を異性として見ない。もしくは、見ていても恋心を必死で抑え込むだろう。

 とても真面目な人だから。


 だから、どうにかしてアドルフ様の本性を暴かなければならない。

 腕を組んでしかめっ面でうーんうーんと漫画のコマ割りを思い出していると、小さいコマでいつも決まった曜日だけ、お姉様のエスコートをできない日が描かれていたのを思い出した。

 小さなコマだったから、きちんとした活字ではなく、作者の書いた文字で『その日は××の命日だから…』と書かれていたけど、その後のペイリー家の話で、その曜日はとある侯爵家の若き未亡人との逢瀬の日だった事が分かる。

 そう、確か、亡くなった侯爵が友人だという事で、彼を偲んで……とあるけど、そんなのは全くのでたらめで、未亡人とイチャイチャしていたのだった。未亡人のほうも若くして夫を亡くしたため、自分を思ってくれるアドルフ様を無碍にせず、週に1回のお楽しみの日になっていたはず。

 本来なら月命日だって多いはずなのにね。だから、表立って友人を偲んで――という事は言っていなかった。いつも適当な理由を言っていたけど、ペイリー家に婿に入った途端、もう隠す必要は無くなったばかりに、隠しもせずに会いに行っていた。

 亡くなった侯爵家の家名は確か……ハリーズ侯爵だ。ハリーズ侯爵は、一昨年お亡くなりになられたはず。という事は、すでに関係が始まっているのかもしれない。


 曜日は……たぶん、木曜だったはず。

 ……って、明後日じゃない。そういえば、お姉様が観劇がしたいと言っていたけど、断っていたわね。明後日行けない代わりに、明日、植物園へのデートの約束をしていたっけ。

 うーん……作戦を立てたいけど、時間が足りないわ。もう、その場でやるしかないわね。大丈夫、きっと出来るはず。今までのようにわがまま妹を演じればいいのだから。

 今まで迷惑をかけた分、お姉様には幸せになってもらうんだ。


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