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短編用として書いていたんですが、入れたいシーンとか増えてきたので、連載として始めました。
「わたしもそれが欲しいですわ! お姉様ばかりズルいです!」
お姉様が持つブローチを見て、わたくしは甲高い声で叫んだ。
「エレン、これはアドルフ様に頂いたものなの。あなたにあげるわけにはいかないわ。ごめんなさい」
「前だってアドルフ様にネックレスを頂いたじゃない!」
「それは当たり前でしょう。婚約者ですもの。エレンも婚約者が出来れば、その方からいただけるわ」
「わたしはそれが欲しいんです!」
お姉様の言う事はもっともだけど、わたしにはまだ婚約者は居ない。
お父様もお母様も、わたしを可愛がってくれていて、わたしをちゃんと幸せにしてくれる方を探しているとおっしゃってるの。
でも、今、婚約者が居ないのは事実で、お姉様が婚約者であるアドルフ様から贈り物を頂くたびに、それが欲しくてたまらなくなるの。
今だって、お姉様はブローチを大事そうに握り締めて、困惑した顔でわたしを見ている。
もうっ、何よ、何よ、何よ、自分は婚約者がいるからって……!
納得いかなくて、わたしはお姉様の手にあるブローチを取ろうとして、手を伸ばしたけれど、お姉様はわたしを避けるように動いて……運悪く、階段の上から、わたしは転げ落ちてしまった。
「エレン! しっかりして!」というお姉様の声を最後に、わたしの意識は途切れた。