41話 2人ぼっち
「おぉ……なんていうか、器用だな」
その夜、家をなくした2人は手頃な洞穴で日が昇るのを待つ事にした。
忍が声をあげたのは、先程まで上半身と下半身で別れていたセロスがそれらをくっつけたからだ。
焚き火を眺めながら2人は壁に背を持たれ並んでいた。
「見た目だけよ。ある程度衝撃が加われば簡単に脚が飛ぶわ。ふふ、それとも腕ナシと脚ナシの方がバランス取れていいかしら?」
うふふ、としたり顔でブラックジョークをかますセロス。忍は呆れた顔で突っ込まざるを得なかった。
「いや上手いこと言ったみたいな顔すんなよ。全然笑えねぇから!」
「器が小さい男はアレも粗末なのは本当らしいわね。まぁいいわ、貴方が粗末なものでも誰も困らないもの」
「俺を貶してないと生きていけないプログラムでもされてんのかよ」
と、そんな事を言ってるとセロスは急に真顔になり、
「下らない事言ってないで、これからの事でも考えなさい」
(理不尽もここまで来ると正義だな……)
「これからっつーと、さっき言ってた最初の自動人形だかコアだかか?」
グラキエスの人間がそれらを欲しがっている。忍はそのどちらも何に使うのかもまるで理解していない。しかし、はいそうですかと渡す訳にもいかない。
「そうね、と言いたい所だけれど、それは後回しでいいわ。まず魔法都市ウィズダムに向かうこと。まずは私の問題を全てそこで解決させる」
魔法都市ウィズダムといえば、各国から魔法使いや魔学者が集まり日々研鑽している都市だ。ピグマリオンが自動人形について多くの事を学んだ場所でもある。
「な、直せるのか!?」
「ええ、恐らくね。早朝直ぐに向かうわ。ウィズダムまで距離があるから、貴方は早く休む事ね」
忍はその言葉を聞くやいなやガバッと立ち上がり、
「今から行こう! 直るなら早い方が──おわっ」
と、言いかけた所で半ば強制的に再び下に引っ張られた。
グイと頭を押さえつけられる。頬に感じるのはひんやりと少し冷たいが柔らかな人工皮膚の感触。
「な、なにすんだよ」
突然の膝枕に赤面し、セロスの意図がわからない忍はしっかり声も裏返っていた。
セロスは不機嫌そうに眉間に皺を寄せ、むき直そうとする忍を力で押さえつけている。
「不細工な顔がより一層酷くなっているの気がついてないのかしら。いいから休みなさい」
確かに忍の顔は酷かった。目はくぼみ、クマもあり全体的にやつれている。ユキを亡くし、復讐をやり遂げ、そしてピグマリオンをも亡くした。短期間で色々とありすぎて、本人は誤魔化そうとしているが精神は限界をとうに超えていたのだ。
「……別に俺は」
「黙りなさい。この私が貴方みたいなグズの為にここまでしてやってるのよ。一生感謝してもいいくらいだわ。断るなんて論外よ、論外」
今の体勢は俗に言う膝枕だ。口ではボロカスに言っているがセロスなりの優しさなのだろう。
気恥ずかしさを感じながら、忍は彼女の優しさを受けいれた。少しの間、
「セロス」
「何よ」
「……ありがとな」
「ふん、分かればいいのよ」
この毒々しい優しさが心地よかったのか、疲れきっていた忍はすぐに寝てしまった。
スースーと寝息を立てる忍を見て、普段からは考えられないような柔らかな微笑みを見せた。
「全く、本当によく帰ってきたわ。よく頑張ったのね。忍……私といると貴方はこれからもっと面倒な事に巻き込まれる。それでもきっと貴方はこの醜い濁りの中を進んでいくのよね」
すやすやと寝ている忍の頭を撫でながら、彼女は誰に言うでもなく呟いた。
「ねぇ、忍」
そして両手でそっと彼を抱き、一筋の涙を流した。
そのタイミングでメラメラと燃えていた火が小さく消えていき、やがて洞穴は暗闇が支配した。
「貴方は……私を置いて逝かないでね」
壊れかけの自動人形の言葉は静寂が包む暗闇の中で小さく木霊した。
続きを書くつもりではいますが少し忙しいので、とりあえず第一部完結と共に、一旦完結とします。
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また、最後まで読んでいただき本当にありがとうございました!
配信日はまだ未定ですが、コミカライズ版も是非よろしくお願いします!




