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38話 手紙


ケイトと別れた忍は抑えきれない高揚感を解放し、清々しい気分で帰路に着いた。

と言っても廃棄の森まではかなりの距離がある。

早朝、アルマールで一泊し十分な休息をとった。


勿論泊まった宿はユキと出会ったユウナギだ。

ここに泊まるのは少し躊躇ったが、ユウナギに行かなければならない気がした。

たった三日かそこらなのに、アルエに会うのはとても久しぶりに思えた。


彼女はユキの事や忍自身のことも何も聞かずに快く泊めてくれた。

忍にはそれが有難かった。なんと伝えればいいのか、そもそも伝えるべきなのか分からなかったからだ。


目が覚め外を見ると日が沈み始めた頃で、もう少し休みたい気持ちもあったが、それよりも早く二人に会いたくてすぐに出ることにした。


支払いを済ませユウナギを出ようとすると、アルエに呼び止められた。


「これ、あの子からあんたにだよ」

「え?」


差し出されたのは一通の手紙だった。差出人はユキだ。

王都での騒動は当然このアルマールにも届いている。ガメリオンの王女が処刑されたこと、何者かがテロ行為を行った事、そして要人が殺された事。


よくみるとアルエの目はほんのり赤かった。彼女はユキが死んだ事を知ってしまったのかもしれない。

そう思うと胸が痛かった。自分がそばにいたのに、助けられたはずなのに、油断して目を離したから彼女は死んでしまった。


「忍、あんたは……あんたは死ぬじゃないよ。またいつでもおいで」

「あ、ああ……あり、がとう」


手紙を受けとり逃げるように外に出た。アルエの優しさが痛い。彼女はユキを知っていて、どういう人間かもよく理解していたから。


(ユキ……すまない)


手紙をそっとしまい、廃棄の森付近を通る馬車に乗った。直接廃棄の森に向かう馬車などあるはずもないので、途中までの乗車だ。

忍は金を多めに払い、貸し切りにした。復讐をやり遂げた高揚感とユキを失ったそう質感、そして守れなかった罪悪感で頭の中がぐちゃぐちゃだったから。



ガタゴトと揺れる中、忍はようやく預かった手紙を開く決心がついた。


「律儀に手紙なんて書きやがって……直接言えよ馬鹿野郎」


恐らくこの手紙は忍と別れ、彼女が王都に着いたタイミングで出されたものだ。捕まる前に、捕まるつもりで書いたのだ。


『忍くんへ


ふふ、驚いた? きっと忍くんならいつかユウナギによるかもって思ったの! 忍くんはいつも馬鹿にしてたけど、私結構頭いいんだよーだ!


この手紙を書いたのはね、ちゃんとお別れを出来なかったから、最期にそれくらいはしたくって。


ごめんね。きっとこの手紙を読んでる頃には私は皆の所にいると思う。


どうしても耐えきれなくって、やっぱり怖いんだ。

でもね、忍くんが死なないって言ってくれたのすっごく嬉しかったんだ! こんな私にもそんな事言ってくれる人がまだ居たんだって、嬉しかったの。


それに忍くん、すっごく強いでしょ? だから一緒にいるときっと私のために戦っちゃうかもって思って。なんて、思い上がりすぎかな?


だからね、1人で行く事にしたの。


きっと私は処刑される。死ぬのは怖いよ。でもね、私みたいな人間はこの世界で生きていくのに向いてないと思うんだ。

だってそうでしょう? みんなが笑って誰も争わないで、人間も亜人も手を取り合うなんて、そんな事本気で考えてるんだもの。笑っちゃうよね。


私の国、ガメリオンは戦争に負けちゃったから、みんな死んじゃった。たった1人生き残って、例え夢を叶えてもきっと私はどこかで……


忍くんは口がわるいけど、すっごく優しい人なんだって私知ってるよ。だから君は私が死んだら責任を感じてしまうよね。

でも本当にこれは私の意思だから、気に病まないで欲しいの。


短い間だったけど、私は君と過ごせて幸せでした。話を聞いてくれて、励ましてくれて、眠れない夜に手を握ってくれたこと、君の優しい温もりはきっとずっと忘れないよ。


ちょっとだけ生きてみようかなって思っちゃうほど、君は私に幸せをくれました。


一緒にいてくれて、本当にありがとう。


この先君が私の事をずっと覚えていてくれたら嬉しいな。なんて、我儘だよね。


それじゃあ忍くん、さよなら。君は生きてね。ありがとう。


ユキ』


「ユキ……うぅ、くぅ……」


それから忍はしばらくの間、わんわん泣いた。

あの時ユキを救えなかった光景がフラッシュバックして、心が張り裂けそうだった。


後悔ばかりが頭を巡る。


復讐なんかよりも彼女を最優先すればよかった。


ほんの少しでも目を離さなければよかった。


もっとちゃんと、彼女と向き合うべきだった。


忍は喉が枯れるまで恥ずかしげもなく声を上げて泣いた。

そうして手紙を握りしめて、まだなにか入っていることに気が付いた。


「指輪……?」


黄色の宝石が埋め込まれた指輪だ。丁寧にガメリオンの紋章が刻まれている。

よく見ると、もう1枚、今度は紙の切れ端が入っていた。


『これは代々伝わるお守りの指輪です。いつかきっと、忍くんを守ってくれるよ』


「はは、馬鹿。それなら……お前が着けとけよ」


言いながらも忍は左手の人差し指に指輪をつけた。


まだまだ揺れる馬車の中、忍はまた涙を流した。

気が付けば泣き疲れて眠ってしまった。

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