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21話 スラム街の情報屋


あれから約半日後、忍はようやく王都イリオスへと到着した。

アルマール同様、警備兵が立っていたが盗賊に襲われたと言って無事に入ることができた。

なんの手荷物もなく、ボロボロのローブを着ていたので説得力としては十分だった。


中に入ると王都は思いのほか賑わってはいなかった。

人自体は多く、賑わっているように見えるが皆一様に表情は暗い。

ユキを探すついでに色々と見て回ると壊れかけた橋があり、その先である西端に位置する区域は中々酷いものだった。


一言で言い表すならばスラム街。

なぜ王都にこのような場所が存在するのか。

住人の殆どは忍と同じようなボロ布をまとい、家と呼ぶにはお粗末な小屋に近い建物で寝泊まりをしているみたいだ。


「貧富の差、なんてレベルじゃねぇな。意図的にスラム街をつくってんのか? でも、俺にとっちゃ都合がいいか」


このスラム街ならば忍が紛れていても気に止める者はいないはずだ。今の格好も酷いので潜伏先としてはうってつけなのだ。


忍の今後の予定は大きく分けて二つ。

一つは言うまでもなく、城内に侵入しシュメルやマルクスへ復讐を果たす事。


ただこれも口で言うのは簡単だが、細密な計画が必要になってくる。

散策がてらに城付近も見て回ったが、入口と呼べるのはおよそ正門のみ。そしてここには当然の様に門兵が目を光らせている。


仮に正門を突破したとしても中には多くの敵が闊歩しているはずで、内部構造もわからない忍がシュメルの元へ辿り着くのはあまり現実的ではない。

多少時間をかけてでも情報を手に入れる必要がある。


そしてもう一つは、


「ユキ……あいつ、どこ行きやがった」


そう、彼女の捜索だ。こちらも闇雲に探しても見つかる訳がない。

聞きこみ調査が必須だが、時間をかけすぎるとイリオス兵に捕らえられてしまう可能性がある。

あるいは、もう──


「くそ!」


苛立っていた。何故会ったばかりの彼女が頭から離れないのか。

見捨ててしまえば簡単なはずなのに。どうしてそれが出来ないのかわからない。


「二日だ。どの道城の内部情報も必要だ。それまでに見つけられなかったら……忘れよう」


スラム街を歩きながらボヤいていると、路地裏の闇から誰かがこちらを見ていることに気が付いた。


フードを深く被っていて顔こそ良く見えないが、頭部には小さく二つの山ができている。

鉄製の首輪を付けており、袖から出た手には灰色の体毛と獣のような鋭利な爪。


(獣人か? なんで王都なんかに……)


忍が気付いたと同時に、獣人はこちらへ向かってゆっくりと歩いてきた。

今の所敵意はなさそうだが、油断は禁物だ。


念の為、いつでも動けるようにしておくと、


「──何故お前から王女の匂いがする……!」

「は? 王女の匂いって……ああ、ユキの事か」


忍は一瞬呆けた顔をしたが、すぐにそれがユキの事だとわかった。


「ユキ様は……生きているのか!?」


信じられないと言った様子で忍の肩を掴んだ。

ユキ様と言っているということは、彼はガメリオンの生き残りなのだろうか。だとしたら彼が危険地域になるはずの王都にいる理由が謎だった。


ただでさえ獣人というだけで迫害されてしまうのに、戦争相手の喉元に居るなんて自殺行為としか思えない。


「うわっ、なんだよいきなり! 生きてる、とは思うけど……どっかいっちまって、正直わからない」


それを聞くと彼は少し残念そうな顔をした。


「そうか……いきないりですまないが話を聞かせて欲しい。俺はケイトだ、主の所へ案内させてくれ」


(あれ、ケイトって確か……)


聞き覚えのある名前に少し考えたが、答えを出す前にケイトは着いてこいと言わんばかりに歩き出した。


(いや、行くなんて言ってねーんだけど)


とは思ったものの、共通の知り合いがいるのはある意味安心感がある。

それに色々と情報が不足している中、ここに住む(でいるのかは定かではないが)人間と接点ができるのは悪いことではない。

これも何かの縁かと思い、とりあえずついて行くことにした。


スラム街を歩くこと数分、ケイトがある建物の前で立ち止まった。


「ついたぞ。ここが主の店だ」

「雑貨屋……?」


そこには汚い文字で”雑貨屋”と書かれていた。特に変わった様子もなく、スラム街に似合うボロい店と言った印象だった。


「表向きはな」


雑貨屋の入口を通過して裏手に回ると、物置小屋があった。

軋む扉を開け、なんだかよく分からない荷物をどかすと地下への隠し扉があった。


(どうもまともな相手じゃなさそうだな)


隠し扉がある事はまだいいとして、非常時でもないのにその先にいるというのはどこか胡散臭い。

念の為警戒しておいた方がいいだろう。


扉の先には階段が続いており、あまり使われていないせいか埃っぽい。左右の壁には光球が点在し、明るさは問題なかった。


階段は思ったよりも長く、カツカツと二人の足音だけが木霊した。

そんな中、やっと階段が終わり重厚な扉が姿を現した。


ケイトは扉の何ヶ所かを軽く触れると、不思議な事に扉は独りでに開き始めた。


(おお、こんな仕掛けもあるのか。スラム街にしちゃ随分凝ってるな)


扉の先は豪邸の一室かと錯覚する位に広く、そして整っていた。

部屋の隅にある壺や、床に敷かれたカーペット、飾られた絵画、素人目にもそのどれもが高級品だとわかる。


そして部屋の中央で、こちらに背を向けて誰かが座っている。


「ケイト、誰を連れてきたのだ」


しゃがれた声だ。あの豪奢な椅子に座っているのは老人らしい。それも、かなり歳のいった。


「はい、この者はユキ様と行動していたみたいで……」

「なんと……! ケイトよ、諦めずにいたかいがあったな」


老人は立ち上がると、杖をつきよろ着きながらもこちらへと歩み寄ってきた。

ケイトが獣人なのでもしかしたらと思っていたが、どうやら考えすぎだったようだ。


丸々と太った体つきで、いつから伸ばしているのか腹辺りまで伸びた白いヒゲはキチンと手入れされている。

頬まで伸びた白髪に、古びた銀色の眼鏡。レンズ越しに見えるつぶらな瞳は、なんだか可愛らしくも見える。


「あー……喜んでるところ悪いんだけど、これどういう状況?」


未だよくわかっていない忍は、堪えきれずに口を開いた。


「おお、すまないな若者よ。私はジバルという者だ。名前を聞かせてくれないか?」

「俺は忍だ。昨日までユキと一緒にいたんだけど、朝起きたらいなくなっちまって……探してるんだ。それより、あんたらユキとどういう関係なんだ?」

「ふむ、なるほどの……」


それからジバルは色々と話を聞かせてくれた。まず、ジバルはこのスラム街で裏の情報屋として生きてきた事。

際どい商売ではあるが需要はかなりあるらしく、裏の世界ではそこそこ名が通っているとのこと。


ケイトは元々ガメリオンの騎士団に所属していたらしい。それも第二王女であるユキに与えられた部隊だ。

だがイリオスとの戦争の最中に所属していた騎士団は壊滅し、捕虜として捕らえられてしまった。


拷問を受けながらも、なんとか隙を見て逃げた先のスラム街で力尽き、ジバルに拾われたのだ。

それから表向きは獣人の奴隷として、情報屋稼業を手伝いながらイリオスの情報をガメリオンに流していたのだ。


だがそんな努力も虚しく、ガメリオンは滅んでしまった。


ユキとジバルは直接的な関係こそないが、最も信頼のおける相棒の真の主という事で色々と情報を集めをしてくれていたのだ。


ガメリオンの王族を一人の逃がしてしまったと情報が入り、捜索していた所、たまたま忍と出会ったという訳だ。


「なるほどな。でもさっきも言った通り、俺にもアイツがどこに行ったのかわからないんだ」


そう、結局はそこで止まってしまうのだ。

ユキが王都に入ったのは恐らく数時間前。いくら情報屋と言っても、そんな都合よく情報は手に入れる事はできない。


「の、ようだな。それでは忍君は何故王都に? 何か確固たる目的があるようにも見えるが……?」


人の良い老人だと思っていたが、案外感がいい。

キラリと光る瞳に全てを見透かされそうですぐに目を逸らしてしまった。


(さすがに言えないな。もし、チクられたら復讐どころか俺の命まで危うい)


この国の中枢を担う人物を殺そうとしているなど、おいそれと言える内容ではない。今会ったばかりの、しかも得体の知れない相手なら尚更だ。


「なるほど。──復讐、か」


決して忍が口にしていなかった言葉は、代わりにジバルの口から出てきた。

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