9 優秀な魔法使い
「驚いた顔をして、どうした」
「いえ…まさか今晩も夕食をご一緒して頂けるとは思わなかったもので」
目の前の美しい生き物に内心ドキドキしながらスープを口へと運ぶ。
「熱っ!」
「大丈夫か?食事は出来立てを用意させているから気を付けて食べなさい」
「そ、そうですね…お恥ずかしい限りです」
そう言って私は口の中に氷魔法を発生させ火傷の傷を冷やす。
「器用なものだな。それだけの魔力があれば人間界では敵なしだったろう」
「私は公爵家の人間でしたから戦地に赴く事はありませんでしたわ。護衛の騎士の方達もいましたし、正直魔法が役に立つ事はあまりありませんでした」
「それは勿体無いな。しかし訓練はしていたのだろう?でなければそんな繊細なコントロールはできないはずだ」
「私は皇太子妃になる予定でしたので、万が一皇太子様に何かあれば刺し違えてもお護りするようにと厳しい修行をつんで参りました。活かされる事はありませんでしたが…」
(いけない、まるでアーヴァイン様のところへ来たせいだと聞こえるような言い方をしてしまったわ)
私が訂正の言葉を思いつくより早くアーヴァイン様が口を開いた。
「この世界では魔法を自在に扱える者は例外なく尊敬の対象となる。君が非力な人間だとしてもそれだけ魔法が使えるのなら虐げられることもない。望むなら城を出て街で暮らす事もできるだろう。君の行く先をゆっくり考えるといい」
(あ…また優しい目…でもなんだか寂しそうだわ)
「いえ、私はアーヴァイン様のお側において頂きたいですわ。花嫁になることもまだ諦めておりませんのよ」
フフン、と得意げな顔をしてアーヴァイン様を見つめてみる。
「ーーー君は本当に変わらないな」
聞こえるか聞こえないかの声で彼は呟いた。
「はぁああ、やっぱりアーヴァイン様の前にいると緊張するわね」
部屋に戻るなりラミレスに愚痴をこぼす。
(だって美しすぎるんだもん)
「そうですか?陛下はとてもリラックスされていましたよ。普段はあんなに喋るお方ではないのです。ルヴィリア様には興味を抱かれているようですね」
(そうだといいけど…アーヴァイン様の笑顔一つ見れていないからなぁ)
「ラミレスに聞きたいことがあるのだけれど。神さまの家族って絵本知ってる?」
「有名な童話ですね。もちろん存じておりますよ」
「あれって本当のことなの?それともおとぎ話?」
「実際に見てきたわけではありませんが、真実とされていますよ。現に陛下はこの国ができた時からずっと変わらず王位につかれているはずです。我々竜人の中でもそこまで長生きできる者はおりません」
「本当に神様と竜人のハーフってことなのかしら…詳しく聞いた事はないの?」
「私どもは陛下に簡単に話しかけられる立場ではございませんから。気になるのでしたら直接伺ってみればいかがですか?ルヴィリア様にでしたらお話し頂けるかもしれませんよ」
「ほぼ初対面でそんな複雑な家庭の事情に踏み込むのは気後れするわね…もう少し親密になってから聞くことにするわ」
ラミレスは目を丸くする。
「本当に陛下の奥方になられる気なのですね」
「もちろんそうよ。私はそのためにここに来たのだから」