5 竜の王国
「わぁ…!とっても美しいですね」
ゲートを抜けるとそこには王城らしき白い建物が見えた。
城下町の方を見るとそちらも白で統一された建物達でできていて、厳かな雰囲気を出している。
「ここが君の滞在する城になる。後で簡単に案内をさせるから、とりあえず君が使うことになる部屋へ行くといい。ラミレス」
「はい、陛下」
どこからともなく青い髪の女性が現れた。竜王様程ではないにしろ、とても美しい女性だった。
(竜人達はみんなこんなに美しいのかしら…?)
「彼女に部屋と着替えを。いつまでも花嫁の装いをされていては困る。後は任せたぞ」
「かしこまりました」
「では後は彼女に聞いてくれ」
「お待ち下さい!竜王様のお名前を教えて頂けませんか…?」
「ーーーアーヴァインだ。それでは」
竜王様…アーヴァイン様は再び光の中に消えて行ってしまった。
(お一人だとゲートを使わずに移動できるのね。先程は私のためにゲートを開いてくださったんだわ)
「お嬢様、城の中へご案内致します」
「ありがとうございます。私はルヴィリアと申します。これから宜しくお願いしますね」
「それではルヴィリア様、参りましょう」
ラミレスと呼ばれた侍女が私の歩調に合わせてお城への道を歩いていく。
近くで見るとますます美しいお城だ。
豪華ではないが洗練された印象の造作はアーヴァイン様の纏う雰囲気と似ている。
城の中に入ると大きなシャンデリアがあり、上層へと続く大きな階段があった。
「お足元にお気を付け下さい」
ウェディングドレスのせいで動きにくいことを心配してくれているのだろう。
確かにこの装いは重いし階段を昇るのは正直しんどいがおくびにもださずラミレスに着いていく。
「ルヴィリア様がお使いになる客間はこちらになります」
中へ入ると天蓋のかかった大きな寝台と小さな机、ソファがあった。
「ありがとうラミレス。こちらのお城にはよくお客様がいらっしゃるの?とても綺麗にしてあるけれど」
「そうですね、数十年に一度くらいでしょうか」
「そんなに少ないのにこれだけ綺麗にしてあるの?!凄いわ、このお城の侍女達はとても働き者なのね」
「我々竜人族は人間と違って長命ですので、数十年というスパンはそれほど長いものではないのですよ」
「まぁ、そうなのね。長命というとどのくらいなのかしら?」
「200年から300年ほどでしょうか。竜の血が濃いものほど寿命は長くなります。陛下は例外でほぼ不老不死です」
(不老不死…それってとても寂しそうだわ)
考えが顔に出ていたようでラミレスはふっと微笑む。
「お優しい方ですね。普通は羨ましがるものですよ。さて、お話しはこれくらいにして、しばらくお休み下さい。いくつかお着替えを見繕って参ります」
「わかったわ、お願いするわね」
「はい、それでは」
ラミレスは一礼すると部屋を出て行った。
ソファに腰掛けるとどっと疲れがでてきた。
(アーヴァイン様は終始困った顔をなされていたわね)
彫刻のように美しい彼が憂いを帯びた表情をしているとますます美しいのだが。
それにしても困ったことになった。
ヴィストリアに帰りたくないと言えば嘘になるが、聖女としての務めをなさなかった私ではどんな目に合うかわからない。
それにここへくる前に全てを捨てる覚悟を決めてやってきたのだ。
(花嫁にならずともヴィストリアのことを守護して下さると仰っていたわね…そうすると私にできることは何かしら…?)
考えがまとまらないまま時は過ぎ、扉をノックされる音で我に帰る。
「ルヴィリア様、夕食の用意が整いました。お召し物をお持ちしましたのでお着替えになって下さい」
「ありがとう。すぐに着替えるわ」
華美ではないが繊細な造りのドレスを受け取り着替えを手伝ってもらう。
「参りましょう」
ラミレスの後をついて夕食の間へと向かった。