3 覚悟
何も考えられないまま家に着いた。
迎えに出てきてくれた両親に辛い報告をする。
「お父様、お母様。私聖女になってしまいました。もう一緒に暮らすことはできません。二度と会うことも叶いません。親不孝者のルヴィリアをどうかお許しください」
動揺した様子の二人だったが、すぐに笑顔になる。
「なんということだ。ルヴィ、よくやったね。我がヴァレンティ家から聖女が選ばれるとは。鼻が高いよ」
「そうよ、ルヴィ。竜王様の花嫁になれるなんて最高の栄誉だわ。確かに離れ離れにはなってしまうけれど、私たちはずっと貴女の幸せを祈っているわ」
「そうです…ね…」
喜んでいる両親を見て少し悲しくなってしまった。
私の居場所はもうこの国にはないのだ。
誰も願っていない。
そう思うととても寂しくなって泣きそうになってしまうが、気持ちを切り替えて前に進まなければならない。
「そうと決まったら花嫁に相応しい装いが必要だね。オーダーメイドは間に合わないから既製品のドレスを買うとしよう。純白のウェディングドレスがいいだろう」
「それがいいわ。すぐに商人に声をかけるわね。明日の午前中にはドレスを持ってくるでしょう」
「ありがとうございます。私今日は疲れたのでもう休ませて頂けますでしょうか」
「もちろんだよ。明日に備えてゆっくり休むといい」
「それでは失礼します」
目眩を覚えながらもなんとか自室にたどり着いた。
「お嬢様…」
話を聞いたであろうエミリアが悲痛な表情で声をかけてきた。
「まずはおめでとうございます。でも、こんなことになるなんて…お嬢様はハインケル殿下とのご結婚をあんなに楽しみにされていましたのに。私も天界までは着いていけません。寂しいです」
瞳を潤ませてエミリアがそう言った。
「そう言ってくれるのはエミリアだけだわ。みんなめでたいことだと言うけれど、私は聖女になんてなりたくなかった。竜王様がどんな方かはわからないけれど、見知らぬ方に突然嫁げと言われても嫌だとしか思えないわ。例え我々を守護して下さっている竜王様だとしてもね」
「ならお嬢様、このまま逃げてしまってはいかがですか?私もお供致します。厳しい生活になると思いますが、自由です。誰にも縛られることなく生きられます」
ぐっと唇を噛み締めて言葉を絞り出す。
「そうできたらどんなにいい事かしら。でもね、それはできないわ。私が聖女であるならば、竜王様の所へ行かないとこの国に何が起こるかわからないもの。守護がなくなってしまえば、他の国に侵略されてしまうかもしれないわ。后になるはずだった私は、違う方法で国を守ることになっただけよ」
そう、私はこの国を守るために天界へ行かねばならない。例え生贄だったとしても、それが私の使命なのだから。
「しばらく横になるわ」
「わかりました。ゆっくりお休み下さい」
目に涙を浮かべたエミリアが愛おしくて嬉しくて、私まで目が熱くなる。
寝台に横になるとすぐに睡魔に襲われ眠りについた。