15 新しい婚約者
「何考えてるのよ!!こんな貧相なドレスが私に似合うわけないでしょう!!作り直してきなさい!!」
客間から女性の怒鳴り声が聞こえる。
(これが聖女様…?なんだか想像と違うわね)
ガチャリとドアが開き額に冷や汗を浮かべた裁縫屋がドレスを持ってでてくる。
その隙に部屋に入ると赤毛に茶色い眼をした女性がソファに踏ん反り返っていた。
「あーあいつマジで使えない。あたしにあんなダッサいドレス着ろなんて本気で言ってるのかよ。聖女様はおしとやかに、なんて言われるけど性に合わないっつーの」
(こ、これはなんてひどい…)
余りの言葉遣いの悪さに眩暈がしてくる。
(こんな人が聖女様なの…?!)
私の言いたい事をくんでシリウスが頷く。
「間違いなくコイツが聖女だな」
どうやら喋っても平気なようなので私も口を開く。
「こんなことってあるの?!聖女様は尊い存在で慈愛に満ちていて民を護って下さる存在だと言われているのよ?!」
改めてソファにいる女性を見るも、ガラの悪い酒場にいそうな人間にしか見えない。
コンコン、とノックの音がして聴き慣れた声が聞こえてきた。
「マリア、僕だよ。入ってもいいかい?」
(ハインケル様…!)
マリアと呼ばれた目の前の女性は慌てて姿勢を正しさっきまでとは別人のような声で返事をする。
「えぇ、もちろんよ」
ガチャリとドアが開いてハインケル様が入ってくる。
「ドレスが気に入らなかったと聞いたよ。聖女らしい清らかなデザインできっと似合うと思ったんだけどダメだったかな?」
「私は卑しい身分の出だからなるべく華やかなもので着飾りたくて。少しでも立派な女性に見せたいの」
さもか弱い乙女のように瞳を潤ませて意地らしい女性を演出している。
「身分だなんて関係ないよ。それに今は養子に入って公爵令嬢じゃないか。気にすることなんて何もないよ」
「でも、ルヴィリア様は大変美しい方だったでしょう?このままの私では見劣りしてしまうわ…」
「そんなことはないよ。マリアだってとても美しい。これからは僕の妻になるんだから、もっと自信を持って欲しいな」
「ハインケル…私、幸せよ。ルヴィリア様には悪い事をしたけれど、こうしてハインケルと一緒になれる日がくるなんて、夢のようだわ」
「僕も幸せだよ。僕が愛しているのはマリアただ1人だからね。ルヴィの事はもう忘れていい。きっと天界で幸せにやっているさ。公務があるから僕はこれで。あまりわがままを言って周りを困らせすぎないようにね。じゃぁまた夜に」
ハインケル様は手をヒラヒラさせて部屋から出ていった。
「あぁ〜めんどくせ〜。確かに金持ちに取り入ろうとはしたけど、まさか皇子様だったとは思わないじゃんか。毎日食べるモノには困らねぇけど妃教育ばっかりで窮屈でしょうがねぇ」
二重人格を疑う程の変貌っぷりだ。
ハインケル様はこんな女に騙されているのね…どうにかして伝えなければ。
「このまま放ってはおけないわ!卑しい身分だと言っていたしそもそもどうやってハインケル様と出会ったのかしら。なんとかして結婚をとりやめさせないと…」
「コイツの過去を覗いてみるか?」
「そんな事ができるの?!」
「俺にできない事はない。と言いたいがまぁ少しはあるかな。記憶を遡るくらいは簡単にできるさ」
「お願い、彼女の記憶を見せて!」
「お安いご用だ」
そう言ってシリウスはパチンと指を鳴らした。




