11 髪飾り
マーケットと呼ばれる一帯に着くと活気のある喧騒が聞こえてくる。
「あれ、国王陛下じゃないか…?」
「どうしてこんなところに?」
「人間を連れてるぞ」
「誰よあの女?!」
(アーヴァイン様、全然大丈夫じゃないじゃないですかー!大混乱ですよ…。そして女性からの視線が痛い…それもそうよね、この美しさじゃ女性ファンもいますよね…)
「皆の者、気にせず続けてくれ。普段の町の様子が見たいだけだ」
「陛下!それでしたらうちの名産品のリンゴ飴を食べてって下さいな!」
耳の長い綺麗な女性から声をかけられる。
(彼女はエルフかしら…?リンゴはわかるけどリンゴ飴って何?)
私が不思議そうに見つめているとアーヴァイン様が一つ手にとってくれた。
「アーヴァイン様、私お金を持っておりませんわ」
「気にする必要はない」
「施しを受けるのは抵抗が…いえ、ここはありがたく頂きますわ。私このリンゴ飴?にとっても興味が湧きましたの!」
リンゴの表面はツヤツヤとしていて何かでコーティングされているようだった。
(リンゴ飴というくらいだから飴を使っているのかしら…)
意を決して口にいれてみるとガキンっと音がした。
(なにこれ、硬い!!これは確かに飴だわ…)
全く噛めずに食べられなかった私を見てアーヴァイン様がくすっと笑う。
(あ、笑った…いや、笑われた、が正しいかしら…)
「公爵令嬢らしくない食べっぷりだな。ヒビを入れてからかじるといい」
そう言うとパチンと指を鳴らしてリンゴ飴の表面に細かい亀裂をいれてくれた。
(は、恥ずかしい…最初に言って下さればいいのに…)
アーヴァイン様の新たな一面を見れたようで嬉しくもあり恥ずかしくもあり複雑な心境だった。
「ヘソを曲げないでくれ。どんな反応をするか見てみたかっただけだ」
そう言うとアーヴァイン様は私の頭をポンポンとした。
一瞬ドキッとするも、子供扱いされているだけのような気もする。
というか、周りの女性たちの目が痛い…
「アーヴァイン様、あちらへ行きましょう!あそこに綺麗な工芸品がありますよ!」
「あれはドワーフの店だな。彼らは手先が器用だからこうして宝飾品や調度品などを作ることを生業としている」
「本当だ…!とても綺麗な物ばかりです。ヴィストリアではこんなに細かい装飾見たことありませんわ」
「おう姉ちゃん、お目が高いな。世界中のどこを探したってドワーフより美しい物を作れるやつなんか見つかりっこないぜ。ここにあるのはドワーフの中でも一流の職人が作ったものだ。良かったら一つどうだい?」
「どれも本当に美しいのですけれど、私お金がありませんで…」
「代金なら気にしなくて良いと言ったはずだぞ。君は遠慮しそうだから私が選ぼう。…この髪飾りをもらおうか」
アーヴァイン様は銀色に青い宝石のついた繊細な髪飾りを手に取った。
「そ、そんな宝石のついた高そうなもの頂けませんわ」
「君の瞳の色と同じで美しいと思ったのだが不満か?」
「いえ、そういうわけではなく、大変魅力的ではあるのですがっ…」
「ならば問題はないだろう。私が君に贈りたいのだよ」
「そんなこと言われたら断れませんわ…ありがとうございます」
アーヴァイン様は半ば強引に、しかし優しく私の髪に髪飾りをつけてくれた。




