10 城下町
今日はラミレスも忙しく側仕えができないらしいので庭園に行ってみることにした。
花畑の見える木陰で微睡んでいると、低くて心地よい声が聞こえた。
「こんな所で何をしている?退屈しているのか?」
「アーヴァイン様!こちらへ良くいらっしゃるとは聞いていましたがまさかお会いできるとは思いませんでしたわ」
「私でもたまには息抜きくらいする。それに今日は仕事が少ないのでな」
「そうなのですね。今日はラミレスと城下町に行く予定だったんですけれど急用が入ってしまったみたいで。良い天気でしたのでこうして休んでおりました」
「ほう…城下町か。たまには民に顔を見せるのも悪くない。私が連れて行ってやろう」
「え?!アーヴァイン様がですか?それはとても嬉しいですが…ご公務は大丈夫なのですか?」
「一日くらいサボってもいいだろう。せっかくの天気だしな。それで、行くのか?行かないのか?」
「行きますっ!」
思ってもみないところでアーヴァイン様と出かけることになってしまった。
(私、この方の隣を歩いて大丈夫かしら…?これってデート…ではないわよね、さすがに)
「私ローブをとって参ります」
アーヴァイン様が不思議そうな顔をする。
「ラミレスから、人間は珍しいからローブを着た方がいいと言われていたので…」
「そんなことか。私と一緒にいれば問題ない。みな敬意を持って接してくれるだろう」
(そういうものなのかしら…?まぁいらないと言うのならいいわよね)
「それでは行こうか」
スッと手を差し出される。
「えっとーーー?」
「町の入り口まで転移する。私に触れていれば君も連れて行けるから手を掴んでくれ」
「は、はい」
ドギマギしながら白魚のような美しい手に自分の手を重ねる。
ひんやりと冷たい彼の手に掴まれて光の波に飲まれた。
「着いたぞ」
「わあ…!」
そこには白く美しい家達が立ち並んでいた。
町の至る所に水路があり、舟での移動がメインのようだ。
「アーヴァイン様!あちらに見えるのはなんですか?」
「あれはマーケットだな。主に他種族の者達が屋台で色々な物を売っている」
「あちらは?!」
「向こうは町のメインストリートだ。先程とは違い竜人達が店を構えている。どちらに行きたい?」
「両方捨てがたいです…うーん」
「ならば両方行けばいい。マーケットから回ろう」
「いいんですか?とっても嬉しいです!」
私はアーヴァイン様の前だということも忘れて声を弾ませた。




