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「弟子? 弟子ってなんの?」
「決まっとるやろ、焼き鳥職人の弟子や」
おじさんは腕組みをしたまま固まって、やがて首をかしげた。
「ちょっと意味が分からないな」
「給料とかいらへんねん」
「給料が、いらない?」
「おじさんの手の空いている、店の暇な時に焼き鳥の作り方を教えてくれるだけでええねん。子供は仕事ってできひんのやろ? だからボランティアでええねん。それで鍛えてもろうて、中学卒業したらあの店で雇って欲しいねん」
おじさんは慌てた。
「いやそれは――君今いくつなの?」
「十歳」
「いやいや! 十歳の子に、社会体験学習でもないのに仕事をさせるっていうのは、とてもじゃないけどできないよ」
「だからボランティアでええって」
「ボラン……なんでそんなことをしたいの?」
くすんでいた少年の瞳に光が差した。
「かっこよかってん」
「うん?」
「おじさんが焼き場で焼き鳥焼く姿、めちゃめちゃかっこよかってん。ほんま、男って感じがしてん。それであの焼き鳥の味やろ? 絶対、僕もああいう焼き鳥をかっこよく焼ける人になろうって思って」
そう、瞳を輝かせて言うのであった。おじさんは困惑しながらも、体が熱くなるのを感じた。
「そう、そうなんだ」
「だからお願いします! 弟子にしてください!」
少年はペコリ、と頭を下げた。おじさんは嬉しさと迷惑を同時に覚えた。
「うん……でもね、俺には君を働かせる権利はないし、法律的にも……じゃあこうしようか、君が中学を卒業してもまだ焼き鳥屋で働きたいと思っていたら、高校に通いながらうちでアルバイトをするといい。採用時の面接のアピールは、俺からもプッシュしてあげる。いい? 絶対高校には行くんだよ。行きながらでも、アルバイトはできるんだから。そうなったら、できる限り指導はするよ。
それから……そうだな、今できることは少ないけど、毎週水曜に君はイオンに夕飯のおかず買いに来るんだよね? 俺、だいたい平日は五時上がりで、五時過ぎにこのテーブルで少し休んでから帰るから、その時来てくれれば焼き鳥の串打ちのコツとか焼き方のコツとか、口頭で伝えられることは伝えるよ。それでどう?」
少年はくしゃくしゃっと顔をほころばせて、
「それでいいです! ありがとうございます、師匠!」
と叫んだ。その声はまた周囲の注目を集めてしまい、おじさんは内心辟易しながら、
(子供の考えることだ、しばらく経てば飽きてこの子の方から情熱を失くすだろう)
と思った。