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年が明けた一月三日に、幼馴染の二人はイオンに行くことになった。その日少年と母親はアパートからほど近い、S市T町の実家に帰省していた。母親は少年を実家に置いて、例のごとく師匠の仕事が終わる十七時に間に合うよう、時間を合わせて実家を出た。
ワゴンRに乗り、二軒隣の由希姉の実家に着けた。電話で由希姉を呼び出し、助手席に乗せてイオンへ向かう。イオンは二人の実家から車で三分もかからない。
イオンに入るとそこは正月休みの人でごった返していた。キャメルのコートに身を包んだ由希姉は、ブーツの底をカツカツ鳴らして他の客たちの間を縫って早足で焼き鳥店に向かった。母親はせわしなくその後を追った。
師匠は店の調理場で焼き鳥を焼いていた。その姿はガラス窓一枚隔てて客から丸見えになっていた。青い作務衣のような制服に、紺色の手ぬぐいを頭に被り、やはり紺の不織布マスクをしていた。長い髪を後ろで束ねている。
「ははは。ウケる。本当に直己だ」
由希姉がそう笑い、母親の方を振り返った。
「そうだね」
母親はあまり気乗りしない感じで答えた。
二人は師匠の目の前に立ったが、師匠は焼き鳥に集中していてなかなか気付かなかった。二人の後ろを、買い物客がどんどん流れていった。
母親が見ていると、由希姉が右手を胸の前にあげ、拳を作ってコンコン、とガラス窓をノックした。
師匠がこちらに視線を上げた。
「直己!」
由希姉が笑顔になって手を振った。母親は控えめにその隣でペコリ、と会釈した。
師匠は一瞬固まって、それから目を大きく見開いた。「くわっ」という効果音が聞こえてきそうな、そんな見開き方だった。そうして眼球が飛び出てしまうんじゃないかと思われるくらい目を開いたまま、やはり固まった。
「ははは。めっちゃ驚いてる」
由希姉が笑った。「そうだね」と母親は相づちを打った。
「あっち出れる?」
由希姉はそう師匠に言って(多分その声は窓に隔てられて師匠に伝わらなかったと思われたが)、店の表の売り場を指差した。師匠はコク、コク、と急いで二回首を縦に振った。
「あっちね、あっち」
由希姉はそう言いながら売り場に向かった。そこにはカウンターを挟んで焼き鳥を求める客が四、五組並んでいた。由希姉と母親がその列の脇を抜けてカウンター前に行くと、師匠がカウンター向こうに出てきた。
「久しぶり! 私のことすぐ分かった?」
由希姉が人懐っこく声を掛けると、師匠はそれをさえぎった。
「今焼き鳥を焼き上げるところなんで、三分だけ待っててもらえます?」
「分かった」
「すぐ戻って来るので」
師匠は忙しそうに、元恋人との久々の再会をどう感じているのか分からない鈍い表情をしたまま、サッと裏へ戻っていった。




