吟遊詩人との出会い
「こ、ここは・・・?」
「おい、フィッシュル!目が覚めたみたいだぞ!」
「ほ、本当!よかったぁ!・・・じゃなくて、意識を取り戻せたようで何よりだわ」
目が覚めた爽良。そんな様子を見たベネットとフィッシュルの二人は一安心しているようだった。
そしてこの場所はというと、誰かの家のベットの上っぽいがここが誰の家なのかはもちろんわからない。
「どうやら目覚めたようですね。それにしても、何で私の家に・・・」
と、思った矢先、この家に住む本人の声が聞こえた。
爽良は上半身をバッっと起き上がらせると、
「す、すみません。ご迷惑おかけしました!」
と、お礼の言葉を述べた。
爽良の記憶はまだはっきりしていなかったが、「助けてもらった」という事実は明確に覚えていたのだ。
「はぁ。そんなにちゃんとお礼を言われちゃうと、愚痴が言えないじゃないですか。まぁ、とりあえず色々あったようですし、お話をお聞きしましょう。」
爽良に向かってそう話す少女であり、この家に住む張本人、モナであった。
原神を知らない方のための補足説明
謎の占星術師の少女であり、自称「偉大なる占星術師モナ」。普段は学術雑誌への寄稿などを行い日銭を稼ぐ貧乏生活を送っている。
ちなみにフィッシュルとは友人関係にある。そのため、今回フィッシュルが爽良を安静に寝かせるためにモナの家を訪ねたというのがここまでの経緯である。
「本当にありがとう。すこし長くなると思うが事の経緯を話させてくれ・・・」
そういうと爽良はこのテイワットに来た経緯から、ベネット、フィッシュルの二人に会うまでの草原や森での生活などを要点をまとめて話し始めた。
「・・・というわけで今に至るんだ。」
「妹さんに会う事があんたの旅の目的なんだな。もし俺に手伝えることがあったら言ってくれ!」
「そうね。ただ、手がかりが少なすぎるわ。貴方の話だと連れ去ったのは神だったというし、情報が得られるとしたら同じく神様で風神様くらいかしら」
「そうなるとかなり厳しいですね。おそらくですが、風神様を見つけるのもあなたの妹さんを見つけるのと同じくらい難しいと考えた方が良いと思います。」
「そうは言ってもここはモンドなんだぜ。もしかしたら風神様の行方について情報を持ってる人がいてもおかしくないんじゃないか?」
「そうですね。まずは風神様の行方についての聞き込み調査からやってみましょうか」
3人は爽良の妹探しについて真剣に話し合う。
そんな様子を見ていた爽良は突然、
「俺のために、本当にありがとう。」
と言った。
今日出会ったばかりの見ず知らずの自分のためにここまでしてちゃんと考えてくれていることに爽良はとても感動したが故にでた、3人に対し深く深く感謝する言葉だった。
「まったくですよ。偉大なる占星術である私の時間は高くつくんですから。だからやると決まったら早く行動しましょう」
「そうだな!そしたらとりあえず手分け聞き込みに行こう!」
「貴方はまだこの町についてあまり知らないでしょうし、この私がついていってあげるわ。さぁ、貴方へのまた案内兼風神様探しに行くわよ!」
そう言うとフィッシュルは爽良に向かって手を差し伸べた。
「お、おう!」
爽良はそう返事をするとフィッシュルの手を握り、立ち上がった。爽良の表情はとても喜びに満ちており、先日までの辛い外での生活では考えられないほど幸せな環境にいることをとても感じた瞬間だった。
こうして爽良、フィッシュル、ベネット、モナの4人による風神捜索が始まったのだった。
捜索のための聞き込み開始から約30分が過ぎた。その頃、爽良とフィッシュルの2人は大きな広場にいた。
「ここはモンドでも一番大きな広場よ。そしてあれは風神様の像。そして奥に見えるのが西風大聖堂よ」
「ここは結構人がいるな。聞き込みも捗りそうだな。ん、あいつは・・・」
そう言うと爽良は何かを見つけたのか、走ってその場を後にする。
「ええそうね。かなり人数も多いし、ちょっと手分けして聞き込みを・・・って、あ、貴方行動早いわね!」
フィッシュルは爽良の行動力の高さに驚く。フィッシュルは爽良を見失ってしまったため、近くで聞き込みをしながら爽良を探すのだった。
「お前、ちょっといいか?」
「ん?何の用だい?」
「ちょっと聞きたいことがあるんだ」
爽良が走ったのはその場を後にしようとしていた人物に話しかけるためであった。
そしてその人物はというと・・・
「まずは自己紹介をしようよ。僕の名前はウェンティ。はい、次は君の名前を教えて」
「あ、そうか。まずは自己紹介からというのが礼儀だったか。俺の名前は多比人爽良、とある理由で世界を旅している者だ。」
そう、彼はモンドに住む自由奔放でワインを好む吟遊詩人のウェンティであった。
「旅人ね。そんな君が僕に何の用だい?」
「実は風神とやらに会いたいんだが、誰も行方を知らないみたいでな。だからお前が何か知ってることがあったら教えてもらえないか?」
数秒、彼らの間に沈黙が訪れる。
この沈黙に爽良は少しだけ張り詰めた空気を感じていた。
「風神に会いたい、ね。まぁ頑張ってとしか僕には言いようがないかな。」
「そうか。もう一つ質問があるのだがいいか?」
「ん、何だい?」
「お前、男なのか?それとも女なのか?」
再び彼らの間に数秒の沈黙が訪れる。
「あははっ。君面白いこというね。性別に関しては秘密だよ!君の想像にお任せしようかな」
今度は張り詰めたというよりもウェンティの想像の斜め上を行く質問で、一瞬解答に迷ったからであった。
「配慮のない質問であることは承知だ。だが、俺は先程からお前が男か女なのか気になって仕方がない。あ、もしかしてそれ以外だったか?だったらお前の身体がどっちなのか教えてくれるか?それだけでも十分にスッキリする。」
爽良は若干暴走気味でウェンティに対して質問する。
「あ、あははっ。ちょっと言ってる意味がわからないな・・・」
「わかった。じゃあ今からお前の股を握る。」
爽良はウェンティの右肩を左手でがっちりとつかみ、鷲掴みの形にした右手をウェンティに見せつける。
「き、君ってば暴走しすぎじゃないか?あの風魔龍と呼ばれるトワリンよりもすごい暴走っぷりだよ」
「ん、風魔龍とはなんだ?」
爽良は突然出てきた風魔龍というワードに食い付いた。それに対し、ウェンティは今の性別の話題から話をさらそうと、風魔龍について全力で語り始めた。
「トワリンは風神バルバトスの盟友であり、東の四風守護に数えられる守護龍のことさ。でも、最近のトワリンはモンドの民に対して何故か敵意をもっているようで龍災も引き起こしてしまっているんだ。」
「風神の盟友か。敵意をもっているといったが、それが先ほど言った暴走ということなのか?」
「そうだよ。これを見てくれるかい?」
そう言ってウェンティは赤い宝石のようなものを取り出した。
「これはトワリンの涙だよ。この通りかなり穢れてしまっている。おそらく何者かの手によって呪われてしまっていて、意図的に暴走させられていると僕は思っている。」
ウェンティは真剣な表情でそう言う。
「あっ、わかったぞ!」
それを見た爽良は何か思いついた様子だった。
「どうしたんだい?その様子だと何か閃いたのかな?」
「風魔龍の暴走を俺が止める。盟友の風魔龍の暴走を止めたってなれば風神だって俺と会ってくれるに決まってる。なぁ、お前も手伝ってくれないか?」
「ええっ!?君が風魔龍の暴走を?見たところ元素力も扱えないみたいだけど!?」
「元素力?よくわからんがそんなもの俺の知力でカバーしてやる。俺はやると決めたから絶対にやるんだ」
「あはははっ!き、君って本当に面白いね。まぁ、僕は元からトワリンを助けたいと考えていたからもちろん君には協力するよ」
2人は右手を差し出して深く握手をする。そんな時、遠くからフィッシュルの声が聞こえた。
「あっ!いたっ!」
フィッシュルは急いで2人の元へと駆け寄る。
「爽良ってば探したのよ!そしてなんかいい感じに握手してるけどこれはどういう状況なの?」
「すまんがまたお前らに迷惑をかけてもいいか?」
「迷惑?断罪の皇女である私がそんな風に感じたことは一ミリもないわ。だから何をするのか言って頂戴」
「ありがとう、フィッシュル。じゃあ皆んなで一緒に風魔龍の暴走を止めるぞー!」
そう言って爽良は拳を上に向かって掲げた。
「おぉー!」
爽良の行動を見て、ウェンティは楽しそうにそうに爽良を真似て拳を天に向かって突き上げる。
「お、おおぉー!?」
フィッシュルも釣られて同じように拳を天に向かって突き上げる。
風魔龍の暴走を止めるですって!?
フィッシュルは内心非常に驚きながらもなんとか体裁を取り繕う。
こうして爽良は風魔龍、トワリンの暴走を止めることを決意したのだった。