モンドでの出会い
「はっ!はぁっ!はぁっ・・・!」
爽良は広大な草原の中を必死に駆けていた。
爽良が見知らぬ大地で目覚めてから約1ヶ月。永遠と草原と森の中で迷い続ける生活を送っていた彼は妹を助けるどころかこの世界で生きていくことすら困難であることに気づいた。
実際、彼は「ヒルチャール」と呼ばれる人型の魔物に追いかけられており、現在進行形でピンチであった。
なんで、空が飛べないんだよ!?剣も無いから戦うことも出来ないし、まじで死ぬかも!?
必死に走っていた爽良は振り向いて後ろの魔物との距離を確認した。幸いにもヒルチャールより足が早かったため、逃げ始めた時よりも距離が開いていた。
「これならなんとかなる・・・」
ガツッ!
「あっ」
爽良はそう安堵したその瞬間、足もとの石に気づかず、思いっきり躓いた。
バサァァァッ!
勢い良く倒れ込んだ爽良は腕を擦り剥き、軽い痛みがじわじわと染み渡る。また、不運にも着地の仕方が悪く、右足を捻ってしまい、直ぐには立ち上がれそうにない状況になってしまった。
どんどん近づいてくるヒルチャール。
迫り来る未知の恐怖に爽良はかなり絶望していた。
まさか、もうゲームオーバーなのか・・・?
そんな時、どこからともなく紫色に光るカラスのようなものが現れた。
「お嬢様の命で助けに参りました。後はお任せ下さい」
「カ、カラス!?」
紫色に光るカラスのような謎の生き物は急に爽良に向かって話しかけた。
その後、謎の生き物はすぐさまヒルチャールに近づくと、紫色に光る雷で次々とヒルチャールたちを攻撃していった。
「フフッ。そんなに驚かないで頂戴。お困りのようだったからちょこっと手を貸したまでよ」
いつの間にか倒れ込んだ爽良の後ろいた彼女はそう声をかけた。
「あ、貴方の名は!?」
そう言うのと同時に振り返った爽良。その目に写ったのはそう、フィッシュルであった。
原神を知らない方のための補足説明
オズという鴉と共に行動する謎多き少女。かなりの厨二病である彼女だが、実は冒険者協会の諜報担当でもある。
助けを求める者の前に颯爽と現れ、あっという間に敵を薙ぎ払い、助けた者から名前を聞かれると言うシュチュエーション。
厨二病の彼女にとってこれ以上なく気持ちが昂った瞬間であった。
「よくぞ聞いてくれたわ。我が名はフィッシュル・ヴォン・ルフシュロス・ナフィードット!異世界 "幽夜浄土" からテイワットに流落した "断罪の皇女" よ」
大きく高らかな声が辺り一体に響き渡る。
それを聞いた爽良は彼女に対し、希望の眼差しを向けていた。
「お嬢様、あの魔物共はなんとか追払いました。それにしてもあそこまで執拗に追いかけ回すとはこの者は一体何をしたのでしょうか?」
「よくやったわオズ。とりあえずこの者に事情を聞きましょ。あとベネットが先程から見当たらないから探しに行かないといけないわね」
「そうですね。では、私がベネット殿を探しに行って参りますのでその間にお嬢様は事情聴衆のほうをお願いしてもよろしいでしょうか?」
「ええ、わかったわ。じゃあベネットの方は頼んだわよ」
「承知致しました」
謎の鴉、オズが急にフィッシュルの横から現れ、会話を始める。そんな中、爽良はゆっくりと起き上がり始めていた。そして一連の会話が終わり、オズがこの場を去ったと同時に爽良はフィッシュルの方を向いて立ちあがった。
「あら、大丈夫かしら?」
「はい、おかげさまて助かりました。失礼ながら一つだけ質問してもよろしいでしょうか?」
「ええ、いいわよ。ただ、その質問に答えたら私の質問に答えたら私の質問にもちゃんと答えて頂戴ね?」
「はい、もちろんです。では、質問ですが、貴方は本当に異世界から来た者なのですか?」
「・・・え、ええ、もちろんよ。私は"幽夜浄土"と呼ばれる世界から来た断罪の皇女なのだから」
数秒の沈黙の後、少し冷や汗をかきながらフィッシュルはそう答えた。その言葉を聞いた爽良の目には再び希望が宿った。そしてその眼差しをフィッシュルに向ける。
「だ、断罪の皇女様!同じく異世界からの旅人であるこの私を助けてください!」
爽良は縋る思いで急にフィッシュルの両手をとって全力で頼み込んだ。
急に両手を握られたフィッシュルは驚き、頬を赤らめる。
「ちょっ!ちょっと!びっくりするじゃない!助けるし、話もじっくり聞いてあげるから!とりあえずドキドキしちゃうから手を離してもらえると・・・」
「あ、ごめなさい。でも、本当にありがとう、断罪の皇女様!」
慌ててフィッシュルの手を離した爽良は満面の笑みでフィッシュルに感謝の意を伝えた。
「フフッ。感謝の言葉はもう十分よ。とりあえず貴方の名前を教えて頂戴」
「俺の名前は・・・」
「バァーーン!!」
爽良が丁度自分の名前を伝えようとしたその瞬間。近くの森の方で大きな爆発音が聞こえた。
そしてその爆風にのって何かが飛んでくる。
なんかでかいものが飛んできている。あれは・・・まさか人?
爽良は楽観的に飛んでくるものを見ていた。しかし、その軌道が見事に爽良がいるところに落ちるような放物線を描いていることに直ぐに気づかなかった。
「あっ!危ない!」
飛んで来た人影から何らや声が聞こえる。その声に気づいた爽良も慌てて
「ま、待て!やばい!」
と声を上げる。しかし、気づいたら頃にはもう手遅れ。飛んで来た人の頭と爽良の頭が思いっきりぶつかる。
「ど、どいうことだよ・・・」
バタッと音を立てて再び倒れる爽良。今回は完全に気絶してしまったようだ。
「きゅ、急に何事!?」
「す、すまん!俺の不幸に巻き込んじまうなんて!」
そんな爽良の様子を心配する二つの声。一つはフィッシュルであり、一つは飛んで来た張本人であり、先程話にもあがっていたベネットであった。
原神を知らない方のための補足説明
フィッシュル同様に冒険者の一人。優しい性格なのだが、かなりの不運体質である。
「すまんが、俺のせいで酷い目に合わせちまったし、とりあえず冒険者協会の依頼は一回諦めて、この人を連れてモンドの町に戻らないか?」
「ええ、そうね。急を要する事態なのだから仕方ないわ」
「じゃあ俺がこの人を背負うからフィッシュルは道中敵が出てきた時の援護射撃や、道の先導を頼む!」
「わかったわ。まぁ、私とオズが先導するからには最適なルートを見つけられるし、交戦することはまずないでしょうけどね!」
「流石フィッシュル!頼りにしてるぜ!」
ベネットとフィッシュルは話し合いの結果ベネットは爽良を背負い、フィッシュルの先導の元、爽良を連れて町に行くことが決定した。
永遠と草原や森の中を彷徨い続けて約1ヶ月。なんとか爽良が最初に降り立った、テイワットに存在する七つのうちの一つの国「モンド」の町に到着することとなる。
しかし、彼は本来のゲームの路線とはかなりズレてしまっており、本来ともに旅をするはずだったガイド役のパイモンとも出会う事がなくなってしまった。また、本来ゲームでは七天神像と呼ばれる像に触れ、共鳴することで元素力が扱えるようになるのだが、彼はそのイベントさえも飛ばしてしまった。
ガイドがいない、そして元素力も扱えない始末。
果たしてこれが彼がこの世界、テイワットで冒険するにあたって困難を極めることになるのか。
これが、彼の超ハードモードなテイワット冒険譚の始まりであった。