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第80話 レウスの告白

 現代。


 ——ゲイル族の里。



 目の前の少女が消える。涙を流し、悲しみと恐怖に包まれたドロシーが。


「これが僕のお、……ドロシーに、起きたことなの?」


 ロナが言葉を変える。ロナが魔族だと知らないレウスを気にしてのことだったが、それでもロナは動揺を隠せない様子だった。それを察してか、エオルがロナの背中を摩る。


「ねぇジェラルド? アンタはここで何が起こったか知ってたの?」


「いや。知らなかったぜ」


「なぜ魔王はドロシー殿だけを攫ったのでありますかな?」


「魔王の能力はオリジナルを模倣して魔族やモンスターを作り出すこと。サンプルは多いに越したことは無いはずよね」


「あんな……意味もなく両親を殺すなんてこと……許せない」


「ロナ殿が倒す前のフィリアもいたであります」


 腕を組み、ジェラルドが思考する。


 魔将フィリアは幹部の中でも残忍な性格だ。ヤツをわざわざ連れて来たってことは……ドロシーの目の前で両親を殺すことを狙っていたみたいだ。


「魔王は……」


 黙って聞いていたレウスが口を開く。


「器を求めているのです。器に体を移せば、原初のアミュレットを無効化できる……そう考えて。その為にドロシーにはあらゆる負荷をかける必要があった。ゲイル族の、ヒト種の始祖……その全てを理解する為に」


「……どういうことだ?」


 ジェラルドの視線を受け、仮面のレウスが顔を背ける。


「魔王が生み出した魔族やモンスターは全てこの世界で生まれました。だからこそ世界は存在を許している。しかし、魔王だけは例外。この世界に完全に入り込むには器が必要なのです」


 そうか……ロナはアゾム女王からアミュレットに存在を認められていると言っていた。魔王はそれ(・・)を手に入れたかったのか。だから……ロナを作った。だが、なぜそれをレウスが知ってる?


 ジェラルドの隻眼が鋭くなる。初めて会った時から感じていたレウスへの違和感。それが、原作設定を語るレウスに対して大きくなっていく。


 そして、ある結論に辿り着く。


 まだジェラルド達が出会っていない魔王軍幹部(・・)へと。


「お前……もしかして」


 レウスがジェラルドの言葉を手で制した。


「だからこそ魔王は完全にこの世界に馴染む体を求めた。その為にドロシーを攫った。その為に貴方を生み出した……ロナさん。貴方を」


「な、なんでそんなことをレウスさんが知ってるの?」



「それは私が……魔王軍『知将』シリウスだからです」



「ま、魔王軍の幹部!?」


 ロナがルミノスソードに手をかけ距離を取る。


「ブリジット! ソイツから離れなさい!」


「え、え、エオル殿!? どどどどういうことでありますか!?」


 慌てたブリジットがレウスへと向き直る。



 なぜそんなことをこのタイミングで告げる? どう考えても変だぜ。



「私の真意を測りかねている……という顔ですね。ジェラルドさん」


「……普通に考えれば言う理由がねぇ。罠に嵌めて終わりだぜ」


「話が早くて助かります」


 レウス——魔王軍知将シリウスはゆっくりと仮面を外す。その顔に表情は無かった。悲しみも、怒りも。亡くした友の記憶を垣間見たはずなのに、あまりにも……。


「外界から遮断され、既に魔王の意識にすらない場所。この隠れ里……ここならば、私の本心をお話できます」



 シリウスがドロシーの家へと寄りかかる。




「私は、魔王城でドロシーの世話を任されていました。度重なる実験でその精神が壊れないよう……見張る為に」


「それで情が沸いたって訳か?」


「情ですか。分かりません。模造品として生まれ、感情も全て紛い物の私では……」


「紛い物……」


 暗い表情になるロナ。そんな彼女をシリウスはチラリと見る。


「貴方はドロシーからあらゆる感情を移植されています。私達のそれとは違う」


「喜べないよ……そんなの」


 レウスは思い出すように天を仰いだ。


「ドロシーは……模造品として生まれた貴方を生かす為に逃走しました。そしてデスタロウズに……」


「殺されたって訳か?」


「ジェラルドさんの言う通りです。その時既にロナさん(コピー)は行方を(くら)ませていました」


 俯くシリウス。彼はその手の仮面を握りしめ、ジェラルド達を真っ直ぐに見つめた。


「協力してくれませんか? 魔王討伐に」


「……お前の目的はなんだ?」


 ジェラルドの隻眼が鋭くなる。その瞳に映るシリウスは被りを振った。



「ドロシーの仇を討つ。それだけが私の願いです」



 ロナがジェラルドの裾を引く。


「師匠……僕も仇を討ちたい。あんな記憶を見て……このままでいられないよ」


「……」


「師匠」


「ロナ。罠かもしれないわよ」


「疑うのであれば、今この場で私を殺して頂いて構いません」


 シリウスがゆっくりと膝を付ける。


「ただ、約束して下さい。魔王を必ず倒すと」


「ど、どうするのでありますか?」


 戸惑うエオルとブリジット。信じたいというロナ。その様子を横目にジェラルドは思考する。


 罠……ロナを誘い出したいからか? だが、それだと解せねぇ。シリウスが正体を告げる意味がねぇ。


 なんだ? 何を考えている?


 シリウスは、ただ沈黙して答えを待っていた。


「話して」


 ロナが、シリウスの瞳を見つめる。


「シリウスさんの知ってること。全部。僕はドロシーに何があったか知りたいの」


「……わかりました」


 シリウスは瞳を閉じ、ゆっくりと話始めた。





 

次回、シリウスの過去が語られます。

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