第24話 豪将ヴァルガンの脅威
「ヴァ、ヴァルガン……」
ジェラルド達の前で槍を構える竜の男。彼はその瞳をギラリと光らせた。
「眼帯にドラゴンメイル……幸運だな。任務中に狙っていた男から現れるとはな」
「師匠? アイツのこと、知ってるの?」
「魔王軍豪将ヴァルガン……」
自身の名を呼ばれたことで、ヴァルガンは不思議そうな顔をした。
「なぜオレの名を知っている? 貴様、何者だ?」
「魔王軍の幹部!?」
エオルがジェラルドの腕を掴む。
「な、何か策あるのよね?」
「逃げろ」
「い、今なんと言ったでありますか?」
ロナ、エオル、ブリジットがジェラルドの顔を見つめる。彼は今まで見せた事のないほど深刻な表情をしていた。
「今の俺達じゃ格が違いすぎる」
今のロナのレベルは35。エオルは30。仲間になったばかりのブリジットはレベル上げして28程度。俺は……戦闘の役にも立たねぇ。
対してヴァルガンのレベルは50。
まともに戦って倒せる差じゃねぇ。
今はどうやって生き残るかを考えねぇと……。
「覚悟が決まらないか。ならば逃げられぬようにしてやろう!」
突然。目の前にヴァルガンが頭上へと飛び上がる。
「少しは楽しませてくれよ!」
ヴァルガンがその槍を振り回し、技名を叫んだ。
「螺旋飛翔撃!!」
高速回転したヴァルガン。その槍先が真っ直ぐ大地へと向かう。
「避けろおぉ!!」
ジェラルドがロナを庇うように飛び、エオル達がその場から逃げる。
直後。
轟音と共に爆風が巻き起こる。破壊された石畳が弾丸のように周囲へと吹き飛んだ。
周囲の壁が崩れ逃げ道を塞いでいく。
「な、何よこれ!?」
「とんでもない威力であります!?」
クソ……ヴァルガンの攻撃を避けながら逃げ道を探すなんてできやしねぇ。
深く抉られた床からヴァルガンが槍を引き抜く。
「なんだ今の反応は? 貴様達それでも我が尖兵を倒した者達か?」
ヴァルガンが槍を振るう。
「つまらんな」
ロナを抱き起こしながらジェラルドは思考をフル回転させた。
考えろ。
今はなんとしても生き残らなきゃなんねぇ。ここで死んだら今までの苦労が全部無駄になっちまう。
考えろ俺。
お前は不可能を可能する男だ。絶対に生き残れる。
自信を持て。
自分を……信じろ。
ヴァルガンがため息を吐く。
「命を賭けた戦いができると期待していたのだが。所詮人は人か」
……人は人?
その言葉によって、ジェラルドの頭の中に僅かな光が灯った。
チラリとロナを見て、彼女の成長を思い返す。
レベル35。勇者本来の力が目覚めてもおかしくない状況。自分に懐いている少女……ロナ。
そして目の前にいるヴァルガン。
ジェラルドがゲームプレイで見たヴァルガンは武人そのもの。そして、今目の前にいるヤツも原作を彷彿とさせる言動をしていた。
ヴァルガンは俺の死の運命の化身みたいなものだ。俺の運命が死亡イベントに収束するのなら、その性格も原作から変わるはずは無い……か。
ジェラルドの脳内をロナとヴァルガンが巡る。
そして、1つの結論に達した。
……やってやる。
賭けにはなるが、上手くいけば生き残れる。
「みんな聞け」
「うん」
ロナがジェラルドを一切疑わぬ表情で見つめる。
そんなロナの瞳を見てジェラルドは思う。
悪りぃなロナ。こんな所で、お前を試すようなことをしちまう。
だけどよ……。
「俺達は死ぬ訳にはいかねぇ。だから、全力で生き残る。いいか。ここは命張る時だ」
全員が頷く。
「どんなことでもするぞ。生きる為にな」
……。
「作戦会議は終わったのか?」
ヴァルガンが槍を肩に担ぐ。
「お前いいヤツだな。待ってくれてるなんてよ」
「このまま殺すのも味気ないと思っただけだ」
「へへ。感謝する……ぜ!!」
ジェラルドがけむり玉を叩き付ける。遺跡内部に煙幕が充満する。
「くだらん」
ヴァルガンが槍を払うと一瞬にして煙幕が晴れる。
彼の目の前には……杖を向けたエオルが立っていた。
「今だエオル!!」
ジェラルドの叫び声と共にエオルが魔力を解き放つ。
「火炎魔法!!」
放たれた火球が、ヴァルガンを襲う。
「低級魔導士が!!」
ヴァルガンが両腕で槍を叩きつけ、火球を真っ二つに引き裂いた。
「く……っ!? やっぱり効かないわね……」
「そのような魔法などオレには」
「貰ったであります!!」
「食らぇ!!」
ヴァルガンの両側面からロナとブリジットが攻撃を仕掛ける。
「ほう。魔法は囮か」
「頭蓋割り!!」
「クロスラッシュ!!」
巨大な斧がヴァルガンのヘルムを直撃し、十字の斬撃が鎧に傷を付ける。
「螺旋暴風撃!!!」
ヴァルガンが頭上で槍を高速回転させる。そこから周囲に真空の斬撃が放たれる。
「ロナ殿!!」
ブリジットがロナを庇い風の斬撃を受け止めた。
「ぐううぅぅぅ……っ!」
「ブリジット!?」
ブリジットの鎧が深く抉れる。鉄の鎧すら容易に削り取る斬撃が、その威力を表していた。
「裂火魔法!!」
「炎の巻物!!」
ヴァルガンがロナ達に気を取られた一瞬の隙を突いて、ジェラルド達が豪将の周囲を炎で包む。
「炎ばかりで芸が無いな」
「芸が無い? 俺に言ってんのか?」
ジェラルドが袋を空中に放り投げる。
「ロナ!!」
マントが靡く。ヒスイの剣を構えていたロナが技を放つ。
「エアスラッシュ!!」
少女の放った風の斬撃が袋へと直撃し、周囲へ白い粉塵を巻き上げる。
それはジェラルドが持っていたハルシの粉。野営用に準備していた、ただの食材。しかし彼はずっとハルシの粉を愛用していた。なぜなら、戦闘にも使えるから。
微細な粉末が周囲を白く染め上げる。
そして。
炎が、空を舞う粒子に引火する。ヴァルガンの周囲の空気が一気に高温へと上昇する。
「粉塵爆発だ! 全員伏せろ!!」
直後。
ヴァルガンは、強烈な爆発に巻き込まれた——。
豪将ヴァルガンへと全力で挑むジェラルド達。果たして彼らは勝つことができるのか……次回もお見逃しなく!