第18話 対決巨大怨霊
「オオオオオオオオォォォォオオオ!!!」
ファントムフェイスが雄叫びを上げ、真っ直ぐ向かって来た。
「走れ!」
ジェラルドの声を合図に3人が全速力で廊下を駆け抜ける。
「ねぇ! あんなのどうするの!? 逃げる!?」
「ダメだよ! まだ助けていない人達がいるんだよ!!」
「……」
ファントムフェイスってレベルどんだけだ? 確かゲーム中盤レッドツリーの森に出て来たよな。今戦っても正面からじゃ力負けする。ゲームプレイしてた時どうやって倒した? 思い出せ。思い出せ、俺。
「ロナの気持ちも分かるけどぉ! 一旦引いて体勢立て直しましょ!? 他の冒険者も連れて……」
「今逃げてあのメイドさん達が無事な保証ある!? 焦ったアイツがみんな食べちゃったらどうするの!?」
考えろ。
どうやってアイツを倒す? どうやって攻略する?
ジェラルドが懐を漁る。
回復の巻物は後3つ。
「ロナ! 預けた皮袋持ってるか!?」
「あるよ!」
ロナから渡された皮袋を覗く。
中にあるのは聖水2本に薬草にけむり玉……ガルスソードはさっき使っちまったから大した威力は出せない。
「加速したわよ!?」
「オアアアアアァァァ!!」
巨大な顔がすぐ後ろまで迫った所で階段が見えた。下には1階のエントランス。それを見たジェラルドが叫んだ。
「あそこから飛び降りろ!」
手すりを飛び込え、3人が1階へと落下する。
先ほどまでジェラルド達がいた場所にファントムフェイスがぶつかり、壁がバキバキと派手な音を立てた。
ファントムトーカーと同じように実体は、ある。なら物理攻撃は効くか。
ファントムフェイスが被りを振りながらこちらへと狙いを付ける。
パラパラと壁の木片が1階へと降り注ぐ。木片を掴み、ジェラルドが巨大な顔へと投げ付けた。
「フ」
ファントムフェイスが姿が半透明となり、木片がすり抜ける。
「ぶ、物理攻撃が効かないの!?」
「あんなのどうやって倒すのよ!? 私の魔法だけじゃ……」
実体はあるが、自由に姿を消せるってことか。
そうだ。
思い出した。確かアイツ……レベル35だったはず。
「まずは実体化。それからアイテムを……」
「ねぇジェラルド! どうするの!?」
「黙ってエオル。今師匠の邪魔しちゃいけない」
……。
方法は決まったぜ。
全員の力を尽くせば、勝てる。
「落ち着けエオル。こういう時ほど余裕持とうぜ」
「はぁ!? カッコつけてる場合!?」
「俺達は勇者パーティだぜ? 例え強え相手でもな、余裕ぶって笑うんだ。自分の底なんて見せちゃいけねぇ。その方がずっと上手く行くんだよ!」
それはジェラルドが子供の頃抱いたゲームの勇者達への憧れ。彼の深層に深く根付いたもの……それをかつての憧れの対象へ伝えたことで、ジェラルドは言いしれぬ高揚感を抱いた。
ジェラルドがファントムフェイスへと指を差す。
「おい! クソデカ頭! テメェには後悔しながら消えて貰うぜ!」
「ナンダト?」
巨大な顔がゆっくりとジェラルド達を見据える。
「ワレは憎悪している。エサの分際で館をダメにしおって。貴様らは捕らえて永遠に魂を食い続けてやろう」
「喋るのねアイツ……って怒らせてどうするのよ!」
エオルを手で制し、ロナがヒスイの剣を握る。
「師匠。僕達はどうすればいい?」
「流石ロナだぜ。エオルも聞け。俺が攻撃を指示する。お前達は目の前にだけ集中しろ」
2人を見たジェラルドはニヤリと笑みを浮かべた。
「倒すぜ。アイツを」
「減らず口を言うなアアアアアァァァ!!」
怒りの形相へと変化したファントムフェイスがジェラルド達へと襲いかかる。
「ロナはヤツの背後に回れ! エオルは俺と来い!」
「うん!」
突撃するファントムフェイス。ロナは幽霊の背後へと飛んだ。
「オオオオオオオオァァァ!!」
ファントムフェイスが壁へと激突し、轟音が辺りに響き渡る。
「エオル。裂火魔法の準備をしろ」
「わ、分かったわ」
エオルが杖を構えた瞬間。巨大な口が目の前に広がった。
「直接食らってヤル!!」
「しま——っ!?」
ファントムフェイスがエオルを飲み込もうとした時。
ジェラルドがエオルを抱えて走った。
「うおおおおおおぉぉぉ!!」
「ちょっ……!? ジェラルド!?」
「いいからお前は魔法の用意しろ!」
「分かった!」
ジェラルドに担がれながら、エオルが魔力をコントロールする。杖の先端に小さな火球が現れ回転していく。炎の輪を作っていく。
「いけるわ!」
「よし! そのまま狙ってろよ!」
ジェラルドが振り向きざまに聖水のビンを2つ投げ付ける。床にビンが叩き付けられ中の聖水が飛び散った。
「うはははは!! ワレにそんな物体など無意味だ!」
「エオル! アイツの足元を狙って撃て!」
「裂火魔法!!」
エオルの炎魔法が放たれる。回転しながら飛ぶ炎の輪が、幽霊の懐へと舞い込む。
「弾けなさい!!」
エオルが叫ぶと、炎の輪が弾け飛び、聖水が撒かれた地面が一気に燃え上がった。
「オ……!?」
聖水がエオルの炎によって蒸発し、水蒸気がファントムフェイスを包み込む。
「ぐ、グオォォォォォォォ!? 貴様ぁ!? 何をしたぁ!?」
「へ。水蒸気でも聖水の効果はしっかりあったな! そのまま穢れを落としな!」
「グオォォォォォォォ!!」
苦しみもがき、巨大な顔が暴れ回る。錯乱したファントムフェイスは、自身が実体化していることに気付いていなかった。
「ロナ!」
ジェラルドの叫びで少女が走る。マントを靡かせ、ヒスイの剣を構えながら。
「ニンゲン如きがアアアアア!!」
暴れ回るファントムフェイスがロナを狙う。しかし、噛みつこうとした攻撃が空を切る。空中で体を回転させたロナがすれ違いざまに怨霊を斬りつけた。
「グアァ!?」
「ロナ! 中央に行け。上を狙え!」
ジェラルドの声に彼女がエントランス中央へと走る。
彼女はジェラルドが何をさせようとしているのかを完全に理解していた。
「自分の力を完全に把握している」という師匠への信頼。それがロナとジェラルドの思考を繋た。
中央に辿り着いたロナが剣を構える。
「あのメイドさん達は何もしてない。それなのに……魂を喰らうなんて許せない」
「許さんぞ貴様ァ!!」
再びファントムフェイスがロナに迫る。館中を破壊しながら進む突撃は、当たった瞬間粉微塵にされるほどの威力だということを表していた。
そんな幽霊を真っ直ぐ見つめるロナ。彼女の瞳がボワリと赤い光を帯びる。
「エアスラッシュ!!」
ヒスイの刀身から風の斬撃が放たれる。
その刃が、ボロボロになった天井を貫く。天井が崩れ去り、ファントムフェイスへと直撃した。
「ギィィッ!?」
瓦礫に押し潰され、ファントムフェイスの動きが止まった。
少女がその顔面へと飛び込み十字の斬撃を刻み込む。
「クロスラッシュ!!」
「ガ、アアアアアッ!? ま、まだダァ!!」
「まぁ落ち着けよ」
瓦礫から抜け出ようとする怨霊の目の前にジェラルドが現れる。
そして。
ジェラルドの両腕のガントレットがバカリと開き、2枚の紙が弾き出された。
「終わりだぜ」
それは回復の巻物。
古代文字が眩いまでの光を放ち、幽霊へ2つの回復呪文が唱えられる。
「グオ、お、嫌、嫌だア!! 消えた……く……な……」
「消えたくない? ワガママなヤツだぜ」
「……ァ……ァ」
声ともならない声を上げ、ファントムフェイスは光となった。
「あ〜今回は疲れたぜ」
「じぇ、ジェラルド……?」
ジェラルドが振り返ると、エオルが恥ずかしいそうに顔を背けていた。
「なんだよ?」
「そ、その……色々とありが」
「師匠〜!!」
突然、ロナがジェラルドの背に飛びついた。
「僕! 僕やったよぉ……おぉ……」
ヒスイの剣を握り締めたまま泣きじゃくるロナ。その刃先がジェラルドの目の前でキラリと光った。
「け、剣しまえっ! 怖えぇって!?」
「師匠ぉぉぉ……」
「……お前は良くやったよ」
ジェラルドがロナの頭を優しく撫でる。
そんな2人を見てエオルはため息を吐いた。
「はぁ……人前でイチャついてくれるわねぇ」
「エオル」
「な、何よ?」
「ありがとな。お前のおかげで勝てたぜ」
「……っ!?」
顔を隠すようにエオルが背を向ける。
「当然よ! 私を誰だと思ってるの? 未来の大魔導士エオル・ルラールよ!」
「素直じゃないねぇ」
「う、うるさいわよロナ!」
そんな2人の様子にジェラルドは思いを馳せる。
このまま2人が成長すれば、「魔王軍豪将ヴァルガン」を倒せるか?
俺の運命。俺を殺す死の象徴を。
……。
いや、今回だって想定外の敵が現れた。俺が運命に抗う限り、シナリオはジェラルドの死へと修正しようとするんだろう。
やっぱ必要だな。
最後の仲間が。
無事ファントムフェイスを倒したジェラルド達。一体なぜヤツはドーケスの館にいたのか。
次回、少し視点を変えてお送りします。
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