第10話 師匠と弟子、王に会う
王都エメラルダス。
車掌に言われた通り、ジェラルドとロナは王宮へと来ていた。
警備兵へジェラルドが名前を伝えると、あっさりと謁見の間へと案内される。
長い長い廊下を抜け、やたらと大きい扉を開けると、広い部屋へと抜けた。その奥ではヒゲを蓄えた初老の男性と大臣らしき男性がジェラルド達を待っていた。
王座の前までやって来た時、ロナがジェラルドの腕を掴む。
「ねぇ、あの人が王様?」
「王都を納めるオウンス王だ。隣は大臣のパトリック」
ヒソヒソと話している2人を見て大臣が声を荒げる。
「オウンス王の御前であるぞ! 内密な話は控えるように!」
「あ、すまん」
「すまんだと……? まぁいい。今回は魔導列車での一件について貴様達を呼んだのだ」
パトリックが書類に目を通す。
ゲーム本編だと行商人をモンスターから救ったら王都の人間で……みたいな話だったな。今回の魔導列車の件はどうなるんだ?
「報告によると、魔導列車でのコボルト達との戦闘によって車両一台の破壊。及び複数車両に渡る修理の発生。貴様達には賠償として1000万ゴールドを……」
は?
「ちょ、ちょっと待ってよ! そんなこと聞いてないよ!?」
慌てるロナに大臣は言い放った。
「その話をする為に王宮へ呼んだハズだが?」
あの車掌の野郎……本当のことを話すと俺達が怒ると思って肝心な内容を伏せてやがったな。
「この責任はお前達にある。オウンス王よ。どうかご判断を」
責任って言いやがった。クズ大臣かよ。
まぁいいや。
……そんなことを一般人に求める大臣様には相応の覚悟を持って貰わねぇとなぁ。
「オウンス王。俺達も発言の機会を」
「おい貴様ら! 発言を許した覚えは無いぞ!」
芝居じみた大袈裟な仕草でジェラルドが続ける。
「そりゃ無いんじゃねぇの? 俺達がなぜコボルト達と戦ったか。それを伏せて責任だっつてもなぁ……王様だって判断のしようが無いですよねぇ?」
オウンス王がそのヒゲを撫でる。
「うむ。そうであるな。確かに其方の意見はもっともだ。余にその経緯を教えてくれまいか?」
「もちろんです王様」
「ぐ、ぬぬぬ……」
発言権を得たことでジェラルドは爽やかな笑みを浮かべた。対照的にパトリックは苦虫を噛み潰したような顔で彼を睨み付ける。
「まず、魔導列車にコボルトキングが飛び付いた。そこからコボルトキングの能力で大量のコボルト達が生み出され、車両内へと侵入した。ここで1つおかしなことに気付きませんか?」
「おかしなこと?」
「なぜ俺達が戦わなければいけなかったのか? です。本来魔導列車は警備兵が乗っているハズ。彼らがいれば俺達が戦う必要は無かった」
「ふむ。それは余でも違和感を感じるな」
「そう。これには2つ可能性が考えられる。1つ。平和ボケした魔導列車運営が運行費用をケチる為に警備を怠った。そして2つ目。これは考えたくない……できれば俺の口から出すのも悍ましい内容だ……」
大袈裟にジェラルドが言い淀み、その眼帯を抑えた。
「2つ目の可能性とは? 余が許す。教えてくれ」
王が身を乗り出す。
「はい……2つ目の可能性。それは、『誰かが王都へモンスター達を侵入させようとした』可能性です」
「な、なんだと……?」
驚愕の表情を浮かべる王。その顔を見ながらジェラルドは思う。
あ、2つ目は適当に言ったけど意外に効いてるな。
ジェラルドは、己の演技に自信を深めた。
「そう。魔導列車ホームを考えて下さい。あそこからの入国は、他の門からよりも圧倒的に入り込みやすい!」
「た、確かに……!?」
「お、オウンス王! そんな者の言葉を聞いてはいけません! これは国内を乱そうとする謀反ですぞ!」
「黙れパトリック! 最後まで話を聞くと決めたのは余だ! その決定に意義を唱える気か!?」
「い、いや、そんなことは……」
突然喧嘩を始める大臣と王。ロナは心配そうな顔でその光景を見つめていた。
「心配すんな。ちゃんとそれなりの所に納めるからよ」
「う、うん……」
ロナが安心したのを確認し、ジェラルドが続ける。
「犯人は魔導列車、そして王都侵入を画策し警備兵を手薄にした。そして! その犯行を隠蔽し、俺達にその責任を負わせることでうやむやにしようとした人物……」
いつの間にか、可能性の話が犯人当て推理になっていた。
「ま、まさか……!?」
王は固唾を飲んでジェラルドの言葉を待っていた。
「そう。大臣のパトリック……アンタしかできないのさ」
いつの間にか、大臣は犯人にされていた。
「わわわわ私!? そそそそそんなことをするハズないだろうが!?」
「慌てるなよ。余計に怪しく見られるぜ」
「私がそんなことをするハズ無いだろ! 何年エメラルダスの為に働いて来たと思っているんだ!?」
「悲しいな……そんな長い期間重用された恩を仇で返すなんてよ……」
「きいいいい!? 違う! 違うぞ!! 私はただ魔導列車事件の責任をちょっとでも軽くできたらなあ〜と思ってだな!!」
ジェラルドがわざとらしく驚いたフリをする
「んん? 魔導列車の件で責任があるような物言いだな」
「確かに。余にもそう聞こえたぞ。パトリックよ。正直に話すのだ。このままでは謀反の犯人となるぞ」
「ぐ、ぬぬ……わ、私は何も……」
「お願い大臣のおじさん。これ以上嘘を重ねないで……」
「お、お嬢さん……」
涙ながらのロナの一言に、パトリックは心を打たれた。
……。
大臣パトリックは正直に全てを話した。
ギギン地方から王都までの運行は比較的安全。運行経費を抑える為に警備兵を置いていなかったこと。そして、コボルトの襲撃により責任追求を恐れたこと。
ついでにジェラルド達に賠償金を吹っかけて少しでも修理費を抑えたかったことを……。
「想像以上にクズだったな……」
◇◇◇
大臣のパトリックは意気消沈した様子で王座の間を後にしていった。
「いやはや。其方達にはいらぬ心労をかけてしまった。申し訳無い」
「気にしないですよ」
「普段のように話してくれれば良い。余は其方を気に入ったぞ。疑いをかけられてからの機転、その話し方。まるで演劇のように見入ってしまった」
「それで俺の話に乗ってくれたのか?」
「面白いと思ってな」
王が少年のような笑みを浮かべる。
王にはしっかりバレてたってことか。
「それに、だ。魔導列車で万一乗客に被害でも出ておれば、それこそ我が国の信用に関わる。其方達はそれを救ってくれた英雄。余はそう思う。礼を言うぞ」
王が頭を下げる。
「ぼ、僕達は……やらなきゃいけないことをやったまでなので……」
謙遜するロナを見て、王は不思議そうな顔をした。
「1つ教えて欲しい。逃げようと思えば逃げられたハズだ。それなのに其方達は見知らぬ者達の為に戦ってくれた。それはなぜだ?」
ジェラルドがロナの背中を叩く。
「このロナだ。この子が乗客を救いたいと言ったのさ」
「なんと……そんな幼い少女が……」
「あ、はは……師匠ともう1人協力してくれた人がいたので、なんとか……その……」
「コボルトキングも1人で倒したんだぜ?」
「し、師匠……っ!」
オウンス王が真剣な顔付きになる。
「いや、素晴らしい。其方の勇気。余はそれに心打たれた。それに魔導列車を救ってくれた腕前……其方に勇者の称号を送りたいのだが、良いだろうか? 魔王討伐の任も託してしまうのだが、其方達さえ良ければ」
「魔王」と聞き、ロナは凛々《りり》しい表情を浮かべた。
「僕は……誰にも家族を失って欲しくないです。だから魔王を倒して、みんなに平和に暮らして貰いたい」
「そうか……其方ならば魔王倒せるかもしれぬ」
「はい!」
「そして、ジェラルド殿」
「ん?」
王が真っ直ぐにジェラルドを見つめる。
「其方は良き師であるな」
王の笑みは、ジェラルドにとって眩しすぎるものだった。
次回。新たな仲間、女魔導士エオル・ルラール登場回です。ご期待下さい!