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取扱説明書

作者: 一色 良薬

「何度言えば分かるのです! アールグレイではなくダージリンだと言っているでしょう! それから角砂糖が二つ、ミルクが小さじ一杯です!」

 その一、ブレックファーストに淹れる紅茶にはこだわりがあるため徹底する。

「書類はアルファベット順に並べ替えたあと、優先事項が高いものに上からファイルを置いて下さい。あわせて決算・納期の確認も忘れずに」

 その二十五、資料の整理整頓は欠かさずに行う。左利きのため取りやすい向きに順番に並べておく。

「ホテルについたらウェルカムドリンクを部屋に持ってきてください。私はオーナーに挨拶に向かいますので、その間に持参した枕の設置・部屋着の用意・マッサージ師の依頼をお願いします」

 その三十八、外出先でも完璧なパフォーマンスを発揮するため、心地よい環境を作り出すこと。同行する際は専用の枕も忘れずに。

「もう駄目だ……アイデアが湧いてこない。何もインスピレーションを感じない……。表現者として失格だ……」

 その四十二、時折訪れる自己肯定感の低下にはそっと寄り添い、心からの励ましの言葉をかけ続けること。

「ひと昔前のデザインですがね。ファッションに疎い君におさがりであげましょう。は? 新作をありがとうございます? き、君の目は節穴かっ! ひと昔前と言っているでしょう!」

 その六十七、不器用だけれど優しさは向けてくれる時もある。大体は嫌味な人と勘違いされやすい、本当にめんどうくさくて遠回しな表現だけれど。

「その七十……駄目だ。ありすぎて困る」

 どれだけ書き出してもキリがない。社長の秘書をやめるにあたって引継ぎ──社長の取扱説明書といった方が早い──を作り出して早一週間が経過している。それも本人の直々のチェックが入って、その度にやり直しをさせられているのだから一向に終わる気配が感じられない。

「はぁ……次の秘書の引継ぎが完璧じゃないならやめさせないってどういうつもりなの」

 あ、七十三はこの項目に決定だ。

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