表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/1

ナンパ男の最後の日常

 俺は貧乏くじばかり引くのが得意だ。

 良いことをしても最終的に損をする。

 そんな事ばかりだった。

 

「なぁなぁ! そこの彼女ぉ! 俺に惚れてみないかい?」

 

 パシィィン!!

 都会のビルが立ち並ぶ大通りで、平手打ちの音が響きわたる。

 俺は昼間っからナンパに失敗していた。

 可愛い黒髪ロングの姉ちゃんから、頬っぺたに紅葉マークを頂戴してしまった。痛い。

 しかし、そんな可哀想な俺を、神様が見過ごす筈もなく、次の運命の出会いが幕を開ける。

 ビンタを食らって地面に這いつくばる俺に、「大丈夫ですか?」などと声を掛けてくれる天使が現れた。

 包容力の化身のような身体付き、小鳥のように可愛らしい声、奄美大島の海岸みたいな目!!

 俺は迷うことなく目の前の天使にアタックする。

 

「君は優しいんだな。

 でも、俺はそんな君が心配だよ。

 俺みたいな狼に襲われちゃうんじゃ無いかってさ」

 「……え、あ、あの〜」


 彼女は目を泳がせて、俺から視線を逸らす。

 なるほど、俺の顔が良いから見惚れないようにしてるんだな。

 シャイで可愛い。そんなところも好きだ!


「ははっ、怖くなっちゃったのか?

 大丈夫……君みたいな可愛い女の子の前では狼も牙を抜かれちまうんだ」

「オイ」

 

 俺が天使ちゃんと話しているって言うのに野郎の声が聞こえる。

 うるさいな!静かにしてろ。今、良いところなんだから!!


「オイ! 人が声掛けてんだからこっち向けや!!」

「うるせぇなぁ! 今、天使ちゃんがキューピッドの矢で俺を射抜いてコクーンがパージしてるんだよ! わかったらすっこんでろ害虫!! 」

 

「…………」


 ふぅ、やっと黙ったな。

 ったく人の恋路を邪魔しやがって馬にでも蹴られちまえ!

 さ〜て可愛い天使ちゃんはっと……。

 そこで、天使ちゃんもとい、目の前の女の子を見た俺は自分の過ちに気付く。

 彼女が俺を睨んで、さっき声を掛けて来た男が額に青筋を浮かべている。

 どうやら馬に蹴られるのも、地獄に落ちるのも俺の役目らしい。あはは〜嫌だなぁ。

 彼氏居るなら先言ってよ〜。

 てか、よく見てなかったけど、この人筋肉凄いな。どんだけ鍛えてんだ?

 声を掛けて来た男性を観察して、彼氏だと気付いた時には全てが後の祭り。

 俺の謝罪よりも速く、筋肉隆々彼氏さんのパンチが俺の顔面にめり込んでいた。


「痛っってぇ……喋るだけで痛ぇ」

 

 満身創痍でよろよろと駅前をうろつく俺に、声を掛けてくる奴が一人。

 

「また、ナンパなんてしてたの?

 馬鹿だなぁ。今時ナンパなんて成功する方が珍しいんだから、大人しく家に居ればいいのに。

 懲りないんだぁ」

 

 そう言って、こっちに駆け寄って来たコイツは俺の妹だ。

 黒髪のポニーテールの高校生2年生。

 チビで胸もない。残念だ。

 けれど、器量よし、性格よし、頭に難ありの可愛い妹。

 別に嫌いな訳ではない。

 だが俺はシスコンではない。

 ゆえに兄は妹に冷たく当たらねばならんのだ!!

 

「何しに来たんだよ。お兄ちゃんは今忙しいんだ。用もないのに話しかけてくんじゃねぇよ」

「彼氏持ちの子に声掛けてボコボコにされたから?」

「じゃかしぃわ!! 見てたのかよ! てか、それなら見てないで助けろ!」

 

 どうやら俺がナイスガイに袋叩きにされるのを見ていたらしい。

 薄情な子! お兄ちゃんはそんな風に育てた覚えありません!

 あのナイスガイ……彼女と仲良くやれよ、などと考えていると妹が手を引いてくる。


「お兄ちゃんは見境が無さすぎるんだよ〜。

そんなに色んな子に声掛けてると、いつか本当に痛い目に見るよ〜?」

「放っとけ。そんなのは痛い目見てから考えりゃ良いんだよ。んで、何の用だ?」

「あぁ〜……えっとね……これ、今月のバイト代。

 い、いつも女の子ばっかり追い掛けてるお兄ちゃんだけじゃ頼んないから」


 そう言って、我が妹は鞄から茶封筒を取り出して俺に渡す。

 中身はさっき下ろしたばかりのピン札。

 諭吉が6人も収められていた。

 自分も大概アホだという自覚はあるが、妹はもっとアホだ。

 妹の頭を軽く小突いてから、痛がる妹を他所に財布から諭吉さんを1人足してやる。

 俺は7って数字が好きなんだ。運気アップでナンパの成功率もコレで上がる事間違い無しだな。


「痛ったぁ〜、お兄ちゃん! 妹に向かって暴力とか最低! 私は仮にも女の子なんですけど。

 お兄ちゃん的にその辺どうなの?」

「確かに俺は女は殴らない主義だが、お前は女である前に妹だ。 あと、俺はお前を女として見た事なんて一度もねぇ」


 それに自分より年下の女の子に、金の話させるなんて恥ずかしくって外から歩けねぇよ。

 俺は妹の抗議など意にも返さず、両手を頭の後ろに組んで踵を返す。

 上に立つ者はいつだって背中で語りたいのさ。

 それが例え生まれた順だったとしてもな。


「せっかく給料入ったんだから、良いもん食って肉付けるか、偶には洒落た服でも買ってみりゃ良いんじゃねぇの〜? 知らんけど〜」


 妹の存在など忘れたかのように歩き出す。

 妹には言ってないが、俺はこの後バイトが有って忙しいのだ。

 ナンパの収穫は無かったが……ま!

 そういう日もあるわな。

 きっと明日はいい事あるだろ。

 

 俺はそんな風に思ってバイトに向かった。

 今生で、最後の出勤になるとも知らずに。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ