12.猫を拾う、そして難民を雇う地、ザナドゥ
ともかく人手が急に足りなくなった。
シスター3人は何か錯乱して面白い事になっているし。
うっかり蘇生した赤子達を含めたら60人近くに膨れあがった。
赤子はまだいい。 泣くだけだから。
しかし寝返りをうてるようになると彼らは機動力を得る。
転がるのだ。 案外器用に。
ハイハイができる赤子はもう手がつけられない。
まずじっとしていられない。
どこでも登る。 落ちる。 泣く。
何だ、この生き物達。 可愛い悪魔か?
俺とトレック少年率いる子供達24人では対応しきれない。
子供達は元気いっぱいに赤子や幼児達を捕まえては食べ物を食べさせてオムツを履かせる。
肌着でくるみ靴下を履かせゲップさせたりあやして毛布にくるみ寝かしつける。
しかし赤子達、なかなか寝ない。
腹が満ち体調良い経験が無いからテンション爆上げで絶叫したり探検しようと逃亡を試みたり。
このままでは子供達のスタミナも尽きる。
援軍だ、援軍がいる。
しかしそんな都合の良い人材が身近になんて……
いたぁ!
難民を雇えばいいんだ。
難民って何だ? 働き口を求めてるけど何かと難しい状況にいる人だ。
俺のチートな能力なら難しい状況を解決できる。
つまり、俺にとってあそこの人達は難民ではなく人材!
高給と厚待遇で囲い込め! 独占しろ!
さっそく子供達からしゃべりが上手い子、という基準で自薦他薦してもらい、女の子2を選出。
ゆくのだ! ヘッドハンター!
最終確認! 勧誘文言復唱!
「孤児院では乳幼児の育児経験のある人材を急募しています! 住み込みでひとまずはそこのシェルターを改良したような部屋ですが個室を提供できます! 日に2食付きで量も豊富! お給料は破格の日当銀貨1枚! 人数制限ありません! やれるというお方は手を挙げてください!」
おお、思った以上に完璧。
俺だったらカンペなしなら覚えるのに1日はかかるのに。
2人に飴ちゃんを入れた小袋を渡して行かせる。
特別報酬だ。
後は何人来てくれるかだな……
結果、37人。 ぞろぞろと岡を登ってくる。
2人を褒めそやす。 予想の倍だ。
「条件がこれだけ良いので当然です!」
なんという謙虚さ。
でもドヤ顔は隠せてない。 可愛い。
飴ちゃんばかりも可哀想なのでサクサククッキーを追加報酬で渡す。
キャーキャーと喜んで食べて皆に配ってる。
少しずつ休憩させよう。
さて、集まってくれたのが40代から60代の女性。
願ったり叶ったり。 任せて安心よ。
各人さっそく逃亡乳幼児達を捕獲してあやしてくれる。
口頭で業務について一通り説明を。
乳幼児自体の世話については皆の方が経験者なのでお任せ。
見慣れない粉ミルク、哺乳瓶、おむつ、肌着について説明する。
おむつの使い捨てに物凄い拒否感を示した。
気持ちは確かに分かる。
何せついさっきまで飢えと寒さと戦っていたのだ。
使い捨てなんて貴族にしか無いような概念をすぐに受け入れられるはずが無かった。
俺がこまめに回収・魔法的に再利用、という名目でクラフト能力で削除する形で妥協してもらう。
何せおむつを洗って再利用する労力は大きく、37人とシスター3人ではかなり苦しい状況になる。
何せ育児には隙間が無い。
乳幼児の集団となると戦場そのもの。
説明を聞きながら既に両手に赤子を抱える荒業を披露しなきゃならない人までいる。
昼夜を問わないこの仕事、厚待遇でなければすぐ逃げられる。
では、クラフターの能力でおむつ廃棄場所の穴を開けよう。
2メートル四方で……深さだけ4メートルにしよう。
乳幼児達が落ちないよう、木のクォーターブロックで1メートルの囲いを作って……
あとは木の板で蓋をして、捨てる時だけ蓋をずらしてもらう方向でひとまず簡易ゴミ箱完成。
…………ここで迷う。
水汲み問題だ。
超重労働のひとつだが欠かせない。
水を汲んで湯を沸かさねばミルクをあげる事も体を拭いてあげる事もできぬ。
常に水瓶をいくつも満たしておかないと仕事にならない。
手段は2つ。
ひとつ、水汲みの労働者を雇う。
厳しいだろうなぁ……
頼みの綱の難民は7割が女性。
残りの男性3割も体力仕事は向かない人ばかり。
そのパワーが残ってたらそもそも難民化しないものだ。
人足の仕事はどこでも日雇いであるから。
もちろん俺がポーションで体調を戻してしまえば良いのだが……
もうひとつの手段。 チートだ。
サンクラのブロックには水ブロックだけではなく、水源ブロックというのもある。
つまり、水が涌き出るブロックだ。
ゲームでは何も感じない程度のブロックだが、現実に出せるとなると超チート。
何もしなくても無限に水が出るのである。
少し迷ったが、やはり使っていこう。
好きに使っていい、と神様のお墨付きだし。
では噴水を作成。
石ブロックのクォーターで高さ1.2メートルくらいの水の貯まる枠を設置。
一ヵ所だけ枠を少し低くして溢れた水が下水口に落ちるよう木枠で流れを誘導。
そしてど真ん中に置物アイテム、肩に水瓶を担いだ女性像をセット。
よしよし、噴水らしくなった。
では水瓶の位置に水源ブロックをセット。
……うーん、不恰好。
水はこんこんと涌き出ている。 成功だ。
しかし水瓶から水源ブロックがはみ出ている。
大変シュールな光景だ。
水量も多過ぎて排水誘導口以外からも溢れ出している。
水源ブロックを一旦削除。
改めてハーフ水源ブロックにして、それをクォーターで設置……よし、上手くいった。
いかにも水瓶から水が涌き出てます感。
大満足。
よく見ると少しだけはみ出して水瓶の少し先からも涌き出ているが、注意深く観察しないと分かるまい。
次に簡易釜戸。
乳幼児達のミルクと体拭きのために常に一定温度以上の湯があると楽だ。
噴水のすぐ近くに壁面が一ヵ所空いた石壁の小屋を設置。
その中に簡易釜戸と釜をセット。
ここはクラフトアイテムで先ほどの水瓶女性像みたいに既製品があるので置くだけだ。
サンクラのブロック設置機能は希望的に1メートル単位なので細かい加工は少々苦手。
サンクラ2では倍率変更という追加機能でカバーできるようになるのだとか。
まぁそんな訳で釜戸くらいの物になると、クラフト能力で作るのでは無く、錬金釜でレシピを設定して材料をぶち込んで茹でて作るのである。
茹でて釜戸が作れるなんてシュール。
早く錬金釜設置して色々作りたい。
しかしあれを知らない人に見られるわけにいかないから設置場所は少々慎重に選ばないとならん。
そもそも俺が住む家すらまだ決めてない。
子供達を24人預かると決めたのだ。
家は急務だな。
隣接する数件をまとめて買えるような物件があるといいが……
ともかく仕事を進めよう。
後は従業員用のシェルターだ。
家と名乗りたいがドアすら無い豆腐建築では見栄も張れない。
後日、大工を雇ってちゃんとした部屋にしてもらう形で許してもらうとしよう。
まず石床を……ワンルームとしても広めに作ろう。
幅6メートルで奥行き10メートルでいいかな。
以外と狭いな……まぁ要望あらば後日拡張で。
で木の壁をクォーターで……天井まで3メートルで。
……以外と低いな。
天井を付けて中に入る。
あれ、以外と広いな?
何だろう、外から見ただけだと狭いのに中から見るとスケール感が変わる。
部屋目線で見れるというか何というか。
まぁ思ったより広くて安心だ。
後は出入口を部屋の中央から端にして、通路状にして目隠しと風の吹き込みを軽減。
衝立を正面に立てればシェルターとしてはひとまず十分だろう。
内側が殺風景過ぎるので簡易テーブルとベッドを作成。
テーブルは足が太すぎるし、ベッドは弾力性があまりないのはご愛敬だ。
クラフト能力ではこのあたりがひとまずの限界。
細かい作業をするモードがあるにはあるのだが、それはこだわりの遊びで今やるべき事ではない。
よし、これでシェルターはひとまず完成にしよう。
「ステファニー、これをレシピ登録してくれ」
『了解です。 完了しました。 レシピ名はシェルター:1 としておきます』
ありがとう。
レシピ登録さえしておけば次からは一瞬で再現できる。
サンクラからレシピだけは引き継がせてもらえなかったんだよなぁ。
というわけでレシピ再現で同じシェルターを設置しまくる。
3メートルくらいずつ間隔を開けてポンポンと……
おや、孤児院の敷地いっぱいいっぱいだ。
隙間だらけのボロ板外壁を一部削除。
平らに整地してシェルターを設置設置
60戸あればひとまず十分かな。
では少し離れた所から外壁を追加。
ハーフブロックの厚みで高さ3メートルくらいで十分でしょう。
ここを突破するくらいならボロ板外壁の方を突破した方が早いし。
シェルターが一通り完成したので従業員を呼んで好きな所に入ってもらう。
あ、入る前にここの毛布持っていくように。
ひとまず一人4枚ずつね。
何せドア無し、暖房無しだからな。
風が入り込み辛くしたつもりだが、やはり夜中はかなり冷えるだろう。
後は全員にサンクラのシスター服を3着ずつ、仕事着として配る。
皆、くたびれた服の人が多かったのでこれが結局一番喜ばれた。
やはり綺麗な新しい服はテンション上がるものだな。
トレック少年達の所に戻る途中で、猫を見つけた。
ヒマラヤンとペルシャ猫の混血のような……全身灰色から白の毛、いわゆる銀毛。
顔が凄く小難しい事を考えていそうなしかめっ面。
老猫なのか体は大きめで妙に胴が長く足が短い。
分かる人には分かるが、ガソリンスタンドでもらえるティッシュ箱のあの猫がもう少し年を取った感じ。
「んなああぁ」
ははは、太ってるからか老いてるからか、ニャーとは鳴けないご様子。
これはぜひお近づきになりたい猫。
「猫缶食べるかい? ドライな方が好きかな」
【通販機能】を立ち上げ、アマテラスへダイブ!
猫缶で検索すると……出てきた出てきた。
よし、まずは安定のムニチャームペット製品で。
「金のスプーン まぐろ・かつおにササミ入り」
これに決めた!
48缶セットで5,980円。
お得なセット品を購入!
アイテムボックスに商品が転送されてくる。
「さぁ、これを食べてみてくれ。 きっと気に入ってくれると思う」
木皿に3缶ほど開けて……うわっ、まだ開けきってないのにむしゃぶりついてきた。
そうか、お前さんも食べ物には苦労してたんだな。
「んなっ! んなっ!」
少し食べてはこっちへ謎アピール。
可愛い。
よほどお気に召された様子。
「どうだい、俺と一緒に来ないかい? 猫と暮らすの夢だったんだよ」
カキン
頭の中に何か当てられた感触。
攻撃的ではなく、何かを投げ掛けられた感じ。
どうやらこの猫の魔力。
精神感応系の能力がある様子。
多分、繰り返して互いに慣れていくうちにイメージとかをやり取りできるようになるのだろう。
異世界猫、賢い。
「ひとまず名前は……オスだからルーナは無理か。 じゃあ、何か動きがゆったりしているから『スロウリィ(ゆっくり)』にしよっか」
猫は突然びっくりしたような表情で猫缶を食べるのを辞めて見つめてくる。
フレーメン現象か?
パキン
また頭に魔力を投げ掛けられたがまだイメージ化には至らない。
ほどなく猫は再び猫缶に夢中になった。
まぁ反対っぽい感じは無いのでひとまずスロウリィで暫定命名。
イメージ疎通できるようになったら詰めていこうか。
「あっ! ご主人様が猫飼ってる!」
トレック少年が不思議な表現で俺を見つけて寄ってくる。
今日から猫のいる生活だぞー
子供達が大挙して押し寄せ、スロウリィを代わる代わる抱っこする。
「ね、猫は構われ過ぎるとストレスを強く感じる生き物なんだ。 なるべく遠巻きに愛でようなー」
「はぁーい」
既にスロウリィの表情がグギギギって感じになってる。
しかし意外や意外、異世界猫はここを根性で耐え抜いた。
爪で引っ掻くとかしてない。
できる猫だ。
しかし考えてみると、子供24人と暮らすのは猫にとってかなりキツいかも知れない。
せめてご飯くらいは好きなだけ食べさせてあげよう。
食後のオヤツに「ちぇ~る」とか、どうだい?
作者体調悪化につき更新が滞ります。
大変ご迷惑をおかけしてしまい申し訳ありません。




