1.転生の地、ザナドゥ
「拾い集めたアイテムも全部カンストだ。 所持金まで最大値だよ」
大人気だったVRMMOゲーム「サンドクラフトオンライン」もサービス終了日となった。
あまりに人気だったため、サンクラ2が制作されたからだ。
みんなこぞってサンクラ2へと移住した。
どうやら俺が最後の一人みたいだ。
データを引き継いで2を始めるにはアイテムを全部パージしなければいけない。
町のあちこちにアイテムが山積みで放置された。
所有権が放棄されたアイテムは近づくだけで自動取得してしまう。
町を歩くだけでみんなの放置していったアイテムを片っ端から吸収していく。
まるで思い出をかき集めて引き継いでいるような気になった。
「あの頃は楽しかったんだよ……でも、もう誰一人残っていない」
初期の頃から一緒に遊んでいた仲間は全員引退済みだった。
サンクラ2に移住したら俺はまたぼっちからスタートだ。
サービス終了のカウントダウンタイマーが表示された。
残り60秒。
思い出を、ありがとう。
ゆっくりと視界が白くなっていく……
本当はこのままずっとサンクラをプレイしていたい。
サンクラ2は確かに新しい機能満載で魅力的だ。
でも肝心の、一緒に遊びたいかつての仲間は誰もいないじゃないか。
カウントダウンが0になり、完全に視界がホワイトアウトした。
終わった。 俺の青春を費やしたゲームが。
40歳も間近の男が青春も何も無いか。 楽しい5年だった。
タイマー、-1、-2、-3……!?
終わらない!? バグか?
真っ白だった視界が開け、青い空が広がった。
ここは……そうだ、隠しイベントで使われた神界ステージ「空中浮遊島」だ。
その浮遊島のひとつに立っていた。
かつてレイドボスである邪神がいた場所には、なぜかちゃぶ台。
そこには茶を飲むご老人が一人。
「やぁ、兼科巡流くん。 ようこそ、本当の神界へ」
「本当の……?」
「そうじゃ、君は死んだんじゃよ。 このゲームのサービス終了と共にの」
「ええっ!? 死んだ!?」
「そりゃもうポックリの。 ブラック企業で心身ボロボロ、むしろワシの力で今日一日持たせておったんじゃよ」
「そ、それは申し訳ない事を。 すると貴方様は神様……?」
「アタリじゃ。 実はこのゲームはワシらも制作に参加しておったんじゃ」
「は、はは……正しく『神ゲー』だったわけですね。 こりゃもう笑うしかない」
「上手いこと言うの。 そこで君を異世界転生させようと思うんじゃが、どうだろう?」
「それは願ってもない。 しかし本当に俺は死んでしまったんですか……」
「茶の香りと味がするじゃろ。 今のVR技術ではまだ無理なものじゃ。 死んだ事は信じられずとも、VR空間じゃない別の空間に飛ばされたのは信じられるじゃろ」
「た、確かにこれは信じるしかないですね。 でもなぜ俺なんです?」
「それは君がこのサンクラを愛してくれたからじゃ。 みすみす死なせるにはあまりに惜しいと思ってなあ」
「あ、ありがとうございます! ただ、その愛情も半分はかつての仲間なのが申し訳ない所ですね」
「それも込みでゲームへの愛じゃよ。 ワシらの作ったゲームを愛してくれてありがとうの」
「お礼を言いたいのはこっちの方ですよ。 5年を費やして尚、悔い無しです」
「さて、転生してもらうのはサンクラ制作の参考にした異世界でグランガイアスと言う、いわゆる剣と魔法のファンタジー世界じゃ」
「それは楽しみですね」
「ワールドのシード値で言えば魔力高めじゃ。 少しうらぶれとるがの。 もちろん記憶はそのまま、言語理解も完備じゃよ」
「ありがてぇ、ありがてぇ」
「そして待望のチートじゃが、サンクラをそのまま丸ごと君にあげよう。 ゲームのシステムから何から全てそのまま持っていくのじゃ。 今度は現実としての」
「本当ですか! じゃあどこでもブロックを設置して壁にしたり建物造ったり……」
「そこがサンクラ最大の魅力じゃからのー もちろんガイドのスティーブもな。 おっと君はステファニー派だったか」
「ええ、さすがにナビゲーターがヒゲもじゃのおっさんなのはちょっと」
「ぐぬぬ、人気だったのに」
「洋ゲーっぽさが好きな人にはね」
「辛辣じゃのう。 何か質問はあるかの?」
「特に無いかな……最初の出現地点はどこですかね?」
「おお、じゃあなるべく町の近くにしてやろう。 目立つといかんから目の前というわけにはいかんが」
「助かります」
「では、準備はよさそうじゃの。 ワシとのメッセージ機能もあるから、ちょいちょい連絡よこしんさい」
「はい、必ず」
「今度こそ良い人生をの。 与えた能力を活用して、新しい人生を楽しみ尽くしておくれ」
「神に誓って」
「そりゃワシじゃ」
「そうでした」
互いに笑い合っていると視界が再び白くなっていく。
新しい人生の始まりだ。
あ、そう言えば神様の名前を聞き忘れた。
落ち着いたらメッセージ機能で尋ねよう。
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目を開けると草原の道に佇んでいた。
前後には道が続いている。
「ここが異世界グランガイアスか」
一瞬にして転生した割にはのどかな光景に気が緩む。
しかし視界にはサンクラのゲームのシステムウィンドウが被さっている。
「うん、ゲームそのままだな。 HPとMPも引き継いでくれてる」
レベルが最大だから両方ともカンストの最大・現在値共にクラス最大ポイントだ。
装備なしのままでもドラゴンのブレスを100発は耐えられる。
むしろ属性装備の良いのを付けたらブレスで回復するけどな。
では、なにはともあれサンドクラフトオンラインの目玉機能であるブロック設置をしてみよう。
視界下方のショートカットに入ってる「土ブロック」を意識する。
薄い緑の点線で構成された格子模様、グリッドラインが浮かび上がる。
うん、サンクラのシステムそのままに使える。
手前5mに土ブロックを縦に3つ。 ブロック1つは1m×1m×1mの立方体。
トントントン
軽妙なエフェクト音と共にブロック3つが瞬時に出現した。
土ブロックはカチカチに固められているのか崩れる事はない。
試しにパンチしてみると手が痛い。 硬すぎ。
ああ、デフォでロック機能をオンにしてあるのか。
ロック機能をオンにしてブロックを出すとブロックの強度がとても増す。
空中にも固定されるようになる。
しかしブロックを通常の10倍消費してしまう。
ロック機能は基本解除のままに設定しておこう。
では出した土ブロックを「削除」する。
カリカリカリ
土ブロックは99999個から99969個になり99999個に戻る。
本来は半分しか還元されないが、俺のクラス『クラフター』に限り全部戻ってくる。
よしよし、何から何までサンクラのシステムそのままだ。
『ハロー、マスター巡流。 気分はどうですか?』
視界の右側に黒髪メガネ美女のアイコンが表示される。
ナビーゲーターのステファニーだ。
「良好だ。 ステファニーも美人さが増したな」
『ありがとうございます。 現実世界に転写される際に私も機能を拡張して頂きました』
「それは嬉しい知らせだな。 ではナビゲート機能を一通りオンに設定してくれ」
『かしこまりました。 早速ですがレーダーマップに感あり。 南の森からです』
「魔物かな?」
『現地一般人と推測されます』
安心しつつも南の森の方に注目する。
どうやら年の頃10歳程度の少年のようだ。
少年もこちらに気付き、手を振りながら笑顔で歩いてきた。
さて、何て受け答えしようか……
「やぁ旦那、ごきげんよう。 ボクはトレック、旦那は旅行者かい?」
「こんにちは、トレック少年。 俺はメグル。 メグル・カネシナ、魔法使いだ」
人の良さそうな少年だし、あまり警戒するのも可哀想というもの。
土ブロックを出したり消した所を見られていた可能性もあるから魔法使いと言っておこう。
「凄い! 魔法使い! しかも家名持ちだなんて偉い魔法使い様なんだね」
「そうでもないさ。 トレック少年は森で何かやってたのか?」
「うん、親切な冒険者たちから木の実がたくさん生ってる所を教えてもらってね。 ほら、大量大量!」
「凄いな、袋一杯じゃないか」
「へへっ、旦那にもおすそ分け。 ちょっと渋いけど生でイケるよ!」
「どれどれ、じゃあひとつ……うん、渋い。 エゴい」
手渡しされたその少年の手がとても暖かったのが印象に残る。
……この世界での良き隣人に出会えたのかも知れないな。
どんぐりに似た木の実は案外柔らかかったが、やたらと渋かった。
殻と皮を取ればマシになるかも知れないが、正直現代日本人の俺にはキツい。
トレック少年も平然と食べてるから毒はまずありえまい。
「皮を剥いて水にさらしてから潰して焼くともっと旨いよ」
「はは、それを先に教えてほしかったな」
しかし少年は汚れたボロ服だ。 家計の助けにと森に入ったに違いない。
人懐っこい少年の親切をとても嬉しく思う。
どれ、お返しをしてあげよう。
サンクラのアイテムストレージから……あったあった。
「じゃあ俺からもお返しにこれをあげよう。 飴ちゃんだ」
「わぁ、綺麗な赤い半透明だね。 食べ物?」
飴を知らないか。
「ああ、口に入れて噛まずに舌で転がすようになめるんだよ」
「こうかな……うわっ! あっっっまぁぁぁぁーーーい!」
大喜びのトレック少年を見て満足。 甘い物が嫌いな子供なんていない。
「流石魔法使いの旦那様だ! こんなに甘くて美味しいものを持ってるなんて!」
「喜んでもらえて何よりだ」
「町の皆も絶対食べた事ないよ! よっぽどのお金持ちじゃないとこんなのお目にかかれないに違いない!」
「そこまで大げさなものでもないがなあ」
「……そうだ、旦那。 ボクをガイドに雇わない? 町へいくんでしょ?」
「ああ、トレック少年はガイドもできるのか」
「うん、下町ならお任せだよ!」
「頼もしいな。 ぜひ頼むよ。 それで、料金はいくらだ?」
渡りに船だな。 なにせ町がどっちの道か、どのくらい距離があるかも分からなかった所だ。
あるいは神様がここまで見越して出現ポイントを厳選してくれたのだろうか。
この魅力的な提案に乗らない手はない。 少々ぼったくられるくらいは構わないさ。
「1日で銀貨1枚でどうかな?」
「銀貨? どれどれ、あー……今、金貨しか持ってないんだが金貨でもいいかな?」
アイテムストレージでは金貨がカンストしていて9999億9999万9999ある。
サンクラには銀貨なんてなかったからなあ。
トレック少年は目を丸くして口をポカンと開けている。
「だ、旦那様。 普通はここから値下げ交渉をするもんだよ……」
「そういうものか。 だが本当に金貨しか無いんだ」
「いくら旦那がお金持ちで気前が良くても、相場の10倍以上をもらうわけにはいかないよ!」
「トレック少年は正直者だな。 飴ちゃんをもっとあげよう」
「ありがとう! そうだ、じゃあ10日間ガイドするね!」
「まぁそれでいいかな。 ならガイドさん、早速町へ向かおう。 今日の宿を確保しなくては」
「オッケー! じゃあこっちへ!」
「はは、走るな走るな。 転ぶぞー」
道すがら、トレック少年に町の情報を聞く事にしよう。
「そう言えば、何て名前の町なんだ?」
「【約束の地、ザナドゥ】だよ!」
─続く




