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第六話:僻地の村の冒険者ギルドに行く

「出発ってどこへ行くんだ」

「とりあえず冒険者ギルドへ行って、お偉い魔法使いさんの居場所を教えてもらいましょう」

「そうか、ギルドなら知ってるかもしれんなあ。じゃあ、俺の上に乗りな」


 洞窟の入口前でドロシーが俺の体の上部の平らな部分によじ登る。

「じゃあ、出発するぞ」

 俺が地上から浮いて動き始めた途端にドロシーが転げ落ちた。


「いたーい」と背中をさすっている。

「おい、大丈夫かよ。なんで落っこちるんだよ」

「だって、急に動くんだもん」


 俺はゆっくり動いたつもりだったのだが、この娘、少しとろいんじゃないのか。


「とにかく、今度は俺の上に登ったら角みたいな部分をちゃんと掴んでろ」

「はい、わかりました。岩石男さん」

 ドロシーは再び俺によじのぼって角を掴む。両足は俺の目の上の部分、まあ額と言うか、そこに乗せる。


「それから、岩石男って呼ぶのはやめろ。俺の名前はアレキサンダーって言うんだ」

「あれ、人間の頃の記憶は失ったんじゃないんですか」

「エディに教えてもらったんだ。俺の逃げた仲間がそう呼んでたみたいだな。って、しまった! 他人には名乗るなってエディから言われてたんだっけ」


「他人に本名を名乗ると魔法が解けるとかするんじゃないですか」

「うーむ、今、名乗ったけど全然変わらないな」


「まあ、とにかくアレキサンダーさんなんて長たらしいし、名乗るの禁止って言われているんだから、そう呼ぶのはやめときましょう。と言って、がんせきおとこさんってのも長いし。そうですね、ガンちゃんって呼びますけどいいかしら」

「なんじゃそりゃ。けど、もういいや。勝手にしてくれ」


 俺はドロシーを乗せて、浮上した。


「ちゃんと捕まってろよ」

「はい、ガンちゃん」


 ゆっくりと慎重に動き出し、だんだんと移動速度を速めた。

 山道をドロシーを乗せてスイーっと空中移動する。

「わーい、おもしろーい」とドロシーがはしゃいでいる。


「おい、はしゃいでいると、また落っこちるぞ」

「大丈夫よ、ガンちゃんの角をしっかりと掴んでいるから」


 枯葉の舞う中、山道を下る途中で何人かの旅人たちにばったり出くわした。


 皆、俺のいかにも凶悪なモンスター姿に仰天するが、上に乗っているドロシーが、

「みなさーん、驚かないでくださーい! これはモンスターじゃありませんよー! 単なる乗り物でーす!」と片手を振りながら、ニコニコと挨拶する。

 すると、かわいい女の子が乗っているので、皆さん安心したのか、なかには手を振り返してくれる人もいた。


「ガンちゃん、乗り物作戦成功ね」

「うむ、これなら冒険者とかが攻撃してくることもないだろう」


 山道を下りて、近くの街道に入った。


「ところで、お前、冒険者ギルドの場所知ってるのかよ」

「はい、事前に調べておいたから知ってます。もともと、そこの冒険者ギルドで有名な魔法使いの方を紹介してもらうつもりだったんですよ」


 俺たちは街道を冒険者ギルドに向かって進んだ。


 すると途中で、前方に馬車が走っているのが見えた。

 馬車の御者が俺を見て、巨大な岩のモンスターが宙を浮いて飛んでいるのにびっくりしているが、ドロシーが追い抜きざまに例の手を振って挨拶をすると安心したようだ。


 と言うか、御者台から立ち上がり、馬車の馬に鞭を打って速く走らせ始めた。

 どうも変な岩のかたまりに追い抜かれたのがくやしいみたいだな。

 俺たちを追い抜こうとする。

 対抗心むき出しだ。

 たまにこういう人っているよね。


「あ、ガンちゃん、馬車に追い抜かれそうですよ」

「よし、もっと速度を上げるか」

 馬車と競争になった。


「ガンちゃん、行けー!」とドロシーが楽しそうに大声をあげた。

「ああ、行くぜ、ドロシー! ちゃんと捕まってろよ!」


 あっという間に馬車を引き離してやった。


「おい、ドロシー、馬車の野郎はどうなった」

「もう遥か後方、見えなくなりました。大勝利ね、ガンちゃん!」と喜ぶドロシー。


 今まであまり気にしていなかったが、俺は馬よりかなり速く移動することが出来るようだな。

 

 街道を抜けて小さい村に到着。

 かなりの僻地だな。

 周辺にはなにもないぞ。


「なんだかしょぼい村だな」

「一番近い冒険者ギルドがある場所を探したらここだったんですよ」


 村の中央辺りに教会があり、それの少し離れた隣に小さい建物があった。

 そこが冒険者ギルドのようだ。


 入口の前でドロシーが降りた。

 この入口の大きさだと、俺の巨体ではギルドの建物の中には入れない。


 ドロシーが『これはモンスターではありません。乗り物です』と書いた紙を俺の額に貼った。

「ガンちゃんはここで待っててください。ギルドの人に有名な魔法使いについて聞いてきます」


 俺はなるべくじっとしている。

 下手に動いたら、チンピラ冒険者が攻撃してくるかもしれんからな。


 冒険者ギルドの前を通るひとたちが俺を見て、皆一瞬驚くが、紙を読んでそのまま素通り。

 中には、「何だ、この変な置物は」と蹴っていく奴もいたが我慢する。 


 ドロシーが冒険者ギルドから出てきた。


「ガンちゃん、ちょっと遠いんですが、この村の東の草原を抜けると一軒家があって、そこにエイブラハムって名前の魔法使いさんがいて、わりと有名らしいですよ」

「なんだよ、わりと有名って」

「えーと、この辺りでは有名ってことらしいです。冒険者ギルドの主人さんが言うには、ここはかなりの田舎なんで本当に優秀な魔法使いを探すには首都に行ったほうがいいとも言われましたが、どうしましょう」

「まあ、仕方がない。とりあえずわりと有名なエイブラハムさんのとこに行ってみるか」


「じゃあ、私は食料とか買い込んできます。ガンちゃんは必要ないですよね」

「ああ、俺は道端に転がってる石で充分だからな」


 田舎で有名な魔法使いか。

 あんまり期待できんなあと俺が考えていると、雑貨店の前でなんだか騒ぎが起きているのに気がついた。


 よく見ると、ドロシーが冒険者らしい若い三人組に絡まれている。


「おい、ねーちゃん、かわいいじゃん。俺たちのパーティーに入らねーか」

「ちょ、ちょっと手を離してください。あ、あの、私は冒険者じゃありません」

「さっき冒険者ギルドから出てきたじゃねーか。俺たちと楽しく冒険しようぜ」


 ヘタクソなナンパだなと思いながら、俺はスイーっと近づいて声をかけた。


「おい、その娘から手を放せ」

「なんだ、お前はって、ウワー!」


 チンピラ冒険者どもが俺の姿を間近で見て仰天している。

 ただ、すぐに剣を抜いて俺に襲いかかってきた。


「こ、このモンスターめ、覚悟しろ!」


 逃げ出すかと思ったら、一応、冒険者としての自覚はあるらしいな。

 俺は鼻くそ弾を威力を弱めて軽く発射。


 チンピラどもの先頭にいた奴のお腹に当たって、そいつは地上へぶっ倒れる。

 それを見た他の二人は逃げ出した。


 しかし、俺が動き出して鼻くそ弾を発射したのを見て、周囲にいた人たちがびっくりしている。

「モンスターだ!」と大騒ぎになった。

 他の冒険者たちが駆けつけてきた。


 やばいなあ、このままだと血祭りにされてしまう、どうしようと思っていると、冒険者ギルドの主人がやってきて事情をみんなに説明している。どうやら俺が元々は人間で、魔法で今の姿に変身させられただけで危険はないらしいと理解してくれたようだ。


 ふう、あやうくモンスター岩石男として退治されるところだった。

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