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第三話:鼻くそ弾に耳くそ弾

 なんとか村の連中を引き離し、洞窟に逃げ帰るとエディは石をぶつけられた背中のキズに村から盗んだであろう軟膏薬を塗っている。

 しかし、背中なんで手が届かないところがある。


「おい、ちょっと薬が届かない部分があるんでお前が塗ってくれ」と俺はエディに頼まれた。

「無理だよ、俺には手がないんだから」と断ると、

「何だと、この役立たず野郎! さっさと死ね!」とエディにまた鉄の棒で殴られた。


 こんな姿にしたのはお前だろーが、このクズ野郎!


「だいたい、あんた魔法使いなら回復魔法とか使えないのかよ」

「うるせーよ! そんなどうでもいい魔法はエリートのおいらには似合わないんだよ!」とわけのわからないことをわめくエディ。


 再び、ポカポカと俺を鉄の棒で殴る。

「痛い! 痛い!」


 もう、いいかげんにしてほしい。


 洞窟では毎日エディは盗んだ酒をガブガブと飲んでやがった。

 本物のアル中だな。


 ちなみに俺は人間の食べ物は食えない。食べるのは主に石だ。大きな岩石から小石など、とにかく石を食べている。俺の歯も舌も頑丈だ。但し、舌の付け根の部分だけは少し軟らかい。俺の体で弱点と言えば、そこと両目くらいなもんだな。目は頑丈なまぶたで瞑れば大丈夫なんだけど。他は全て岩のように硬い。


 つーか岩のモンスターだからな。


 麓の村の連中が大勢でこの洞窟まで押しかけてきたことがある。

 そういう時は、エディは怯えて洞窟の奥にこそこそと隠れて、入口は俺の巨体を使ってふさがせた。


「おい、泥棒で痴漢のあのろくでなし野郎を出せ!」と洞窟の入口に陣取っている凶悪なモンスターみたいな俺にビビりながらも、村人たちが抗議してきた。俺も本心ではさっさとこの人間の屑を洞窟の外に放り出して、村人にボコボコにされるのを見物してやりたかったんだが。


 そんなことしたら俺にかけた魔法を解けなくしてやるぞとエディに脅されていたんでなあ。

 残念だ。


 エディが洞窟の奥から俺に叫ぶ。


「お前が謝って、村の連中に帰ってもらえ!」

「なんで俺が謝るんだよ」

「逆らうんじゃねーよ! おいらの言うこと聞かねえとお前は一生モンスターのまんまだぞ」

「なんかテキトーな魔法で追い返せよ」

「こんな下らん連中に使うにはおいらの魔法はもったいないんだよ」


 なに言ってんだ、こいつは。


 しょうがないので俺は村人たちに低姿勢で謝る。

「あの、誠に申し訳ありませんがエディも反省しておりますので、なんとか許してやってくれませんか」と頭を下げた。

 と言うか体全体を下に向けた。


「ふざけんな!」と村人が鋤や鍬で俺を攻撃してくるが、俺の頑丈な体には全然歯が立たない。


 但し、攻撃されるたびに痛いので、仕方なく口の上部にある穴から石の弾を威嚇発射して村人たちを追い払った。


 この弾を俺は「鼻くそ弾」と呼んでいる。これは普段は一発ずつ発射しているが、高速度で二穴から同時に連発も可能だ。ちなみに両側面の穴からも同様に石の弾を発射出来る。こっちは「耳くそ弾」だな。


 こんなしょーもないことが何度もあった。


 おそらくエディの奴はそこらの村々に行っては食料や酒を盗んだり、痴漢などの変態行為をしたりと、こんなことを以前から繰り返していたんだろう。記憶にはないが、俺も村人に頼まれてエディの奴を捕まえにきたのかもしれないな。


 その結果、エディに反撃されてモンスター岩石男になってしまった。

 情けない。


 その他、エディの奴は退屈になると俺を苛めて楽しんでやがった。

 酔っぱらったあげく、

「おいらは本当はエリートなんだ。こうなったのも全部お前のせいだ」とかなんとかわめきちらして鉄の棒で俺をガンガン叩く。


「痛い! 痛い! なんで俺のせいなんだよ!」

「うるせー! とにかくお前のせいだ! 全部お前のせいだ! おいらの人生を返せ!」とかまたわけのわからないことを叫ぶ。


「俺が何したって言うんだよ」と俺がエディの奴に抗議すると、

「お前は何にもしてねーよ、お前は何にもするな、お前はおいらに従ってりゃいいんだよ! とにかくおいらも悩んでるし困ってるんだよ! くそー! あいつらただじゃおかねーぞ!」とまたまたわけのわからないことを絶叫しながら洞窟の中を走り回る。


 エディの奴、頭がおかしいんじゃねーのかと本当に思ったもんだよ。

 どうやらかなり恨みのある相手の代わりに俺に八つ当たりしているみたいだな。


 洞窟の中は酒の空瓶だらけ。そこら中に転がっている。

 エディの奴が、酔っぱらってそれを誤って踏んでしまい、前方にスっ転んで顔面を思いっきり地面にぶつけたことがある。


 ざまーみろ! と思いつつもエディに注意した。


「おい、エディ、大丈夫かよ。危ないからこの酒瓶の山を片付けたほうがいいんじゃないのか」

「う、うるへー! おいらはエリートだから大丈夫なんだよ」

 鼻血を出しながらわめくエディ。


 なんでエリートなら大丈夫なのか、わけわからん。


「気になるなら、お前が片付けろ」

「はい、はい、わかりましたよ」


 俺は手が無いので、口でくわえて空瓶を洞窟の隅っこに整理してやる。

 しかし、エディの奴はアル中なんで、いつの間にか酒の空瓶がそこら中に転がっている状態に戻ってしまった。


 俺がいくら片付けてもすぐに元に戻ってしまう。

 その繰り返しだ。

 こいつは本当にエリートかね。


「あんたエリート魔法使いなら、なんで痴漢なんてするんだよ」と聞くと、なぜかエディの奴が黙り込む。


 しばらくして、

「人恋しいからさ……孤独なんだよ」となんだか諦念に達したような感じで話す。


「孤独って言うんなら、俺を人間に戻せばいいじゃないか。友達になってやるぞ」

「うぜーよ、モンスターのくせに。お前は最凶で最悪のモンスターだ!」とまた俺に暴力を振るう。


 痛い、痛い。

 いったい、なんなんだよ、こいつは。

 俺をモンスター岩石男に変身させたのはお前だろーが。


「あー、もうおいらは死ぬべきなんだ! そんでお前も死ぬべきだ!」と涙ながらにわめくエディ。

 なんでアル中と心中しなきゃいけねーんだよ!

 死にたいなら勝手に一人で死ね! と思ったが、俺がモンスターのままでこいつに死なれたら困る。


「まあ、ちょっと落ち着けよ。生きてればなんかいいことあるよ」とエディを慰めてやると、

「うるさい! もう何もいいことなんかねーよ!」とまたまた鉄の棒で俺を殴りつける。


「イテテ! ちょっと、落ち着けよ」

「ちきしょー! いっそ、こっちから出向いてやる!」

「ん? どこへ出向くんだ?」


「うるせー! この役立たず! お前じゃダメなんだよ!」


 エディは意味不明なことをわめきちらし、また俺を殴りまくる。

「痛い! 痛い!」


 それにしても、この痛みなんとかならないかな。

 なんで痛覚を残したんだ。

 エディに聞いてみた。


「こんな頑丈な体なのになんで叩かれたりすると痛いんだよ」

「えーとなあ、それはなあ、つまりだなあ……お前が人としての痛みを忘れないようにするためにそうしたんだ。人間は叩かれると痛い、それを忘れなければ人間に戻ったときも他人に優しくなれる。人としての心を忘れないためにおいらがそうしたんだ……えーと、そういう魔法をかけたんだ。とにかく、だからな……そう、モンスターの姿のままだとそのうち元は人間であったことを忘れてしまうかもしれん。お前は凶悪なモンスターではない、人であると。そういうことだ。わかったな。ありがたく思えよ」


 なに偉そうに言ってんだよ! この変態痴漢野郎!


 そんで終いには、俺の大きな目に胡椒をふって、俺が目にしみて「痛い、痛い」とゴロゴロ転がっているのを見てゲラゲラと大笑い。


 最低最悪な野郎だ。


 いっそのこと、この俺の巨体で押しつぶして真っ平にしてやりたかったが、人間に戻れなくなるのは嫌なので我慢したよ。


 近くの川に行って、目を洗うと川の水面に映った顔は凶暴そのもの。

 どっから見ても凶悪なモンスターだ。


 くそー! 人間に戻ったらエディの奴をボコボコにしてやるぞ。

 って、もしかしてまた返り討ちにあって、今度は一生このまんまってのも怖いな。


 エディに確かめたことがある。


「人間の頃の俺ってどんな感じだったんだ」

「えーと、チビでデブ、何才か知らんが頭髪も薄かったな。おっさんっぽかったぞ。おまけにブサイクの冴えない奴だったよ。おいらの魔法でひとひねりだった。まあ、お前は冒険者としては無能みたいだな」


 その言葉を聞いてガッカリした。

 

 とは言え、チビ、デブ、ハゲ、ブサイク、おまけに無能の五重苦でおっさんであっても、今のモンスター岩石男よりはマシだ。


 ああ、とにかく早く普通の人間に戻りたい。

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