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第一話:岩石男

 シュッ!


 弓から矢が放たれた音がかすかに聞こえてきた。

 その矢は俺にコツンと当たった。


「痛い!」


 昨夜の一件で俺はよく眠れなかった。

 そのため、昼になっても洞窟の入口の前でうつらうつらとしていたのだが、矢が当たった痛みで俺は目を覚ました。


 もちろん矢が体に刺さったりはしないが、痛い。


 続いて、どこぞの冒険者パーティーの剣士らしき人物が俺の方へ走り寄ってきた。

「覚悟しろ、モンスターめ!」とガンガン剣で叩いてくる。


 これもまったく俺の体には歯が立たないが、すっごい痛い。

 表面は硬いのに痛覚は残っているんだな。


 多分、エディの嫌がらせのためだろう。


「痛い! 痛い! 俺はモンスターじゃないよ、魔法で変身させられたんだよ! 今はこんな姿だが本当は人間なんだよ!」

「うそつけ! これがモンスターじゃなければなにがモンスターって言うんだよ!」

 そう叫びながら剣士は執拗に攻撃してくる。


 他にも斧を持ったウォリアーや弓使いが近づいてきて、俺は冒険者たちに袋叩きにされた。


 もうこうなったら仕方がない。


 反撃するかと思ったら、後方からこの冒険者パーティーのリーダーらしいローブを着こんで杖をもった魔法使いの女が叫んだ。


「ちょっと待って! 私たちの目的はモンスター退治じゃなくて、エディって奴を生け捕りにすることでしょ。その岩のようなモンスターを倒しても報酬は出ないわよ」



「いや、だから元は人間だったんだって!」と俺は大きな口でわめいた。



 巨大な岩。

 薄茶色のゴツゴツとした表面だが、全体的に見ると丸っこい。


 前面は馬鹿でかい目と口でほとんど占められている。

 目は吊り上がり、口にはデカい歯が並んでいて、上あごからは鋭い牙が二本飛び出ており、下あごにもやや小ぶりの鋭い歯が同様に二本出っ張ている。


 いかにも凶暴なモンスターっていう外見だ。


 口の上部には穴が二つ開いていて、鼻の穴のように見えなくもない。

 体の両側面にも小さい穴が開いている。こっちはまるで耳の穴みたいだな。


 体の天辺には、短い角みたいなものがこれまた二本飛び出ている。

 まるで鬼みたいだな。

 頭しかないけど。


 胴体や手足はない。

 上部には平らな部分がある。


 移動するときは浮くことが出来る。

 残念ながら天高く飛ぶようなことは出来ず、せいぜい人間の大人の背の高さを少し上回るくらいまでだ。


 底は平らになっていて、真ん中よりやや後方に青い輪っか状に光がきらめいている部分がある。これは、この頭というか胴体というか、とにかくこの体を浮かせるための魔力を発しているために光っているのだろうか。この青い光は口の中から出して前方を照らすことも出来る。


「この青い光の力で俺は浮かぶことが出来るのか?」とエディに聞いたことがある。


「ああん? 違うよ、そうじゃねーよ。それはなあ……ああ、いいや。面倒くせーや。そうかもな、そうだろう。それでいいんじゃねーか。どうでもいいよ、そんなことは。だから、お前はそう思ってろ。まあ、いずれ話すよ」ってわけのわからない適当な答えが奴から返ってきた。


 このエディって男はいつも酒を飲んで酔っぱらっていやがった。


 エディの野郎は、俺の質問なんてまともに答えたことなんてない嫌な奴だった。

 それとも、こいつは酒の飲み過ぎで頭がまともに働いてなかったかもしれないな。


 他にもエディが、

「その光で暗いところも照らすことが出来るんだから、おいらに感謝しろよ」なんてのたまいやがった。


 感謝なんかするわけねーだろ、このろくでなし野郎! さっさと俺を人間に戻せ! とわめきたくなったもんだ。


 と言うわけで、これが俺の今の姿だ。


 ろくでなしで、痴漢で、変態で、人間の屑でもある性格最悪の魔法使いエディに、俺はこんなモンスターに変身させられてしまった。


 さて、

「おとなしく痴漢のエディを引き渡しなさい。そうすればあなたに危害はくわえない」と魔法使いの女が俺に呼びかけた。


 散々ぶん殴っといてなにが危害はくわえないだと俺は少しムッとした。しかし、この冒険者たちと殺し合いをしても仕方がないし、だいたい俺にはエディを守る義理はないしな。



 それにエディの奴はもうあの世に逝っちまったんだから。



「悪いけどエディはもう死んだよ」

 冒険者の連中は俺の答えにびっくりしている。


 俺はフワフワと浮きながら洞窟の中へ冒険者たちを案内した。


 少し奥へ入ると小さい机の他、棚が置いてあり、後はそこら中に空の酒瓶がいっぱい転がっている。他は生活用水が入ったバケツやわずかばかりの食料があるだけ。


「アル中のエディは昨日の夜、酒のボトルを誤って踏んだ拍子にすっ転んで、洞窟の地面に頭を打って死んじまったよ」と俺が説明すると、

「噓つけ、どこかに匿っているんだろ」と剣士に詰問された。


 俺は冒険者たちに、洞窟の中に石やら土で盛り上がった山を青い光で照らして見せてやった。

 その上には空の酒瓶が置いてあり、「エディの墓」と書いてある。


「それが、あんたらが捜していた人物の墓だよ」


 洞窟の軟らかい土の箇所に口を使って穴を掘ってエディを埋めた墓だ。


 本当はそのままほったらかしにしてやってもいいくらいだったのだが、まあモンスターに変身したとは言え俺には人間としての心はちゃんと残っているので、エディの亡骸を布にくるんであとは適当に埋めてやった。


「ざまーみろ!」と思いつつも、落胆しながらだ。


 冒険者の連中が墓の土を取り除いて確認している。

「手配書と同じ顔ですね」

「やれやれ。依頼は生け捕りだったから、報酬は無しか」


 冒険者たちはすごすごと洞窟から引き返そうとする。

「おい、ちょっと待ってくれ!」と俺は慌てて魔法使いの女に声をかけた。


「俺はエディの魔法によってこんな姿にされたんだが、あんた元に戻せないか」


 すると魔法使いの女は俺の方を見て、

「あら、エディって奴は痴漢で泥棒って聞いてたけど、魔法使いだったの。うーん、私がその魔法をかけたわけじゃないんでね。もっと魔力の強いお偉い魔法使いさんなら可能かもしれないけど、私にはちょっと無理ね。じゃあ、悪いけど私たちは帰るんで。まあ、あなたが危険ではないってことは冒険者ギルドに報告しておくから、岩石男さん」

 そう言って、冒険者一行は俺を残して、さっさと洞窟から出て行ってしまった。


 ったく、俺はモンスター岩石男じゃなくて、人間だってーの!

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