俺様霊媒師による抹茶好きの封印方法 (コツは斜め45°)
『抹茶』『斜め45°』『ラブコメ』という3つの単語を最初に決めて
三題噺のような感じで物語を作ってみました。
ラブコメと抹茶の要素全くなくて笑った。
正方形が大好きだ。
何故ならば、偏りがなく、微塵の狂いもないからだ。
いわば完璧な存在といってもいいあのフォルム。
故に完璧主義者たるこの俺、椿晋太郎は結界術を使う時に
この図形をしばしば用いることがある。
「おう椿、今回もテスト満点だったな。」
「凄いねー椿くん。」
「勉強凄い出来る。」
先日実施された期末テストを返却しながら科学の教師が俺にそう呼びかける。
愚問だ。この程度の問題でつまずくような低能の男ではない。
まぁ真を言えば、満点を取るためにおおよそ凡人では成し遂げられない量の
勉強をしたに過ぎないのだが。
学校の勉強如きでつまずくわけにはならない。
俺にはやることがあるのだから。
「コラコラ工藤、昼寝をするのは止めなさい。」
教師は魔の抜けた声で俺の斜め前の席の人物へ注意をした。
しかし工藤 紅葉はその台詞を聞いても微動だにしなかった。
ヤツは背中を猫のように丸め、腕を枕に夢の世界へ旅行中だ。
後ろからではわからないが、その死ぬほど長い真っ白な髪の毛に
埋まるように眠っていることだろう。
ヤツの神経の太さはガス管並で、他の授業もこんな調子で乗り切っている。
故に教師達も真剣に注意はしない。完全に諦めている。
しかしそれでは他の生徒に示しがつかなくなるから、声だけはかけているのだ。
「それでいい。」
この学校の教師とかいう連中の行動には甚だ反吐が出るが、
アイツを刺激しないだけ、俺の役には立っているというものだ。
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深夜、草木も眠る丑三つ時。
この時間帯はヤツらの時間だ。
「うーーーらーーーめーーーしいーーやぁぁぁ。」
電柱の影から俺に向かい声をかける男が居る。
見た目は40代、髪の毛は薄く禿げており、首には縄の跡。影はなく身体は透けている。
元気なオッサンの幽霊だ。
「やかましい。」
一刀両断。出会い頭ではあるが、木刀で頭をぶん殴ってやった。
ヤツら霊がうらめしやと言う時は、生きている人間に喧嘩を売っている時である。
「いってぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!
クッソ、頭割れるぅぅぅ!!」
「オッサン、喧嘩を売る相手が悪かったな。
霊媒師と住職にうらめしやなんざ、警察に中指みたいなもんだぜ。」
「だからって出会い頭に木刀カチこむ者があるか!
こちとら年長者だぞ!?
お前よりも軽く20年は年上だぞ!?」
「うっせぇ。」
年長者がどうした。アンタ死んでんだろ。
この世の未練と断末魔を残さないように、全力で木刀を振り抜いてオッサンを消し飛ばした。
アレは類で言えば怨霊の類で、正直心霊写真に影が映り込む程度にしかならないゴミではあるが
俺は綺麗好きなのだ。具体的に言えば塵一つない廊下とか最高だ。
「ーー何してんの、ぉ前?」
俺がしたり顔で全力を出し切っている所を、背後から紅葉は声をかけてきた。
いつの間に居たんだお前。
額の汗を拭うと、俺はヤツの方へ視線を向けた。
「よ、うらめしや。」
そうやって軽口を叩きながら、俺に向かって手を上げて挨拶をする紅葉。
制服のブレザーの代わりに着ているのは、胸の部分が真っ赤に染まった死に装束。
そして身の丈175センチの俺よりも更に長いという不気味な日本刀を携えている。
「何がうらめしやだボケ。」
俺は額に青筋を立てながら答える。
見て分かる通り、ヤツは女子高校生などではない。
なんなら生者でさえない。
その実態は300年前に死んだ伝説の女剣豪で、日本最強の悪霊、九重の道紅葉だ。
このアホみたいな外見にも見慣れたものだ。
「ノリ悪。ぉ前そんなんだからクラスで浮いてんだぞぉー?」
「お前に言われたくないんだよクソ悪霊。」
「いいんだよ。私は浮いてるからな。」
足元を差しながらヤツはケラケラと笑う。
なんだその心霊ジョーク。
「いいから行くぞ。」
俺は徐にヤツの斜め前に立つ。
そして全く温もりを感じない手を握った。
「なー。今日はどこまで行く?」
「何時も通り。」
「そんな通りあったっけ?」
「近辺の墓場、そんで神社で最後はいつものコンビニの公衆電話だ。」
「たまには変えてもいいんだぞ、デートスポット。」
「デートじゃねぇ。」
「後抹茶ラテを所望する。」
「ハイハイ。」
俺はヤツの手を引いて歩き出した。
するとヤツは姿を何時も通り、異様に真っ白な髪の毛をした女子高校生へと変化させる。
最強の悪霊の手を握りながら心霊スポットを巡ることが俺の日課である。
とんでもない日課だと言う人間も居るだろうが、これにはちゃんと理由がある。
というか理由がなければ幽霊と夜中に徘徊などしてたまるか。
「アソコの壁にいた高校球児、いなくなってる。」
「カズヒロかならこないだ成仏した。
母校が甲子園出場したのをテレビで見たらしい。」
「へー。悪霊になんなくてよかったなー。」
悪霊。怨念を持った心霊達の成れの果て。
こうなってしまうと厄介で、連中は人間を見境なく襲いかかる。
そうならないために日本各地には俺みたいな霊媒師と呼ばれる人間が居て
その土地の心霊を管理している。
これが俺が深夜に徘徊している理由である。
「悪霊のお前が言うか。」
「悪霊の私だから言うんだろう。」
「あぁ。改心してくれていてよかったよクソ野郎。」
ケラケラと紅葉は笑った。
ヤツは悪霊である。約200年程前までは。
俺の先祖が三日三晩の死闘の末、改心させて手懐けたらしい。
「あの夜は激しかったなー。」
「意味深なこと言うの止めろ。」
以来紅葉はこの街の治安維持に関わっている、心霊的な意味で。
言わば職場の先輩的な存在だ。悪霊ということは非常に遺憾なのだが。
閑話休題、唐突に紅葉が立ち止まった。
「どうした?」
「ヤベーのが近づいてくる。」
紅葉の視線の先には街灯の無い真っ暗な道がある。
細い路地だ。霊は暗い場所を好む。特に怨みの念を沢山持つ怨霊は
暗くてジメジメした場所が大好き。
ダンゴムシみたいな連中だ。
「ん?」
しかし霊の類であれば、俺は感じ取ることが出来る。
この路地の先からは少しの霊感しか感じ取れない。
「何がーー?」
その途端、路地から何かが飛び出してきた。
それが化物だと気がつくまでに、俺としたことが二秒もかかってしまった。
「うっっらめしやぁぁぁぁぁ!!!!」
月夜に照らされ光るのは刃物ではない。
カキン。小気味の良い音がよく似合う金属バットだ。
勢い良く振り下ろされたそれを木刀で受け止めた。
俺でなければ脳漿を飛び散らせながら頭部をホームランされていただろう。
「なにすんだ、カズヒロ。」
襲いかかってきたのは、前まで通りの壁で壁当てをしていた元高校球児カズヒロだった。
四つん這いの姿勢でこちらを睨みつけ、顔は全く知性を感じさせなかった。
お前成仏したんじゃなかったのかおい。
「かっきーんされなくてよかったなー。」
「うるせぇ。防いだんだよ。」
他人事の如くマイペースな紅葉はケラケラと笑う。
それがお気に召さなかったのか、カズヒロは金属バットを紅葉にぶち当てた。
「がぁぁぁぁぁ!!
悪霊、お前、喰えば、もっと強くなれる!!」
しかしバットは空を切った。
紅葉に物理攻撃は効かない。いや幽霊に物理攻撃は効かない。
もっと言えば幽霊はこの世のモノに基本的に物理的干渉は出来ない。
でもカズヒロは金属バットを掴み、ぶん回して空振った。
どころか犬が骨を齧るように、ヨダレを滴らせながらバットを齧っている。
この世で最も見たくは無い光景だが、ここから奴が幽霊を辞めたことは理解できた。
「何が成仏したって。妖怪化してるだろアレ。」
「いや俺は笑顔で消えてく奴を見たんだよ。
路地裏に。」
そういえばこの路地だったような気がする。
紅葉は思いっきりため息を付いた。
「それ悪堕ちだわー。」
「過ぎたことは気にするな!」
俺は目の前のカズヒロに向けて木刀を振るう。
コイツはウチの庭に生えてるご神木から作られた代物で、
コレでぶん殴られた幽霊は成仏出来る。
されどあくまでも成仏出来るのは心霊の類のみ。
妖怪化したカズヒロに対しては文字通り土産屋の木刀程度の得物に過ぎない。
「がははははははは!!
効くわけ、効くわけないだーー」
「うぉらぁぁぁぁぁ!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
余裕で受け止めるつもりだったカズヒロを5メートル程ぶっ飛ばして壁にぶつけてやった。
ただの木刀でもこの程度の芸当は出来る。使い手が俺ならばな。
「こ、こ、このやどぉぉぉぉ!!」
「うぉっ!?」
されど妖怪はこの程度では死なない。
怯んだのは一瞬だけで、すぐに戦闘に戻ってくる。
流石妖怪。人間の理を外れてやがる。
「まぁ霊媒師って妖怪専門外だしなー。」
「ああ! 俺以外の霊媒師だったら死んでたぜ!」
この辺りの境界が曖昧だが、妖怪退治は陰陽師の仕事だ。
因みに邪神は巫女。
基本的にはこの状態になった霊を霊媒師がどうこうすることは出来ない。
陰陽師を連れてきて封印してもらうしかないのだが、
俺のミスがバレる。おまけに金もかかる。
「おい悪霊。力貸せ。」
「物事の頼み方知らねぇのか、ぉ前。」
「うるせぇ。緊急事態だ。」
「ったく、しゃーないなー。
タピオカ抹茶ラテ、300杯な。」
悪霊と言ったこと訂正するぞ紅葉。
お前は妖怪抹茶ババアだ。
「誰がババアだおい!!!」
俺は紅葉口から紅葉を飲み込んだ。
霊媒師とは本来除霊を行う者ではない。
常世から霊を呼び出し、憑依するこの世とあの世の繫ぐ者。
その真価は、霊を肉体に憑依させることにある。
「「来な、人外のモン。
私があの世に導いてやるよ。」」
俺が憑依させたのは動物霊だとか、しょぼい怨霊なんかじゃない。
日本最強の悪霊、紅葉だ。
並の霊媒師ならば憑依させることさえ出来ないだろう。
「ぐひ。ぐひひ。うまそうな、匂いいいいいい。
悪霊の、うまそうなあぁああああ。」
「キモ。」
俺の辞書に容赦という単語はないが、紅葉の辞書にもなかった。
その手で握っていた日本刀に悪霊の負の力を込めると
一瞬でカズヒロを真っ二つにした。
「のおおおおおおおおおおおおおお!!!」
「五月蝿い。」
慟哭をだす顔面を斬りつける、斬りつける、斬りつける。
結局それが妖怪だとわからなくなるまで、紅葉は斬りつけることを止めなかった。
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今日も色々あったが、何とか終点のコンビニまで到着した。
「ーー結局タピオカ抹茶ラテと抹茶アイス一つずつとな……。」
「コンビニに300杯も在庫ねぇよ。」
不満そうに言いながらも、食べ始めると満面の笑みでそれを食べる紅葉。
抹茶の何がそんなに魅力的なのか俺には理解が出来ない。
「早く食べろ、俺は疲れた。」
「そりゃ私はマイナスの力が強いからなー。
悪霊を憑依させるなんて芸当、お前にしか出来ないぞ。」
「アホ。俺に憑依したから紅葉が普段以上の力が出たんだ。
俺が居て良かったな。」
「お前がミスしてなきゃアレが妖怪になる前に止められたんだけどなー。」
些細なことだろ。
そう言おうとすると大きな欠伸が出た。
「こんな日々が後50年続くんだなー。」
「お前が成仏するまでか?」
紅葉はケラケラと笑いながら頷いた。
それが俺がこの悪霊の手を繋ぎながら夜徘徊する理由だ。
「私は長く現世に留まり過ぎた。
でも私は私を成仏させることが出来ない。」
「お前は悪霊としては最強だからな。
最強の俺が成仏させるために毎日斜めから除霊の念をブチ込んでるんだろ。」
手を繋いでコイツの斜め前を歩くのは、それが一番効率よく念の力を送れるからだ。
因みに授業中もコイツに念を送り続けている。
「最強の癖に50年はかかりすぎじゃないか?」
「俺じゃなきゃ成仏も出来てねえよ。」
大体女子高生に擬態したりとか、そもそも霊なのに実体持つとか
もう悪霊の範疇を越えて十分妖怪だと思うんだが。
なんてわりと下らないことを思っていたら、大きな欠伸が出た。そろそろ潮時らしい。
「紅葉、俺を部屋の布団まで運んどいてくれ。」
「ハイハイ。おやすみ。」
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背中で眠りこけるコイツは、今までの霊媒師達の中でも一番変なヤツだ。
悪霊の中の悪霊、心霊界隈の生ける(?)伝説である、この紅葉を相手に
上から目線で物事を語るヤツは、今まで居なかった。
「私と死闘したアイツでさえ、もっと畏敬の念を持ってたぞ。」
でもこのバカに手を引かれながら後ろを歩くの、嫌いじゃない。
決して口には出してやらないけどなー。
感想お待ちしております。