絶望の果てに
ひょっとすると、ここが島国ならどうすればいいのだろうか。歩いて帰ろうにも帰れない……。お風呂に入りたいのに入れない……。お腹も変な感じだ……まだゴロゴロ鳴っているぞ。
魔王様、食事はどうされたか心配だ……。缶のカ□リーメイトでも準備しておけばよかった。他の四天王がお世話をしてくれていればいいのだが……。
「あ、やっぱり生きていたじゃないか」
「――うお! ビックリした。ソーサラモナーじゃないか!」
急に夜空から声がして驚いて見上げると、四天王の一人、聡明のソーサラモナーがフワフワと空飛ぶ魔法で浮かんでいる。
「さすがはアンデット。やっぱり不死身だな」
「アンデットではない! 我らは精霊なのだ。いやホントに」
アンデットを見下している訳ではないが、アンデットと一緒にされたくない。匂いが違う。アンデットは私のようにかぐわしい有機溶剤の匂いなどしない。
「本当に漬物石を背負って飛びやがったと、みんなで笑ってたのさ、アッハッハ」
「アッハッハって……貴様らもグルだったのか~!」
人間不信に陥りそうだぞ。いや、魔族不信だ。
「スライム達も大笑いしていたぞ」
「……」
魔王城の皆に喜んで貰えたのなら光栄だが……またスライムごときにバカにされるではないか!
「ちょっと笑えない悪戯だぞ」
本当に死ぬところだったのだ、腐った苺のジャムのせいで下痢をして……。でも怒らない。怒ると一緒に帰れないかもしれないから……。
「じゃあさっさと帰ろうぜ」
「……ずまない」
私には飛行魔法や瞬間移動の魔法が使えない。だが、ソーサラモナーは使える。……だったら……? とは言わない。魔王様は私に命令を下したのだから。
私こそが四天王の中で一番のお気に入りのはずだから――。
次期魔王最有力候補だから――。
「魔王城は無事着陸したのだな」
だからこそ私を迎えに来る余裕ができたはずなのだ。
「ああ。魔トランシーバーで着地点と玉座で連絡し合いながらゆっくり着地したら楽勝だったさ。被害といえば着地した時の衝撃で食堂の皿が割れたぐらいかな。明日の朝飯は皿なしだ」
……目玉焼きとトーストなら直接手渡しでも食べられるだろう……。
それにしても、大参事にならなくてよかった。四天王が力を合わせれば、どんな困難にでも打ち勝てる……か。私は死にかけたが――。
……そして着地には一切関与していないのが……なんか寂しい。
「ソーサラモナーよ、よくここが分かったな」
村からもかなり離れている。偵察魔法「ドロドローン」でずっと見ていたのだろうか。それならよほどの暇人だぞ。
「ああ、じつはお前の気付かないところに位置情報が分かる発信機を付けていたのさ」
「なに!」
慌ててキョロキョロして身体を触ってみる。発信機のようなものは何も付いていない。
「どこ!」
毎朝起きた時に全身を頭の先から爪先まで有機溶剤をタップリ染み込ませたウエスで拭いている。何か付いていれば気付くはずだ――。
「その漬物石さ」
漬物石型発信機……。
「これね」
リュックに背負った漬物石……これって発信機だったのか。こんなに大きくて重い必要はあるのだろうか。
涙が滲み出てくる。
魔王様、ありがとうございます――!
瞬間移動の魔法で魔王城に帰ると、魔王城は何事もなかったかのように元の地に戻っていた。
数ミリの誤差もなく、よく着陸できたものだと感心してしまう。さすが魔王様と言うべきか……。さすがは剣と魔法の世界だ。細かいところがなんだって省略できる。
「魔王城全体を魔力バリアーで覆っていたらしいぞ」
「……省略していいコメントだぞ」
魔王様は大浴場に浸かり肩をグルグル回していた。
夜遅い時間の男湯には、色んなものが浮いている。これは汚れではない。皆の汗と努力の勲章が浮いているのだ。
「魔王城内の者にたくさんの風景を見せてやることができた。いい気分転換になったことだろう」
「御意」
やり過ぎのような気がするが……確かにその通りかもしれない。海を一度も見たことがないモンスターだっているのだ。当然だが空を飛べないモンスターが殆どだ。レベル1のスライムやレベル3のスライムとか……私とかニワトリとか。
「私もよい気分転換になりました」
初めてのスカイダイビングも楽しめました。三途の川もチラッと見えました。
「掛け湯してから浸かるのだデュラハンよ。今日の卿は一段と汚い」
「……御冗談を」
冷えきった身体を早く温めたかったのに~。
仕方なくタライで湯を頭から何度も掛け流してから魔王様の隣に浸かった。当然だが全身鎧姿のままだ。生まれた時からこの姿のモンスターだから。
「フー」
一日の疲れや痛みが取れていく……。
「たまには空に城を浮かばせるのもよかろう」
「……微妙」
たまにではなくもう二度とやめて欲しい。
「まんざらではないだろう」
「まんざらです。お城ごとではなく次はもう少しサイズダウンして頂きたい」
「ハッハッハ。トンデラハウスだな」
「……冷や汗がでます。古過ぎて」
風呂を上がり、魔王様に人間共の「聖王」と呼ばれる輩について報告したが、さほど興味をお示しになられなかった。
「よいではないか。人間共の勢力が一つに集中すればするほど、掌握するのはたやすくなるのだ。恐れに足りぬ」
「御意」
なにより魔王様には無限の魔力がある。人間共がどれほど集結しようとも恐れに足りぬ……か。
「どうせ次作への伏線ぞよ……」
「ゴッホン! ゴッホン! それを言っては駄目です」
ちゃんと回収されるのかどうかも未確定ですから――。
「それよりも、一日中腕を上げていたから肩が筋肉痛で痛いのだ……」
脱衣室で一糸まとわぬ姿の魔王様がそう言って肩をグルグル回す。私もある意味一糸まとわぬ姿なのだが……。
「あとでムヒを塗って差し上げます」
まだタップリ残っているはず。
「ムヒー! ――それって筋肉痛にも効くの」
「スースーするから効くと思います。『用法・容量を守って正しくお使いください』と書かれていますから間違いありませぬ。良い匂いもします」
「……うん?」
今日も一日疲れましたから……たっぷり目の下にも塗って差し上げますう。
最後まで読んでいただきありがとうございました!!
ムヒは用法・容量を守って正しくお使いください!!
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