二度と来るな悪党ども!
家から出て聖王の手下とやらの前へと歩み出た。
白金の剣はまだ抜かない。ここぞというところでアバレン某将軍のように抜くのがカッコイイのだ。冷や汗が出る。カッコよすぎて。「成敗!」とか言ってみたい。「余の顔を見忘れたか」って言ってみて~! 顔ないけど。
「なんだ貴様」
フッフッフ。それそれ。
「盗賊ども、今日は運が悪かったな」
白金の剣は血を吸いたがっているぞ。さらに私の機嫌は斜め35度。さらにさらに腹具合は腐った苺ジャムのせいで積乱雲状態。ゴロゴロ鳴っていやがる……。
「――もしや」
んん? 首が無いのに喋ったとか、顔無しとか言ったら容赦なく切り捨ててくれよう。しかし、四人の盗賊達からは意外な声が上がった。
「宵闇のデュラハン様!」
「宵闇のデュラハン様?」
「おお、デュラハン様!」
「本当だ、デュラハン様だ」
……?
「なぜ俺の名を知っている」
しかも「様」付け。スライムにすらデュラハンと呼び捨てされるのに……。俺の名はこんな辺境の地までにも広まっているのか。フッ。
「デュラハン様こそ、なんでこんなところに?」
魔王城から落ちたのだとは迂闊に答えない。見覚えのあるようでないような四人組……。
「もしかして、お前らは……」
思い出すのに数分を要した。冴えない顔。短いナイフ。よく見ると安っぽい鍋の兜にフライパンをくっつけたような鎧。
「ひょっとして、第二章に出てきた、盗賊Aのドンゴロス!」
「そうです! 憶えてくれてたんすね! 嬉しいです!」
数少ない名前あるキャラだから……。二度と出てこないと思っていたけれど。モブキャラだから。
「同じく、盗賊Bのズタブクロです!」
「うん。久しぶり」
「同じく、盗賊Cのドノウブクロです!」
「……うん。久しぶりだなあ」
「同じく、盗賊Dのポリブクロです! 有料です」
「う……うん。また会えてよかったっていうか、また出てくるとは……」
「……」
「……」
……そして、この自己紹介のあとの微妙な間をどうするんだ~!
「こんなところでまだ盗賊をやっているのか」
「テヘヘ」
「ポリポリ」
テヘヘと照れるな褒めてない。ポリポリと口で言うでない。
性懲りもなくまだ盗賊を続け、人さらいまでやっているとは……。こいつらぜんぜん懲りていない。――モブキャラ中のモブキャラだ。
「聖王の手先などに成り下がって。お前達には盗賊の誇りすらないのか」
盗賊の誇りって……なんだろう。自分で言っておいて良く分からん。
「違うんスよデュラハン様」
「俺達は人さらいとか略奪とか、そんな酷いことはしてないッス」
「……酷いことはしていないだと」
そのまんま聞き返してしまったぞ。
「はい。本物の聖王の手先にやられて怖い思いをした村を狙って夜な夜な訪れ、聖王の手先のフリをして残った食料や金銀財宝を受け取るだけッス」
――ニセ聖王の手先! それって、手先サギ? 手羽先?
「一度やられたあとだと、村人も『聖王には敵わない~』って弱腰になっているから、楽勝っス」
……うん? 楽勝……なの。
「聖王の手先だぞ~って脅せば、どの村も楽勝っス。いくらでも食料をくれるのス」
笑顔で言うな。皆、満面の笑顔で言うな。……食べ過ぎ飲み過ぎでちょっと小太りになっているのが腹立つッス。
「……ゲスいぞ。ゲスすぎだぞ」
頭を抱えてしまう。こんな輩からはデュラハン様と呼ばれたくない。ため息が出る。
「以前に盗みはやめろと忠告したはずだ――。金輪際、ニセ聖王の手先もやめろ。そうすれば、命だけは助けてやる」
「「……ウィース」」
絶対にやめない返事だ……。いやいやで仕方がないって返事……。イラっとするぞ。
「それと、この村にだけは二度と来るな」
「「……ウィース」」
「だから、その返事はやめい!」
渋々盗賊達は馬に乗り直し、来た道を帰っていた……。
もっと厳しくお仕置きをしてやるべきだったか? 満月の日だから月に変ってお仕置きしてやるべきだったか……冷や汗が出る。
女が隠れている家へと戻った。
「追い返して来たぞ。しばらくこの村には来ないだろう」
たぶん。しかし、急に女はリュックと漬物石を投げつけてきたのだ――。
「危ない! これは大事な……漬物石なのだぞ」
落とさないようにしっかりキャッチした。足先にでも落とせば大変なダメージを負う。十キログラムはある。
「うるさい! 盗賊の仲間だったなんて、信じらんない!」
そうなるのね。やっぱり。
「誤解だぞ、あの盗賊は……他人です」
他に言い方は無かっただろうか。
「あ、赤の他人です」
「嘘おっしゃい! 『デュラハン様』とか呼ばれていたし、あなたは全員の名前も知っていたし――。キー! くやしいわ!」
キーってヒステリックに叫ばないで!
「まってくれ、全員の名前は憶えてなかった。あいつらが勝手に自己紹介をしただけだ」
「あんたが聖王の手先だったなんて!」
ミーが聖王の手先ですと――!
「出て行って! 純な娘を騙すなんて、最低!」
純な娘って……自分で言わない方がいいと思います。
次から次に投げつけられるコップやジャムの瓶をかわして、慌ててリュックを拾い上げると、扉から逃げ出した。
「二度と来るな! 宵闇のデュラハン!」
名前を言いふらさないで――! 悪名が広まるから~!
我々は魔族だから悪者でもいいけれど……なんか、聖王の手先とか盗賊扱いされるのとかは嫌だ~!
暗い中、またトボトボと歩き始めた。さらには腹も痛い。 ……こんな村……絶対に二度と来るものか――!
だが……聖王とやらは少し気にかかる。着実に力を付ける人間は、遠からず……魔王様の敵となる。
……厄介事の火種となる。
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