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第6話 現世でもこうして三人で会えるなんて

 ゼノンは聖女ちゃんに俺の携帯番号を知らせてくれて、その夜、早速聖女ちゃんこと林原麗子から電話がかかってきた。

 その週の土曜日に、俺達はファミレスで会おうという話になった。


 もしかして、これってデート?

 そうだよな、デートになるんだよな。


 俺はちょっといいジーンズと、妹からも感じがいいと言われたシャツを身に着けて、早速指定のファミレスに足を運んだ。

 そこには片手をあげて挨拶する聖女ちゃんと、……うん、わかっていたよ……奴がいるということは……ゼノンがいた。


「久しぶり、聖女ちゃん……ええと、麗子ちゃんと言った方がいいのかな?」


「そうね、光君、お久しぶりね」


 私服姿の麗子はかわいかった。清楚な紺色のワンピースに黒い革靴、白いカーディガンを羽織っている。お嬢様だ。

 ファミレスの客たちも、麗子を見て「あの子、モデルかしら」と話している声が聞こえる。

 そして、麗子の横に座っているゼノンを見て、彼らは一様に頬を染める(男まで染めているのはやめて欲しい)。

 ゼノンは確かに、ハンサムだもんな……・

 こいつ、俺にとち狂っていなければ、本当、モテモテのハーレムを現世に作ることができたと思うぜ。


「おはよう、ヒカル」


「ああ、ゼノンもおはようさん。なんかもう注文したのか?」


「いや、まだだ。君が来てから注文しようと思っていた」


「わかった。ちょっと早いけど昼飯も兼ねるだろう?」


「そうね、そうしましょう」


 俺達は思い思いの料理を注文し、フリードリンクをとりに行く。

 それからテーブルに着いた。


「現世でもこうして三人で会えるなんて、私すごく感激しているのよ」


 麗子は嬉しそうに笑う。


「そうだな。俺も、また聖女ちゃんとこうして会うことができて嬉しい」


「僕も、君と会うことができて嬉しいよ」


 無視だ無視!!!!

 俺はお前とまた会えるとは、到底思っていなかったぜ。

 

「私、光君に確認したいことがあったのよね。現世に戻ってから、ステータス画面とか開いてみた?」


 俺はコーラをちゅるるると飲みながら答えた。


「開いてみたぜ」


「現世でもまだそれが開けることにも驚いたのだけど、称号はどう変わっていた?」


「称号?」


 麗子は「見てないのね」とため息をついた。それから、今ここで開いて確認しろと言った。


「わかった」


 俺は麗子に言われるまま、小声でステータスオープンと呟いた。

 するといつものように、視界の右上にステータス画面が出てくる。

 そして視線を下の方にずらし、称号の欄を見た。


「“異世界から帰ってきた勇者”と称号はなっているぜ」


「うん。私達と一緒ね。私は“異世界から帰ってきた聖女”、ゼノンは“異世界から来た竜騎士”だったわ」


「それがどうしたんだよ」


()勇者とか、()聖女、()竜騎士という称号じゃないのが、不思議なの」


「……」


「まだ私達は、勇者で聖女で、竜騎士ということなのよ。おまけに、ステータスの内容もそのままでしょう。魔法も唱えてみた?」


「いや、唱えてねぇよ」


 現実に魔法を唱えなくちゃならない局面なんてないからな。学校行って、家に帰ったらゲームをする日々だ。


「魔法も使えるのよ。おまけにアイテムもそのまま。強いて以前と違うのは」


「違うことなんかあるのか?」


 それには、聖女も竜騎士ゼノンも深くため息をついていた。


「あなた、それにも気が付いていなかったの? 収納庫の装備品一覧、ちゃんと見た?」


「そんなに細かくチェックするかよ。現世ではそんなの必要ないだろう」


「装備品の、伝説系の武器防具が全部消えていたのよね」


「そりゃそうだろう。もうここでは勇者稼業をしなくていいんだから」


「勇者君て、なんか抜けてるのよね。ちょっと頭を使って考えてみなさい。勇者の称号はそのまま、アイテムはそのまま、旅の仲間たちもここにいる」


「うんうん」


 ウェイトレスが、俺の注文したミートソーススパゲティを運んできてくれる。俺はみんなにお先にと言って、ちゅるちゅるスパゲティを食べ始める。

 ケチャップがついた口元を、竜騎士のゼノンがハンカチで拭こうとしているのを、慌てて手で阻止した。


「お前は俺のオカンか。いいからそういうことはするな」


「……拭いてもらえばいいのに」


 ぼそりと麗子が呟く。

 恐ろしいこと言うな。


「……とにかく、私は伝説系の武器が、あえて消えているのが気になるの。伝説系の武器って、私達が異世界へ行った時に、最初に神から収集することを命ぜられたものでしょう」


「そうだったな」


 そうそう、魔王を倒す前に、ステータスを上げるためにおのおのの武器防具の収集をしないといけなかったんだ。それが結構面倒くさかった記憶がある。全部一か所にまとめておけばいいのに、鎧はここ、剣はここ、杖はここというように、全部ばらけているんだぜ。


「アレの威力がすごかったから、神もそれを持たせるのは躊躇したんじゃねぇか。聖剣とか、山を砕き谷を作り、海を割るとかいう品だったからな」


 今のこの世にあったら、ちょっと扱いに困るんじゃないか。

 いや……


「もしかして、重機の代わりになる? ほら、持っていくのも腰に下げていくだけだし、山とか切り開くときに便利だよな」


「聖剣を重機の代わりにしようと考えるのは、たぶん光君だけだと思う」


「ヒカルの考えは素晴らしい。世の中の役に立つようにいつも考えているのだな」


「ゼノン君は黙って。愛のために盲目になるのは、やめた方がいいわよ。ヒカル君はちょっと考えが足りないって、それをわかったうえで彼を愛してちょうだい」


「おい、麗子ちゃん、何言ってるんだよ!!!!」


 なんだか聖女ちゃんの台詞がおかしい。聖女ちゃんはまるでゼノンの俺への求愛行動を肯定するような言動をしていた。


「私は二人には仲良くしてほしいのよ。あの異世界では確かに、いろいろとあったわ」


 いろいろというか、いつもあいつが俺にせまってきて、俺はトラップとか結界とか張って阻止していただけのこと。

 現世ではまだそれほど熱烈にせまって来ないから、ちょっと良かったと思っているのは内緒だ。


「でもせっかく、現世に戻って来れたのだもの。新しい生活を始めるということで、新しい気持ちでもう一度、付き合っていきましょう」


 そう、なんだかいい話っぽくまとめた聖女こと林原麗子だった。

 その傍らでにこりと笑うゼノンに、俺はなぜか背筋がゾクリとしていた。

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