第5話 ヒカルと僕は友達だ
英語の小テストは散々だった。
あいつが転校してきたせいだ。その多大なる精神的ストレスで、英単語がまったく頭に入らなかった。
ぐだっと机にもたれていると、奴がやってきた。
「久しぶりだね、ヒカル」
「…………………………ああ」
すごく仕方ないので、返事はする。
啓介がゼノンに尋ねた。
「お前達、やっぱり知り合いなの?」
「ああ、そうだよ。ヒカルと僕は友達だ」
友達なら、まだいい。うん。そう、友達ならな!!
「へー、光に外人のダチがいるなんてな。俺は田辺啓介。よろしくな」
「よろしく」
ゼノンと啓介が穏やかに話し合っている。
机にもたれながら二人の会話を黙って聞いていた。
ゼノンは隣町に越してきたらしい。親の仕事の都合で、ゼノンだけが遠縁の家に預けられているとのこと。
アメリカ人の遠縁が日本人で、わざわざアメリカから預けられにくるってちょっと設定に無理がないか。
俺は内心苦笑していた。
ゼノンは、英語の小テスト、満点だった。
お前、異世界から来たはずなのに、どうして英語がそんなにできるんだ!!
そして英語だけではない。他の教科も素晴らしい成績だった。
成績も優秀で、スポーツも万能な、まるで物語の主人公のようなキャラ。
異世界からお前来たんだよな。来てから確か、一週間も経っていないはず。それなのに、なんでそんな簡単になんでもできるんだよ。
彼の何か言いたげな不満な表情に、ゼノンが答えた。
「神に、この世界へやってきても困らないようにしてくれるよう、頼んだ」
「…………」
「聖女様も、僕が願いを言うときにフォローして下さった」
「聖女ちゃんは優しいからな」
「ああ、本当にお優しい」
「聖女ちゃん、どうしているかな。俺、彼女の連絡先知らないんだよな。会いたいけど、どうすれば会えるかわからねぇ」
異世界で携帯電話番号くらい聞いておけばよかったと、後々後悔した。
「僕が聖女様に伝えておこう」
「………………………え?」
「だから、君が聖女様にお会いしたいと言っていたと、聖女様に伝えておくよ」
「いや、俺が聞きたいのは、お前は聖女ちゃんの連絡先知っているのか?」
「知っているも何も、僕は今、聖女様のご自宅にお世話になっているんだ」
「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ?」
俺は思わず叫んでしまった。
今まで小声で奴と話していたのだが、一気にクラスの奴らの視線が集まる。
俺は慌てて口を押さえた。
「聖女ちゃんと、一緒に暮らしているってわけか? なんでまた」
「いや、僕と聖女様は遠縁という設定になっている。そしてお世話になっているホストファミリーでもある」
「せ、せ、せ、せ、聖女ちゃんと一緒に!!」
奴の首根っこを思わず掴んで、揺すり始めてしまった。
「ずるい、ずるい、どうしてお前聖女ちゃんと一緒に。俺だって聖女ちゃんと暮らしたい」
「……ヒカル、君は本当に聖女様のことが好きなんだな」
その言葉に俺は真っ赤になる。ゼノンは少し寂しそうに笑った。
「とにかく、聖女様にはお伝えしておくよ」