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第32話 露骨なハニートラップだよね

「露骨なハニートラップだよね」


 私がそう言うと、竜騎士のゼノン君はひどく不機嫌そうな顔でうなずいた。


「そう思う。コレ、名刺」


 帰宅した後、私はゼノン君と話し合っていた。

 そして、彼は撮影の時、光君に手渡されていた名刺を差し出した。


 『東都大学スポーツ科学部助手 相沢南』と渡された名刺には書かれていた。


「おじさまにも調べてもらうけど、防衛省と関係のある大学教授がいるから、彼女もその関係かも知れない」


「虫唾が走る」


 唾棄するように強く言うゼノン君。

 どんだけ光君に女の子が近づくのを嫌うのだよ……。

 思わず苦笑いしてしまう。


「あんな女なんか、近寄らせない」


 そう言えば、異世界でもそうだったな。

 彼は光君に女の子が近づくのを絶対に許していなかった。

 まぁ、その調子なら、勇者君へのハニートラップも効果なく安心だろう。

 だが、光君は一生結婚ができないような気がしてきた。

 うん。

 ちょっとだけ可哀想な気もするけど、まぁ仕方ないだろう……。



「大学が接触してきても、こちらから反応しなければそれで済むからね。放っておくのが一番よ」


 しばらくの間、学校で光君がゼノン君に「名刺よこせ」と言っていたが、ゼノン君は無視を貫いていた。

 そういうところは、光君に対して厳しいゼノン君だった。




 そんなある日の学校の昼休み、光君が、湧き場所が現れたと聖剣が言っていると伝えてきた。

 だが、時は学校の昼休みである。学校を抜けて湧き場所のあるところまで行くことはできない。

 やきもきしながらも、放課後私達三人は湧き場所の発生したという場所へ向かった。


 最近の聖剣はこちらの世界へ来てアップデートしたのか、湧き場所の具体的な住所を光君に教えてくれる。

 〇区〇町〇番地付近という感じで、なんだか時々、配送を頼まれている配達員のような気持ちになる……。


 今までは幸いにして警察官や自衛隊の人達とかち合うことはなかったけど、発生から時間が経った今回は、とうとう彼らと遭ってしまうかも知れないと思った。


 放課後、移動にも時間がかかり、もう夜に近い時間帯になってしまった。それでも、住宅地の人気のない路地に発生した湧き場所に辿り着いた私達はホッとしていた。

 もやもやと黒い靄を出している湧き場所には誰もいない。

 いや、ゴブリンが一匹いて、ふらふらと徘徊しているだけだった。

 一般の人と遭遇していなくて、本当に良かった。


「やるぜ」


 光君はすぐに走り出して、収納庫から取り出した剣を振りかぶり、一瞬でゴブリンの身体を袈裟懸けに叩き斬っていた。

 その間に私は湧き場所の浄化にかかる。

 しばらくして浄化が終わった私は、二人に笑いかけた。


「お疲れさまー」


「おう、お疲れさん」


「お疲れさまでした」


 三人とも笑顔で口々にそう言って、その日もファミレスで夕食を食べていくことにした。

 発生から時間が経っていたから、心配していたけれど、問題なく湧き場所を浄化できたし、ゴブリンも退治できた。

 それを素直に良かったと思っていた。



 まさか、その時の湧き場所では、待ち構えて全て、観察されていたとは……私達はまったく考えてもいなかった。

 その時の私達は、本当に子どもで、無知で、まだ無邪気でいたのだった。



   *



 会議室の全面スクリーン上で、映像を見せられた彼らは驚いた。

 これはCGや映画の一シーンではないかと。

 なぜなら、黒髪の少年が、醜悪な化け物を前に躊躇なく剣を振りかぶり、叩き斬っていたからだ。

 さながら冒険活劇映画の一シーンのような場面である。


 黒髪の少年は、そうしたことに慣れている様子で、斬り殺した化け物にも一瞥も目を遣らず、仲間達の元へ走り出す。

 普通の人間ならば、そうした醜悪な化け物と対面すれば、悲鳴をあげて逃げ出すものだろう。

 だが、彼は化け物と出会ってすぐに殺害することを選択していた。

 そして、不思議なことに何も持っていなかった右手には、剣を手にしていたのだ。一息の動作で、現れた剣で化け物を倒した。


 少年は化け物の生死も確認もせず、さっさと移動する。

 彼は、仲間達と労をいたわる言葉を口にして、すぐさまその場を立ち去っていく。

 彼らが現場に来てから、湧き場所を浄化するところまで含めて、五分も経っていない有様だった。

 あまりにも手慣れていて、あまりにもスムーズな作業だった。




「カメラは四か所に設置していました。路地の入口に一台、発生現場に三台。どれも無事に回収済みです。別角度からご覧になりたい場合は、後でまたお見せします」


「あれはなんだ。彼らは何者なんだ」


「三名の人物については、住所・氏名については調査済みです。お手元の紙資料をご覧ください。いずれも都内の高校に通っている高校生です」


「未成年か」


「はい」


「そして、こちらが先日からマークしていたユーチューブ番組の通称勇者君と言われる人物です」


 映像が切り替わる。

 黒い目出し帽をかぶった若者達三名現れる。


「“勇者君が岩を斬るよ”というコーナーです。好評のようで現在まで七回放映されています。この勇者君と今回の映像の少年は極めて同一人物の可能性が高いと、声紋判定や身長や骨格などの要素から導かれています」


「……どこからともなく剣を取り出し、化け物を退治する。まるで物語でいう、“勇者”みたいだな」


「あの化け物だって、おかしいだろう。地面から湧き出しているのだから」


「一度、あの少年には話を聞かないとならないだろう」


「東都大学から番組を通じて接触を図っていますが、拒否されています」


「…………一度、ここへ連れてくるんだ。方法は問わない」


「はい」


「とにかく、彼を“確保”しなければならない。一刻も早く」


 そう、どこからともなく剣を取り出し、驚く程の大きさの化け物も一刀両断にする彼については、どこの国の組織も、彼の存在を知れば強い興味を抱くだろう。

 黒い靄の中から湧き出した、地球上で今まで確認されたことのなかった化け物の発見も、人々の間に凄まじい興奮を湧き起こした。


 いったいこれはどこから現れたのだと。


 その小さな化け物から、巨大な化け物まで、どうやらあの少年が今まで倒していたようだった。

 剣でもって、その恐るべき強さで。

 万が一、他の組織にもその存在を知られれば、彼を確保することは間違いなく競争になるだろう。

 だからこそ、焦りすら感じながら彼らは動き出したのだった。

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