第20話 倒せるかな? ちょっと待っとく?
俺達を乗せた黒いバンは、現場から離れた駐車場に停車した。
車から出るときには、俺を含め、みんな黒い目出し帽を被る。
うん。
こんな時間帯に、こんな姿をしている俺達は間違いなく警察官に、不審者として職務質問されてもおかしくない様子だった。
ゼノンもそれを気にしているのか、すぐに行こうと言った。
外階段があるビルの塀を乗り越えて入ると、すぐさま階段を駆け上がった。
途中、麗子ちゃんの息が苦し気になったので、ゼノンは彼女をもう背負っていた。
「ハァハァハァハァ……ちょっと、私、聖女だから体力ないのよ。……あなた達みたいな体力MAXのキャラと一緒にしないでね」
背負われながら文句を言っている。
聖女ちゃんは体力がない。異世界にいるときからそうだった。
聖女ちゃんには気を配っておいた方がいいのは確かだった。
「僕がなるべく聖女様にはついておくよ」
「わかった。頼むよ、竜騎士」
今回、お互い名前は呼ばないことを決めていた。
万が一があるからだ。
身バレはごめんだ。
麗子ちゃんのことは聖女ちゃんと呼び、俺は勇者、で、竜騎士は竜騎士……なんか言いにくいが仕方ない。
ビルの屋上に立つ。
暗闇の中、ビルの看板や街灯、車のライトなどの灯りが華やかだった。
異世界にいる時は、夜はまさに漆黒の闇だった。明かりなど蝋燭の炎くらいしかない。
そのせいで、星がよく見えた。
一緒に旅していた仲間達と、森の中、よく焚火をして星を見上げていた。
なんとなく懐かしい思いがする。
「じゃあ行こうか」
俺は横のゼノンに声をかける。
奴は聖女をしっかりと背負い、聖女は奴の背中にびったりと貼りついているようだった。絶対に落ちまいという気合いを感じる。
鉄製のフェンスに飛び上がり、俺はそれを蹴った。
続けてゼノンもフェンスに飛び上がり、俺の後を追う。
そしてぽんと隣のビルの屋上に飛んだ。
「ビルの高さが揃っているところはいいけど、飛ぶ先のビルの方が高かったらどうするの?」
「そりゃ、魔法を使って浮上してそこの屋上まで飛ぶ」
「…………マジですか」
一層、麗子ちゃんの顔色が悪くなる。
「大丈夫、ここはそれほど高層はないみたいだから」
ゼノンが慰めるように麗子ちゃんに言っていた。麗子ちゃんはゼノンの背中になおもぴったりと貼りついた。
「早く、早く現場に行こう!!」
「はいはい」
俺達はぽんぽんとビルの屋上から屋上へ飛び、高いビルは魔法を使ってその屋上まで浮上していった。
そして、ついに現場までたどりついた。
正確には現場を見下ろすビルの上にだが。
「ほんとだ、規制線張られてるね」
ゼノンがビルの上から青いビニールシートが張られている現場を見下ろして言う。
その周りに更に黄色いテープが張られ、警察官が立っていた。
現場は物々しかった。
銃器を手にした自衛隊員が結構たくさんいる。
「ゴブリンナイトを倒した後だから、まぁ……銃持っている自衛隊の人がいても仕方ないと思うけど、俺、撃たれたくないなぁ」
「先にみんな眠らせるから。撃たれないように、眠らせるから大丈夫」
聖女ちゃんがいつの間にか取り出した杖を手にそう言った。
「うん。もうさっさと終わらせて帰ろう。俺も眠い」
「そうだね。明日も学校だし」
「だいたい俺、家に学校の鞄とか置いているから、朝早くまた家に戻らないといけないんだぜ」
「そうだったわね。うちに来てもらう時、鞄も持ってきてもらえば良かったわ」
「もう、こういうことになるなら、ちゃんと電話で教えてくれよ」
「ごめん、ごめん、気を付けるね」
そんなことをダラダラ喋っていたのが悪かったのか、異変が起きた。
下で何やら声が上がったのだ。
「?」
「何か、湧き場所から出てきているよ」
聖女ちゃんが目を凝らしながらそう言う。
そう、黒い靄で覆われているその湧き場所から、何かが起き上がり、そして立ち上がった。
隆々とした筋肉を持つ緑色の肌の巨人。それは高さが四メートルはあっただろう。ちょっとした小さな建物のような大きさだった。手には巨大な戦棍を持っている。
ぎょろりとした目は黄色で、小さな角は……
「角が八本ある。ゴブリンキングだ」
そばの自衛隊員達がまるで小さな子供のように見える大きさだった。
「構え!!」
叫ぶ声がして、ガガガガガガッと銃を乱射する音が響く。
「倒せるかな? ちょっと待っとく?」
俺の言葉に、麗子ちゃんは頭を振る。
「たぶん、ダメだと思う。だってゴブリンキングは……」
果たして、銃弾が身体にあたっても、ゴブリンキングにはダメージはないようだった。
銃弾がバラバラと下に落ちていることを認め、自衛隊員達は撤退を叫んでいる。
撤退しようとする彼らの前で、ゴブリンキングはふんばるようなポーズをし、“咆哮”した。
途端、ビリビリビリと空気が震え、付近の窓ガラスが一斉に砕け散る。
耳を押さえて悲鳴を上げて倒れる自衛隊員。
「威圧の一種の“咆哮”を持っているから、普通の人間なら、耐えられないわ」
「俺達みたいに“威圧耐性”持っていないしな」




