第19話 なんかフラグが立った音がしたわよ
「でもよー、自衛隊が沸き場所から出てくる奴を始末してくれるんだったら、別に俺達がわざわざ何かする必要はないんじゃないか」
そう言う俺に、今度はゼノンが俺の目を真っ直ぐ見ながら言った。
「ヒカル、俺達の世界でも、湧き場所は見つけたらすぐに塞ぐことが鉄則だった。そうしないと湧き場所の汚染がひどくなることが多かったからだ」
そう、そのままゴブリンだけを延々と湧かせている場所もある。だが、ゴブリンよりもタチが悪い魔獣を生み出すようになる湧き場所もあったのだ。
湧き場所は見つけたらすぐに浄化する。それは鉄則で、神官たちはそのためにいると言ってもいいくらいだった。
俺はハーとため息をついた。
髪を片手でくしゃくしゃにする。
「じゃあ、横浜まで浄化しに行くというわけだね」
「そうなるね」
『もうすでに、君達が移動するための車も用意している。運転手は花輪君という、信頼できる若者だから』
「わかりました」
用意がいい。
俺とゼノンの手に、黒い目出し帽を麗子は渡した。
「車の中で、これをつけてね」
「わかった。ああ、ゼノン、今日お前んところ泊るって親に連絡入れさせてもらうね」
「そうだね。今日中には帰れないね」
俺は母親にラインを入れた。また文句言われるだろうけど、仕方ない。
「一度、君のご両親にご挨拶に行った方がいいかな」
「なんで?」
「だって泊まってもらうんだから」
意味が分からなくて奴の顔をじっと見つめる俺。麗子はキャッと笑って頬に両手を当てている。
「もう、ゼノン君たら~。その台詞、麗子の永久保存メモリに刻んじゃうぞ」
「…………とにかく急ごう」
よくわからないので無視した。
車は近くの駐車場に止まっている黒いバンだった。俺達が近づくとすぐにスライドドアが開いて、二十代の若者が挨拶する。
「こんばんは。林原から連絡のあった花輪です。どうぞよろしくお願いします。現場まで私が運転して、離れた駐車場で待機してます。帰りも私がピックアップします」
「宜しくお願いします」
ある程度、俺達の話を通されているようで、花輪さんは俺達に何も質問もせず、車に乗せるとすぐに走り出した。
その間、麗子ちゃんは地図を出して、説明をした。
「現場について説明するね。一応、わかっていると思うけど、浄化したらぐずぐずせずにすぐに脱出します。おじさまの話だと、規制線が張られていて、警官が立っているみたい。どうやって現場まで行くかが問題なのよね」
「上から行こう」
「上?」
俺の言葉に怪訝そうな表情を見せる麗子ちゃん。
「そう。付近はビルに囲まれてるだろう。ビルの屋上をぽんぽん飛んでいけばいい。風魔法も使えば十メートルくらいの距離ならジャンプできるし」
「…………ええええええぇぇぇぇ」
すごく嫌そうな顔をする麗子ちゃんの顔を見て、ああ、高いところが怖いのかと思った。
「レイコは僕が背負うよ」
「ああ、それがいいな」
竜騎士は怪力である。麗子を背負うくらい簡単だろう。
「ゼノン君、絶対に落とさないでね!!!!」
半泣きで麗子は言っていた。本当は俺が聖女ちゃんを背負いたいところだけど、ゼノンの方が怪力で安定するだろうから、仕方ない。
「付近の奴らは麗子ちゃんが魔法で眠らせて、それで浄化作業をする。完璧な計画だ!!」
俺が拳をあげて力強く言うと、ゼノンは拍手をし、麗子ちゃんは小さく呟いていた。
「フラグ……なんかフラグが立った音がしたわよ」
そう、こういうセリフを言う時は大抵、何かが起こってうまくいかないことがお約束だった。




