第13話 初チャレンジ成功です!!
釣りの映像を撮り終わり、今度はバーベキューをやることになった。
車で少し離れた川へ移動して、その川沿いにキャンプを張り、バーベキュー台を並べて肉や野菜を焼き始める。
あたりにはいい匂いが立ち込め、灯りの下で照らされる肉汁したたる肉や焦げ目がついてしんなりした野菜の映像は見るからに旨そうだ。
俺達はビールを手に、歌いながら楽しんでいる映像を撮った。
見ると、あの少年達もすみでバーベキューをしている。
俺は芸人とは思えないほど礼儀正しい彼らに、悪い気持ちが無くなっていた。
彼らは釣りの片づけも率先して行い、テントを張るのだって一緒にやっていた。まるでスタッフのように。
そう、なんだかスタッフに似た空気感がある。
「これ持ってきて」と言うと、スタタタタッと走って車から運んで来ている様子が見えた。
ライトだって持てと言えば、黒髪の子は明りをちゃんと手に持って調整している。
赤毛の少年と女の子は、ちょっと呆れたようにそんな黒髪の少年を眺めていた。
なんだか本当に変な奴らだった。
「ルンさん、そろそろアレ行くそうです」
「ああ、わかった」
俺はビール片手にうなずいた。
“勇者とその一行”の登場は、バーベキューの際の酒の余興にすることにした。
不自然じゃない登場の方がいいだろうと。
まぁ、目出し帽を三人とも被っている時点で、どうしても不自然さは拭えないと思うが……
「ジャジャーン、余興のためにやってきた“勇者とその一行”です」
と相方の竜二が三人を紹介する。
真ん中に黒髪の子、左右に女の子と赤毛の少年が立って映し出される。
あとで映像にテロップが入れられ、三人の自己紹介がされる予定だ。
「勇者君って本当に勇者なの?」
竜二が言うと、真ん中の少年は照れたように頭の後ろに手をやって、笑って言った。
「ええ、勇者なんですー。どうぞよろしくー」
すごい軽いノリの勇者だな。
「で、なんかやってくれるんだよね」
「そうですよー。ええっと、大きな岩があると聞いていて、それを斬ります」
「マジで!!」
そこでカメラが川沿いにある巨大な岩を映し出した。
縦が四メートル、奥行きが二メートルほどある、巨大な岩だった。
竜二君はわざとらしくそれを見上げた後、もう一度「ホントに!?」と勇者君の方を見て言っている。
「ホントですよー」
いや、やっぱり失敗したらこいつは川に蹴り込むしかないな。
そしてごまかして、お笑いの空気にするしかない感じだ。
勇者君は岩のそばまでいって、岩をぽんぽんと叩いた。
「この岩でいいんですよね」
「そうそう」
「斬っちゃっても、苦情言う人いないですよねー」
「いないよー。この土地持っている人、スタッフの親戚だから、許諾は得てるって」
きちんと確認を取るところが、彼の意外と真面目な性格を表しているのかも知れない。
「じゃあ、やりますね」
カメラが勇者君をアップにする。そして全体が映るように引いた瞬間、ギンという大きな音とともに空気が波のように揺れた。
それは一瞬だった。
勇者君は、岩の前に立った時、何も手に持っていなかったのに、瞬きする一瞬の後、その手にはだらりと大きな長い剣が下がっていた。
「え……」
カメラマンの呆けたような声が聞こえる。
たぶん、俺も竜二もぽかんと口を開けていただろう。
勇者君の前で、その巨大な岩が大きく二つに割れ、そして崩れていた。
岩だけではなく、後ろの木も縦に切れて左右に分かたれている。
皆、あまりのことに、言葉を忘れて見入っていた。
そこに勇者君が照れたように言った。
「アハハハハッ、成功しましたね!! 初チャレンジ成功です!!」
赤毛の少年が勢いよく拍手をし、少女はどこかおざなりに拍手していた。
そして、勇者君はなんか剣を片手にポーズを決めていた。