第12話 本当にくそだったら、川に蹴り込んでもいいという話ですよ
キングスブラザーズは、若手漫才師の中でも有望株と言われていた。
Мツーグランプリでも準優勝したこともあるし、テレビのバラエティ番組でも「使える芸人」として露出も多い。
そしてユーチューバーとしてもチャンネル登録者数300万人を越え、上位30位圏内に喰いこんでいるのだ。
体を使った芸を張り、動画の中では様々なチャレンジをしている。有名処のチャレンジとしては箱根から富士山間をスキップしながら行って何日かかるかというもので、地域の名産品を紹介しながらスキップする姿は小学生に大ウケだった。
今回、会社の上層部から使って欲しい素材があるとねじこまれた。
それが、“勇者とその一行”という若手三人組だった。
正直、腹が立っていた。
今回の番組では、湖で釣りをした後、キャンプバーベキューをして、その後皆でゲーム実況をするというありきたりだけど、定番の流れだった。ゲームも新作を用意して、きっちりボケとツッコミの台本も用意していたのに。突然、なんなんだよ、その“勇者とその一行”て……
キングスブラザーズの梨本ルンがふてくされた顔をしているのを、相方の竜二が慰めていた。
「誰だって新人のときは、誰かにプッシュしてもらわないと番組に出ることはできないんだよ。俺達でその新人君を応援してやろうぜ」
「プッシュというか、出せという上の命令じゃねぇか。俺達の時だってそんな優遇措置なんてなかったぜ。きっとどこかの坊ちゃんがユーチューブに出たがったという話なんだ。くそ、バカにしやがって」
「でも、台本だとその勇者君の出る場面は十分程度だろう。バーベキューの時だという話だし、全体の流れにはそう影響しないからまぁいいじゃん」
「そいつがくそだったら、川に蹴り込んでやる!!」
「ああ、本当にくそだったら、川に蹴り込んでもいいという話ですよ」
ワゴン車を運転していたマネージャーが言った。
「本当にくそだったらね」
キングスブラザーズの二人組は釣竿を持って湖で釣りをする。
二人とも釣りは好きで得意だった。
そして、チラリと自分達の後ろで、釣り竿を手にしている“勇者とその一行”という三人組を見た。
若手三人組という話だったが、本当に若い三人で、最初は中学生かと思った。
マネージャーからはちゃんと十六歳になっていると聞いている。
あまりの若さに、拍子抜けしたくらいだった。
もっとこうガツガツしている芸人を想像していたが、そんなことはなく、むしろさわやかな少年達だった。三人は車から降りると、「よろしくお願いします」と礼儀正しく挨拶に来て、出番が来るまですみで釣りをしているという話だった。
“勇者とその一行”の二人の少年が釣り竿を手にしていて、女の子はバケツを手にしている。
いずれも目出し帽を頭に被っているのも変だった。
芸人なら、顔を見せて売り出すものだろう。
それなのに頭からすっぽり隠しているのだ。
“勇者とその一行”と名乗るなら、鎧だってつけていてもいいはずに、ラフなシャツ姿で、本当に変な奴らだった。
ぎょっとしたのは、その三人組の、目出し帽から黒い髪がはみ出ている方が、釣りをしているのだが、やたらと釣りまくっている。
そばの女の子が持っているバケツがいっぱいになると、もう一つバケツを用意し始めていた。
「ちょっと釣りすぎじゃないか。そんなに食べられないだろう」
目出し帽から赤毛が出ている少年がそう言うと、少女は澄まして答えていた。
「氷をもらって持ち帰ればいいと思ったんだけど」
「車にも乗らないよ」
「ああ、そうか。そうだったわね。じゃあ一つ流すわね」
そう言ってバケツの一つを流して、黒髪の少年にストップをかけていた。
「せっかく気分良く釣れてたのに」
「釣り過ぎよ」
ブーブー文句を言う黒髪の少年は、こう言っていた。
「幸運値MAXの効果を見せてやろうと思ったのに」
「はいはい。十分わかりましたよ」
「とりあえず、ヒカルは釣りでも食べていけるということですね。素晴らしいです!!」
褒めている赤毛の少年に、黒髪の少年はエヘヘと照れたように笑っていた。
変な奴らだった。