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第11話 僕にもメリットが欲しい

 食事を終えて、ナプキンで口元を拭った後、郁夫さんというその男性にはコーヒーが出され、俺達には紅茶が出された。

 綺麗にテーブルが片付けられた後、部屋から給仕の人達が全員出ていく。


「少しだけ、部屋を貸してもらえることになっているんだ。光君、君が勇者で、ゼノン君は竜騎士だっけ。そして麗子は聖女なんだよね」


 コーヒーを持ち、香りを堪能しながら口にする郁夫さんは、四十代後半の男性だった。

 高そうなスーツがよく似合う大人の男って感じがする。

 考えてみればお嬢様学校に通っていた麗子の親戚とやらが、普通の一般市民であるわけなかった。

 きっと彼女の親戚一同、さぞやきらびやかな系譜なのだろう。

 

「そうです。郁夫さんはどこまで麗子から話を聞いていますか」


「全部聞いた。君達が異世界へ行って魔王を倒して戻ってきたこと。そしてゴブリンというのだっけ。先日、新宿などで発見された未確認生物の湧き場所を封じていることも。それで、僕にバックアップして欲しいということも」


「はい」


「最初、僕も麗子を信じられなくてね」


 郁夫さんはコクリとコーヒーを飲んで言った。


「何かで証明しろと言ったんだ。そうしたら、彼女は目の前で大きな杖を、取り出したんだよ。何もない空間からそれを取り出したことには驚いた。どんな手品かと思って疑ったのだけど、手品じゃないことは僕も確認した。だいたい、麗子は嘘をつくような子じゃないしね」


 優しい視線を郁夫さんが麗子に向けると、麗子は頬を染めて恥ずかしそうにしていた。


「君達もたぶん、いろいろと出来るんだろうと思う。いいよ、僕がバックアップしてあげる。金銭的なことは僕に任せなさい」


「ありがとうございます」


 俺とゼノンは勢いよく頭を下げた。

 すごく助かる。もう交通費とか本当にバカにならなくて、小遣いも枯渇しそうだった。


「ただね、僕にもメリットが欲しい。だから、僕の方にも協力してもらってもいいかな」


 そう郁夫さんはにっこりと大人の微笑みを浮かべた。

 

「はい、俺にできることなら頑張ります!!」


 まるでバイト見習いのように声をあげる俺を、麗子とゼノンは困ったように眺めていた。


 その後、おのおの家に送り届けてもらった後、俺は懸案の問題が解決したことにホッとして眠りについた。







 そして、郁夫おじさんからの協力要請は意外と早くやってきた。

 土曜日に、会社の所属のユーチューバーの番組に出てほしいというのだ。

 協力する内容についてはメールで指示があった。番組用の白いワゴン車が最寄りの駅まで迎えに来てくれて、俺達はそれに乗り込んだ。


 ボックスワゴン車の、一番後ろの席に三人みっちり座っている中、麗子ちゃんが言った。


「まぁ、見世物よね。ユーチューバーの視聴者数を上げるネタとして、私達に出てほしいんでしょう」


 それにゼノンが言う。


「顔とかは隠してもらえるんだよね」


「それは当然よ。目出し帽を被るという話だわ。ええと、確かこの辺に」


 麗子ちゃんは前の席に無造作に置かれている小さい段ボール箱の中から、それを取り出した。

 受け取ったそれを早速被ってみた。


「…………」


 ゼノンは目出し帽を被っている俺を、なんとも微妙な表情で見ている。

 麗子ちゃんから手鏡を貸してもらってみたけど、なんか勇者というよりも、今からコンビニに押し込む強盗にしか見えない。

 思い切り不審者だ。

 色が黒というのも悪いと思う。


「聖女ちゃんとかはピンクの目出し帽にしてもらえばよかったのに」


「そんなの嫌よ!!」


 とりあえず、俺達は三人目とも出し帽を被って、現場に向かってみた。

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