表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/4





「……茉莉。彼氏とは、もうキスした?」


「……っ……」



 俺の質問に真っ赤になって身を固める姿を見て、嬉しさからクスリと笑い声を漏らす。



「……そっか、まだなんだ。じゃあ、練習だと思えばいいよ」



 開いていた距離をグッと縮めれば、俺から逃れようと後ずさる茉莉。


 その細腰をグイッと掴んで引き寄せれば、華奢な茉莉の身体はいとも簡単に俺の腕の中へと収まった。



「……っ蓮! 変な冗談はやめてよっ!」


「冗談……? さっきキスしたばっかりなのに、もう忘れた? ……冗談なわけ、ないだろ」



 こんな状況でさえも、冗談として処理されてしまう、茉莉の中での”俺”という存在。


 どこまでいったって、茉莉にとって結局俺はただの”幼なじみ”で、それ以下でもそれ以上でもない。


 男としてすら、みてもらえていないのだ。


 その事実が酷く苦しく、俺の気持ちは宙ぶらりんのまま激しさを募らせ激情した。



「……っ……ゃ……っ!」



 逃げられないよう、ガッチリと茉莉の頭と腰を引き寄せると、噛みつくようなキスを何度も繰り返す。


 どうにかして離れようともがく茉莉は、俺の胸を懸命に押しやるも男の力に敵うはずもない。


 より深いキスへと変わる頃には、互いに息つく暇もなく呼吸は乱れ、その荒い呼吸音だけが、やけに官能的に脳内に響いていた。


 腕の中にいる茉莉の手からは小刻みな震えが伝わり、その力はとても頼りなく脆弱(ぜいじゃく)で。

 俺の胸を押しているのか、(すが)っているのか……。


 もはや、それすらわからない。


 妙な征服感と高揚感に酔ってきたせいか、これは茉莉が自ら俺に縋っているのだと。


 そう、自分の都合のいいように錯覚してしまいそうになる。



「……っ!」



 鋭い痛みに咄嗟に顔を離すと、噛まれた唇を拭いながら茉莉を見つめた。


 先程俺がつけたばかりの傷痕はしとどに濡れそぼり、乾くことを許されない傷口からは、未だにじんわりと血が滲んでいる。


 

「……っ! やめてっ!! 蓮は……っ! 私の、一番大切な人なのに……っ!!」


 

 涙に濡れる瞳で俺を睨みつけた茉莉は、それだけ告げると飛び出すようにして部屋を後にした。



(一番大切だっていうなら……。なんで、彼氏なんて作ったんだよ……)



 俺の思う”大切さ”と、茉莉の思う”大切さ”は全く別のもので。


 どこまでいっても重なり合うことのないその思いに、深い哀しみと絶望は更に膨らんでゆく。


 ーーそれと同時に


 この期に及んでもまだ、”大切”だと言ってもらえたことに嬉しさも感じる。


 それはとても矛盾した感情で酷く歪なもので、ドロドロとしたものが全身を駆け巡っては俺を苦しめる。



「……っ茉莉……。茉莉……っ」



 唇に付着した茉莉の血を舌で舐め取れば、それは俺の血と混ざって喉へと流れた。


 茉莉の細胞は、こうも簡単に俺と混じり合うことができるというのに……。


 決して手に入れることのできない”心”に激しく想いを募らせ、痛む胸元をギュッと抑えると、一人、静かに涙を流したーー











 ーー中学三年の、初夏。


 初めてのキスは、酷く鉄臭い血の味がした。






評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ