表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4




 嫌がる茉莉の頭をグッと引き寄せると、合意なく開かせた唇から口内へと舌を滑らせる。


 徐々に荒くなる呼吸と共に、どちらのともわからない唾液が口端を伝って流れ出る。


 欲望の赴くままに口内を蹂躙(じゅうりん)し尽くすと、これが終わりの合図だといわんばかりに、薄く柔らかな茉莉の唇を噛んだ。



「……ぃ……っ」



 唇から薄っすらと滲み出た血を舐めとると、少しだけ距離をあけた体勢で涙目の茉莉を見下ろす。

 

 荒い呼吸を繰り返す茉莉の顎を掴んで上へと向けさせると、赤く蒸気した頬を撫ぜて満足気に微笑む。



「……っ。なん、で……」


「……別に。ただ、してみたかったから」


「最っ……底」



 血の滲む唇を拭いながら俺を睨みつけると、戸惑いに小さく揺れ動く瞳から涙が一雫、赤く色付く頬を伝って下へと落ちた。



「最低だよ……っ! 蓮……っ、彼女がいるでしょ?!」



 これ以上涙は溢すまいと我慢しているのか、必死に何かを堪えているかのような表情をさせている茉莉。



「……だったら、何?」



 そんな投げやりな言葉とともに責めるような瞳で射抜けば、萎縮したのか茉莉は押し黙った。




 ーー確かに俺には、彼女がいる。


 しかも、その彼女ができたのはつい六日前のこと。


 だけど、そんなお飾りの”彼女”のことなんてどうだっていい。



「……中三にもなって、のこのこと男の部屋に来るお前が悪いんだよ。茉莉」



(ーーそう。これは全部、お前のせい)



 唾液で濡れそぼったままの口端を親指で拭うと、それを見せつけるようにして舌で舐めとり堪能する。


 すると、黒みの増した瞳を大きく開かせた茉莉は、その瞳で俺の仕草を追いながらコクリと小さく喉を鳴らした。






 俺達は所謂、幼なじみというやつで。


 物心がついた頃から、俺の隣には茉莉がいるのが当たり前で、それは茉莉にとっても同じだと思っていた。


 親や友達に言えないことでも、俺にだけは何でも話してくれる。

 それだけ、茉莉にとって俺の存在は特別なもので、俺以上の者など存在しうるはずはないのだと。


 それは何の疑いの余地もなく、長年の月日の中で培われてきた自信でもあった。




 それがーー


 全て俺の勘違いだったと知ったのは、つい一週間前のことだった。



『私ね、彼氏ができたの』



 頬を赤く染め、それは嬉しそうにそう告げた茉莉。


 俺はこの瞬間まで、茉莉に好きな男がいたことさえ知らなかった。

 どんなに小さなことでも、包み隠さず何でも相談してくれていた茉莉。



(なんで……。好きな男がいること、俺に隠してた……?)



 そう思う以上に、他の誰かを好きになった茉莉のことが無性に許せなかった。


 俺は激しい怒りと絶望に苛まれながらも、それを悟られないよう優しく微笑み『おめでとう』と一言、幸せそうに微笑む茉莉に向けて祝福の言葉を贈った。





 ーーその翌日。


 俺は保留にしていた告白の返事に快諾の意思を伝えると、好きでもなんでもない、ただのお飾りの彼女を作った。



 茉莉への当て付けのため。



 これで、俺の存在の大切さに気付いてくれれば。

 そんな淡い期待もあった。


 だけど、彼女が出来たと報告した俺に向かって茉莉が告げたのは、『おめでとう』という祝福の言葉だった。


 満面の笑顔を浮かべ、それは嬉しそうに俺の報告を喜ぶ茉莉。



 その姿は、哀しい程にとても美しくーー


 なんの躊躇(ためら)いもなく簡単に俺の心を(えぐり)り取る、とても残酷な悪魔のようだった。







評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ