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本日2回目の投稿です。



『ソフィア・ローレン』という名前が実在している人物のものだという指摘を受けましたので、『ソフィア・レーリヒ』に変更しました。

 

 

 十五歳になり、彼らは王立シュトロゼック魔術学園に揃って入学した。

 その頃にはウィリバルトはエルフリーデが気になって仕方がなくなっていた。

 そして気がつく。自分はエルフリーデが好きなのだと。

 気がついた瞬間に、失恋した事も理解した。

 エルフリーデはテオドール王子の婚約者だから、ウィリバルトのものにはならない。

 苦しかったが、彼女は国王が決めた王子の婚約者なのだ。それをなかった事にはできない。

 ウィリバルトはエルフリーデへの恋情を隠し、墓場まで持っていく事を決めた。

 それ以来、ウィリバルトの苦行が始まった。

 エルフリーデが公務で学園からテオドール王子と一緒に教室を去るのを送り出しながら、内心は焼け焦げる様な嫉妬の炎が燃えていた。それを悟らせない為に、更に無表情になるしかなかった。

 一年生の半ばも過ぎた頃、エルフリーデの様子が少し変わった。今まで以上に大人びて落ち着いた空気を纏わせるようになった。

 そして一年生もあと一ヶ月で終わるという頃から、一人の少女の噂が耳に入り始める。

 少女はソフィア・レーリヒという名の子爵令嬢だったが、噂の内容は高位貴族クラスの婚約者のいる男子学生にばかり声をかけて親しくなるというもの。

 そしてこのレーリヒ子爵令嬢は、二年生の夏頃にはコンラッドと親しくなり、秋も深まった頃にはジョアンとも親しくなっていた。

 二年生になってから、テオドール王子とジョアン、イアンとウィリバルト、そしてエルフリーデは生徒会役員として活動していた。コンラッドは王子の護衛という事で、生徒会役員ではないが生徒会役員補佐という肩書がついていた。

 元々王子は生徒会の仕事を怠りがちだった為に、その尻拭いを、ジョアンとコンラッド、イアン、ウィリバルト、そしてエルフリーデがしていた。負担は大きかったが、ウィリバルトは黙々と生徒会業務の処理をこなしていた。

 彼にとってはこれも王位簒奪の為の努力の一部でしかなかった。




 生徒会の仕事を放り出し、時折公務も嫌がる王太子を見て、ウィリバルトは密かに義父であるアイゼンラウアー公爵ローレンツと内密の話をしたいと連絡した。

 そして十七歳の二年生の終わり頃。

 人払いされた公爵の執務室にて、ウィリバルトは静かに口を開いた。

義父(ちち)上、王太子テオドール殿下は国王に相応しくありません。公務を嫌がり、生徒会の仕事すら放り投げる王太子など、国王になったらどれだけの混乱を国政に招く事になるか、考えなくても火を見るより明らかです」

「殿下が王太子として相応しくないと言うが、今の王家には王子は一人しかいないぞ。まさかお前がその地位に就くというのか?」

「そのまさかです。あんなのを国王に据えるくらいなら、私が国王になった方がマシだ。幸い、幼い頃から王子が帝王学を学んでいるのをそばで聞いていたから、私もある程度はわかります。学問に関しては、王妃教育を受けているアルナシェル嬢が首席、次席と三位を俺とイアン・クラウゼヴィッツが入れ替わる感じで、テオドール王子は現在十位以下。国王となるなら少なくとも五位以内にいなければならないと思います」

 ウィリバルトの話に、アイゼンラウアー公爵ローレンツは眉を(しか)めた。

「王太子なのに十位以下か。せめて十位以内であれば問題ないものを。まさか、武術までも振るわないのか?」

「剣術はコンラッド・マイネルと他の生徒が首席を競っています。三位が私、四位がクラウゼヴィッツ。殿下はかろうじて九位にいるが、いつ他の生徒に追い抜かれるかわからない状況ですね。体術はコンラッドが首席、次席が私、三位がクラウゼヴィッツ、飛んで六位にキュンベルで、殿下は七位。魔術は私が首席、アルナシェル嬢が次席、三位がクラウゼヴィッツ、四位がキュンベル、殿下は八位」

 淡々と成績を述べるウィリバルトの声を聞きながら、公爵は目を右手で覆って俯いた。

「……最高位の教師陣を揃えて幼い頃から勉強してきたというのに、殿下は一体今まで何を学んでいたのだ」

 溜息とともに呟かれた言葉に、ウィリバルトは口の端を僅かに持ち上げた。

(テオドールのその愚かさが俺に機会を与えてくれるのだから、俺としては幾らでも墜ちてくれと言いたいがな)

 すぐに口を元の真っ直ぐに戻し、義父が顔を上げるのを待った。

「確かにお前が言うとおりに、殿下に国王としての資質は少なそうだな。他に何か殿下に瑕疵(かし)はあるのか?」

 暫しの時間のあと、義父であるローレンツは顔を上げた。

「婚約者であるアルナシェル嬢を冷遇しています。最近は、公務に向かう時や生徒会の仕事を片付けなければならない時は、嫌々ながらそばにいる事が周囲に丸わかりな態度を取っていますね。アルナシェル嬢は、それを静かに受け流してはいますが、将来の王妃たる教育を受けている婚約者を冷遇するのは、将来の国内での混乱の芽を残す事に繋がりかねません。非常に憂うべき事態だと私は考えています。だからこそ、国内の混乱を最小限に抑えつつ、私が王位に就いた方がマシだと考えました」

「だがお前には王位継承権はないのだぞ?」

「それは充分わかっていますよ、義父上。だが、王妹である母上と、側妃の友人だったという王妃殿下が証言してくれさえすれば、私の身元保証はされる。抹消された王位継承権も復活させる事ができ、混乱も最小限に収める事が可能でしょう。必要な犠牲はテオドールとその側近、あと場合によっては国王だけに留められると踏んでいます」

「ウィリバルト、お前が王位を狙っているだろう事はなんとなくわかってはいたが……」

「義父上、私は現王陛下から切り捨てられた子供です。存在を疎まれた子供なんです。元々持っていた権利を取り戻す事の何処が悪いのですか? テオドールが優秀ならば私は野望など抱かずに済みました。だが、テオドールはどこまでも愚かだった。だから私が野望を抱いてしまったんですよ」

 ウィリバルトはゆっくりと口の端を持ち上げた。

 瞳はギラギラと輝き口元が僅かに引き上げられたその笑顔は、ローレンツには野生の獣が獲物を狙う様に見えた。

「……勝算はあるのか?」

「十分に」

「……アルナシェル公爵家と相談してみよう。あの家は特殊な家系でな。代々王国の諜報活動を担っているのだ」

 その情報は初耳だった。そんな家の娘を王家に差し出していいのかと思ったが、そもそも彼女は国王が決めたテオドールの婚約者だったと思い出し、じくりと痛む胸を無視して頭を働かせる。

「……諜報活動……間諜か。父上、もしかしてアルナシェル公爵が運輸大臣なのは、裏の仕事を隠す為ですか?」

 交通局職員に間諜をする部下を紛れさせれば、国内各地に散らす事が可能だ。そして交通局職員ならば、警羅隊員や徴税官などより平民に受け入れられ易いだろう。農産省の職員でもいいが、その場合大都市にいるのは不自然になる。その点、交通局ならば国内各地に巡らされている道路の管理という名目があるので、大都市だろうが田舎だろうが居ても不自然ではないと思えた。

 だが、義父のローレンツはそれを苦笑しつつ否定した。

「間諜の家系なのは間違いではないが、行政機関に手駒を紛れさせる事はしていないよ。運輸大臣なのは確かに斯の家の裏の顔を隠す為の地位ではあるが。仮にも間諜の家なのだから、華やかな地位に就いて目立つのは得策ではないしな」

 言われると確かに、と頷ける。

 ともかく、王太子を追い落とし、現王家から王権を取り上げる目処は着いた。

 あとはその時までに更に牙を研いでおこう、とウィリバルトは薄っすらと笑んだ。

 その笑みがローレンツには冷酷なものに見えていた事をウィリバルトは知る由もない。


 

ここまで読んでくださりありがとうございます!


 

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