六話 契約への執着 side.L
【 - side.L - 】
私が悪魔として生まれてから大分たった頃・・・中位悪魔へと上がり順風満帆だった頃のこと。
悪魔の世界は今も昔も九十パーセントが悪魔を占めている。残り十パーセントはニンゲンや獣人に意思のないアンデッド系でした。
私たち悪魔はニンゲンよりも強大な力を持っている為に残り十パーセントのモノたちを虐げ奴隷とするのは当たり前の事だったんですよ。
その日も新しい奴隷を新調する為にニンゲン奴隷市へと向かっていました。
「・・・すまない、停まってくれ」
「・・・・・・は、はぃ」
御者・・・である奴隷に声を掛けて停めさせる。
彼はずっと昔から隷属契約をしている為に何千年も生き私に奴隷として縛られている。
とても忠実で良い奴隷だと思っていますよ?
馬車を停めさせたのは私の魔眼が橋を通る際に異変を感じたからだ。
停まって直ぐに馬車から降りる。
今も魔眼が反応をしておかしく感じる。さて、ナニカが居るのだろう。
好奇心が擽られやすいのは何時もの悪い癖ですね。
「・・・いた」
橋の真下、そこに気を失った少女が轟轟と流れる川のスレスレに浮いていた。
川に落ちて流されてたのか服は湿っている。
思わず笑いが零れた。
「くくっ・・運がいいのやら悪いのやら・・・」
そう、本当にいいのやら悪いのやら?
少女は運良く飛び出ている木の枝に引っ掛かったおかげで溺死せずにすんだようだ。
けれどそのせいで私に見つかってしまうとは笑えませんねぇ。
その日、私は新しい家族を迎え入れた。
名はリィシャン。元々はいい所の家柄に見える。・・・が口は悪い可愛い子猫だ。
「ほうら、リィシャン。御主人様の抱擁を受け取らないのですか?」
「ふざけんなしっ!悪魔臭いアナタの抱擁なんか欲しくもないわ!!」
「おやおや・・・人種差別はよくありませんねぇ」
「人種じゃないっしょ!!この悪魔っっ!!」
・・・全く、命の恩人への口の利き方がなっていない。
それも愛嬌として受け入れているつもりですが。
そう、私にとって彼女は玩具だった。都合の良い。壊れにくいようで・・壊れやすい・・・何時でも取り替えのきく都合の良い玩具だった。
「そういえばリィシャンは私と契約しましたよね?」
「え?あーうん、そだね~」
「良かったのですか?来世の自分に託すなんて真似。幾らリィシャンの魂が半人前だったとしてもそれを頂く私は責めませんがねぇ・・・」
「だぁーかぁーらぁ。今いる私の魂が食べられるなんて絶対嫌じゃん。待ってる人は居ないけどさ・・・あの世に。でも私の代で輪廻転生絶たれるとか気分的に本当嫌だからこれだけは譲れないっ!」
「来世にまで回したら利子がつくかもしれませんねぇ」
「フンっ!望むところだよ」
ああ、やはり彼女は可愛らしい。悪魔との契約を理解していない危機感のなさも。その危うさ全て。
良いでしょう。
来世もその来世も、貴方の魂を手に入れるまで私は貴方の傍に。
私は貴方に何千年もの続く契約をした。
貴方の魂を必ずまた奪いに行くと。何度でも。
私にとっては貴方は玩具だった。
新しい貴方の魂は今回も地球の地を早くに去った。これは貴方と私の契約の続きです。
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これで何回目になるのでしょうかね?契約内容が果たされるのは。
目を瞑り、横たわる彼女を見つめる。長い睫毛に水滴がついている。今は小雨が降っていて彼女にも降り掛かっているからだ。
久し振りに再開をした彼女。私の目には誰を写し取っているのかは明確だった。
既に居るはずのない彼女。
魂が同じでも彼女は別物だと理解くらいしていますが・・・
ふと、目の前の少女の睫毛が震えてパチリと目を覚ました。
そうだ、こんな怖い顔をしていたら彼女が怯えてしまうでしょうねぇ・・・スっと表情筋を動かして笑顔を貼り付ける。
未だに笑顔は嫌いです。有りもしない、思ってもいない感情を表現するのは困難ですからね。
上手くできていないのは私自身がよく理解しています。
ああ、ほら、そんな怪訝そうな表情をして・・・警戒されていますねぇ。
ですが逃がすつもりなど毛頭ありません。
これが私の唯一無二な感情表現だと彼女に理解してもらいたいものです。
今回こそは。