三話 胡散臭い悪魔、カタコト悪魔、プリン悪魔
暗い冷たい・・・ここは何処?
冷えた頬に涙が伝う感覚がした。ああ、私は泣いているの?・・なんで泣いているの?
ふと目が覚めると見知らぬ場所に居た。
暗くて・・・石造りの家だらけのボロい舗装がされてる西洋式の屋敷が沢山。
そんなボロい舗装のされた道に私は倒れていたようだ。
「・・・あの世?」
思わず呟いたワードにクスリと笑ってしまう。
それとも今までの現実は全て夢だったりして。
「まぁ、言うなればそうですねぇ。貴方にとっては死後の世界・・・」
「・・・!?」
急に掛けられた声に驚き相手のいる方向を勢いよく向く。
目の前には胡散臭い笑顔を貼り付けた男性がいた。
短髪青髪の燕尾服を着たこの世のものとは思えない美しさを備えている男性だった。
「ようこそ、悪魔の世界へ」
唐突に発せられた男性の言葉にキョトンとする。
悪魔の世界・・・?何を言っているんだこの人は・・・?
「君は悪魔の世界に来ました」
再度同じことを私に言う男。私の脳が理解するのに追いついていないことを分かっていて言っているのだろう。
「ふふっ、もう一度言って差し上げましょうか?」
「いえ、もういいです」
何だ、と言いたげに肩を竦める男だがスっと胡散臭い笑顔を真剣な表情にする。
「ですがあまりご理解して頂けていないようで・・・貴方は先程の出来事を覚えていますか?」
先程?つまり私が飛び降り自殺をした事だろう。
こくりと頷くと男は満足そうな顔をして頷き返す。
「いやはや、覚えておられたようで。助かりますよ、此方からしたら。
そうそう貴方は歩道橋から頭真っ逆さまに飛び降り自殺をしたんですよね。もう少し低めの歩道橋だったらトラックもすぐに気がついて轢かずに済みましたし満身創痍の植物状態でありつつも生き延びれたというのに・・・」
「・・・わざわざ説明ありがとうございますね。でも私は死にたかったので。植物状態になってまでいきたくありませんよ・・」
おや、という顔をして男は首を傾げた。
一々癪に障る動きばかりする男だなと思いつつも無視をする。
「おやおやぁ、そうでしたか。でもまあ私たちからしたら早くお亡くなりになられて大変喜ばしい限りですがね」
「・・・何?」
カチンときてゆっくり睨み付ける。
けれどもニコニコ余裕そうな相手を見て更に苛立つだけだった。
その時、目の前の燕尾服の男とは違う幼げな少年の声がした。
「リーヴルサン!イヤイヤ、そんナ遠回しに会話してたラ彼女がかわいそーでショ~」
「おや?・・エラッタ殿ですか。・・・貴方は大人しくするように、と申し上げたはずですよ?」
「イヤイヤァ!そんナこと言ってらんないヨ!
だってかーわいいニンゲンの子がきたんでショ?お出迎えミンナするためニおめかしをして来たんだヨ~」
金髪銀目、長い髪を一括りにした美少年、と言った感じだ。大きな目がリスみたいにクリクリしている。
お坊ちゃまが着そうなベストにパンツを履いたスタイルを華麗に着こなしている。
だが喋りは少したどたどしく美麗な見た目とチグハグに感じた。
薄目の青髪赤眼の燕尾服はリーヴル。
金髪銀目の長髪美少年はエラッタというようだ。
二人共とても綺麗だが何やら独特な雰囲気を放っていて落ち着かない。
少し警戒しているとリーヴルが口を開いた。
「皆・・・と言いましたかね?つまり既に皆さんは此方に来られているのですか・・・」
「そうソ~!セ・イ・カ・イ♪︎
リーヴルさんは何処にいるかもう分かるでショ?ミンナ今来たトコだからネ♪︎」
そうエラッタが言った瞬間にリーヴルが顔を顰めた。もう来たのか、と呟いている。
「・・・う~ん。これは困り物ですねぇ。エラッタ殿、どう責任とってくれるのですか?」
「うっへぇ~!イヤン、ボク、リーヴルサンのご期待にはそぐえまセンよぉ~★」
「・・・そういう事を言っている訳ではありませんので、そこは知っておいてくださいね?」
とても怖い笑顔をエラッタに向けるリーヴルにゾクリとして思わず後退る。
その時、誰かにポンとぶつかった。
「あっ、すみません・・・」
「うんや、大丈夫ッスよ。自分も、悪魔なんで」
なんとカオスな・・・
中世の衣装を着てる悪魔がいると思えば他よりは現代チックな服を着てる男性が真後ろに。
ちょっとパンクな衣装に首や腕に黒い包帯を巻いている。金髪に茶色が混じったプリン頭の男。目はシンプルに焦げ茶だが他の男と同じようにとても綺麗な顔立ちをしている。ただ、少しだけヤンキークサイのが残念だ。
・・・ちなみにソレを間近で見てしまった私は息を呑んだ。
本当に此処は私の知らない世界?
・・・悪魔の世界?
それとも夢なのだろうか。今更になって沢山の思考が走り去っていく。
プリン頭の向こう側にも幾人かの人(?)が立っており混乱をしてしまう。
夢?それとも現実?私の頭は可笑しくなってしまったのだろうか?
「ホゥラ!レンヅィーサンのせいでカノジョ混乱しちゃってるじゃないデスか!」
「・・え、俺っスか?」
「悪魔だのなんだノ急に言われたら混乱しマスヨ~!!」
「んむ・・・確かにエラッタさんはンな混乱させるような事は言ってないかもですけどエラッタさんの存在自体が混乱するモノッスよ」
「ムキーー!後輩のクセして生意気デスね!!」
「その後輩よりも幼いエラッタさんはおかしいッスね」
更にエラッタを怒らせる・・・レンヅィー。
その空気を直すようにリーヴルが手を叩いて言った。
「ハイハイ、戯れはそこまでにして下さい。では、一旦我が家の屋敷へ来て下さいませんかね?江藤 澪璃さん?」
「・・・え、何で私の名前・・・」
「ははは、これでも私達は悪魔ですからねぇ。知ってて当然ですよ?
では、屋敷へ参りましょうか?」
「・・・」
もう何も言わない。
私は死んだ。そしたら変な夢を見てしまってるんだ。もしかしたら死ぬまでの短い夢なのかもしれない。
それを肯定と受け取ったのかリーヴルは私の手を取って促した。
何処へ向かうのだろうと思ったらパチリと指を鳴らして何も無い場所に馬車を出した。
「っ・・・えっ?!・・・や、夢だから、夢だから何でもありだよね。うん。」
驚いたけどもう知らぬ。夢だと自分に言い聞かせて誤魔化した。それをリーヴルが面白そうに見つめているからイラッとする。
見た目は純白の馬車。
めちゃくちゃメルヘンチックで夢見る女の子が喜びそう。そうじゃない女の子でも喜びそうだけど私的には今の状況で喜べるような余裕などなかった。
御者は深く帽子を被ってて見えないけれど人間ではある・・・と思う。
ただ、気になるのが何故か手を微かに震わしていた事。リーヴルはそれを気にせずに馬車の扉を開け私を引入れる。
それを見てたエラッタが不満そうに喚いた。
「ちょちょちょ!リーヴルサン!可笑しいでショ!ボクたち折角お出迎えしに来たのニ無視して置いてくナンテ~!
一緒に乗せてくださいヨォ~!中はチョー広いでショ?!」
「おやおやぁ?勝手に私の言ったことを無視して此方へ来たんですから御自分で帰られたら如何ですか?わざわざ乗せる義理などありませんねぇ」
「デモデモ!ミンナ怒っちゃいますヨ?いいんですかァ~??」
「・・・ハァ、貴方方も執拗い御方ですね。もういいでしょう、どうぞどうぞ」
「うっわぁ!ザッツイ~★」
なんやかや文句を言っていたが上機嫌。
こんな小さな馬車にあと四・五人の人たちを乗せることが出来るのだろうかと思ったが不思議な事に見た目とは全然違って中身は結構な広さだった。
・・・矛盾。
そうして馬車に乗った私達は(半ば拉致)リーヴルの屋敷へと向かう事になった(よう)。