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〜狂壊の鎮魂歌〜 悪魔との契約書  作者: マガミノ
第一章
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二話 どうでもいい人生にサヨナラを

「・・・」


嫌な相手が来た。

ああもう、面倒臭いなぁ。


彼女は藤 朔羅(さくら)。私の同級生だ。今は辞めたから元だろうけど。

真っ赤な口紅を塗って濃い化粧。高校生には不似合いな露出度の高い洋服に大振りなピアス。

正直、化粧や格好のせいでオバサン臭く見えてくるし私は彼女が苦手だ。

いじめっ子・・・という理由だけではなくて単に人として生理的に受け付けないのだ。


「てかさ、無視すんなよ。あの優等生な江藤ちゃんがサボりなんてヤバいじゃあん?先生知ってんの~?」


「別に・・・今日は先生にちゃんと事情を説明したので」


「へ~・・・つまんな」


貴方は何を期待してたのか。そう思うけれど口にはしない。絶対面倒臭いことになるのは目に見えているから。

藤の携帯からピロリンと着信音が聞こえてきた。

気だるげに携帯を開いて見てたが急にニヤニヤしだして楽しそうだ。


「くはっ!江藤まじ?これガチなの??」


「・・・?」


「アンタの両親死んだんだってね!!やっべ~!しかも交通事故の写真?ネット流出してるしウケる!!エッグゥ!」


「──────────!!」


「てかさ、これじゃアンタの人生の汚点なっちゃうね~(笑)ここまでされたら、さ?てかアンタの個人情報も流れちゃうんじゃね?」


私が反応したからだろう。更に藤は悪ノリをして私を煽ってくる。

・・・どうせこんな人生だ。ちょっと不真面目でも良くないかな、ふと思った。


「・・・」


「アンタ・・・聞いてんの~?」


「るな」


「・・・はぁ?」


「ふざけるな。私の両親はお前らの見世物じゃない。私を悪くいうのはいくらでも言いけれども私の両親まで悪くいうのは許さない。ヤバい?ウケる??私の人生の汚点???」


「ちょ、ちょっとっ・・・!!」


「────ふざけんなッッッッッッ!!!!!」


今まで何も言い返したことのなかった私が怒声を浴びせたからだろう。藤は呆然としている。


「なっ、何マジになってんの?!あーもー!まじ萎えるし!!」


そのまま藤は勢いよく足音を鳴らして去っていった。


本当はもっと怒りたかった。衝動に駆られて殴りたいとも思ってしまった。


・・・だけど・・・


強く握りしめた拳を緩める。

私がわざわざあんな奴に振り回されてたまるか。


お母さんとお父さんの悲しい顔が思い浮かんだのは気のせい。迷惑をかけたくないなんて思ってしまったのも気のせい。


だって両親はもうこの世にはいないんだから。




雨の中で立ち止まってしまう。

汚点と言われたことがどうしようもなく悔しかった。もっと言い返してやりたかった。


「・・・帰、ろ・・」


なんかどうでも良くなってきた気がした。

でも私は生きないと。

誰もいない家へ向かう。

そう、誰もいないはずだったのに。


「江藤 澪璃(みおり)さんですね?!

先日起こった不審な・・・予想外だった事故についてお聞かせ下さい!!」


「・・・?貴方は誰?私の家なんだから通して欲しい」


「・・あっ!すみません!(わたくし)○○○新聞の須田と申します!事故に居合わせ、奇跡的に生き残った江藤さんに当時の事をお聞かせして頂きたいのですが・・!」


「・・・貴方に話すことなんてありません。帰ってください」


「ですが・・・!」


「警察呼びますよ?」


そう言うと相手は去っていったがまた同じような人が幾人か家に来た。

うるさくて近所迷惑でしかない。

何故か私の家を特定した野次馬もタダの好奇心でやってきた。うるさい。扉をダンダン叩いて呼びかけてくる一般人やメディアの人々に苛立つ。


「通報しよ」


実際、110番通報すると少し迷惑そうにしつつもメディアに色々と流されるのは迷惑だからか来てくれた。

警察が来て注意をした効果は強かったのか(しばら)くは静かだったがそれを知らない野次馬がまた湧いてくる。


当然私のせいではないけれど近所の人たちは迷惑だから私を無視し始めた。

私と関わると知らない人に声を掛けられるのだろう。そのせいで近所の人たちには無視され、暗い嫌がらせが始まった。


「ここを立ち去れ・・・か。帰る場所もないのに無茶言うな」


文句を言われる筋合いはない。私は家賃だってしっかり払って、ここに暮らしてる。

仕事も始めた。


そんなある日、上司に言われた一言に衝撃を受けた。


「クビ・・・ですか??」


「ああ、本当に申し訳ないが・・君の身に起きた事件は未だに報道されてるだろ?そのせいで記者が結構な頻度でこちらへ来てとても迷惑を被ってるんだ」


そんな、事をしていいのだろうか?

ふと思ったが黙りこくる。私はそういうことについてはよく知らないから。

唐突のクビだってある事だ。会社に迷惑をかけてしまっているのだからそんなことがあっても可笑しくないのかもしれない。


「だからまあ・・・一応はこちらも新しい仕事先を幾つか紹介する。申し訳ないから・・な」


「・・・いえ、別に・・・大丈夫です」


そうして以前の職場を後にした。

後悔は・・・してるに決まってる。


でも、もうどうでも良くなってきてしまった。元同級生にも事件・・?事故の事について聞き出すため追いかけ回されて、私の顔も何故か知られているから知らない人に話しかけられて。

ああ、気持ちが悪い。


気がついたら夜の歩道橋に居た。

立ち竦んで、ぼやっと走り行く自動車やバス、トラックを眺める。


「上手く・・・死ねたりして」


フッと自嘲気味に笑ってしまう。

何でこんなことをしているのかも、もう分からない。ただ、楽になりたかった。


「お父さんお母さん・・・許して」


タイミングを見計らって歩道橋から──落ちる。

頭を下に向けて。一瞬で頭を強打してきっと死ねる。もしも死に損なったら直にやって来るトラックが上手いタイミングで私を殺してくれるだろう。

・・・少し運転手さんには申し訳ないね。


再度、自嘲をする。そうしたら何時(いつ)の間にか目の前が真っ黒になって・・・意識が(つい)えた。

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