その3 来客。
「♪~♪~」
とある休日の昼下がりのこと。私は家で1人、音楽やゲーム、その他色々と謳歌していた。
姉はバイト、妹は友達と遊びに行くとかで不在なので、家には私しかいない状態だ。
\ピンポーン/
『開けてくださーい』
『はい、ちょっとお待ちください』
そう言えば今日はアニメのフィギュアの宅配が来るんだった。あえて誰が頼んだのかは言わないでおこう。
さすがにシャツ1枚で応対するのはアレだと思うので1枚上着を着て、そしてハンコを持ち出してドアを開ける。さぁ待ってろ私のフィギュアちゃん。あ、言っちゃった。
ガチャッ
「……運命って…信z
「信じません」バタン
ちきしょう、フィギュアじゃねえのかよ。メールだのSNSだのもっと効率的かつグローバルな手段がいくらでもあるようなこのご時世にお宅訪問とは随分と時代遅れな方法を使っているものだ。まぁ、どっちにしろ私は宗教に興味はないのでメールやDMで来ても断るまでだが。
「はぁ…」
冷めた。フィギュアじゃなかったからと言うのも妙だがとにかく冷めた。何を隠そう私はアニメオタクである。それも、どちらかというと男子向けである、女子による日常系作品のオタクなのだ。今君が読んでるそれみたいな…いや、違うな。ごめん。
\ピンポーン/
『あの、す、すみません…開けて、ください?』
『…ちょっと待って』
「……誰…?」
女子小学生っぽい声だった。まぁまず配達員ではなかろう。それと私にあんなロリータな友達はいない。
…ん、友達?なるほど。この人は恐らく我が妹の友人だろうか。妹は中学生なので、若干小学生っぽい声の人がいてもそうそうおかしくはないだろう。女子はあまり声変わりしないものだし。プリントでも届けに来たんだろうか。
まぁ最悪知らない人だとして、子供ならそこまで危害は加えないだろう。というわけでハンコをポケットにしまい、上着は来たままで若干警戒しつつドアを開けた。
「お邪魔します…」
「ああ、どうぞ」
やはり中学生にしては身長が低い。ざっと…140いってないぐらいだろうか。高校生どころか成人で身長130cm台とかアニメだとたまにいるし、中学生なら全然許容範囲でいいはずだ。
ちなみに金髪ショートである。
「それで、どっから来たの?」
「えっと、イタリーから…」
あっ、出身地じゃなくて単純にどこから来たのか聞きたかったのだが。なるほど、我が妹は留学生とも友達になっていたのか。流石だ。
「なんかお菓子食べる?オランジェットとか」
「あ、苦手なので大丈夫、です…」
知らない人のために一応説明すると、オランジェットは砂糖漬けにしたオレンジの皮にチョコレートをかけたお菓子である。チョコと柑橘という組み合わせなので若干人を選ぶお菓子なのだが、どうやら彼女は苦手な方らしい。私も苦手なのであわよくば消費してもらおうかと思ったが上手くいかなかった。残念。
「じゃあポテチは?ガーリック味のがちょうどあるんだけど」
「え…い、いらないっ」
ダメ元で勧めてみたがやっぱりこうなったか。ただでさえ女の子と言うのは匂いに敏感なのだ。それなのにニンニクを勧めるのは少々悪戯が過ぎたな。はは、冗談だよ、私はガーリックまぁまぁ好きだけど。
「えー…じゃあ、何か飲む?」
「じゃあ、血液…あ、いえ、やっぱりなんでもないです」
なるほどこれは本場のイタリアンジョークってやつですな。血液って鉄臭い味とか言われてるらしいけど、その奥深さに若くして気づくとは。いや、これだと私が血の味を知っているような言い草になってしまうのでまずい。それよりもこの子めっちゃ礼儀正しいじゃん。何なの。可愛い。
「えーっと…ちょっと探してくる」
「え、そんな、お気遣いありがとうございます」
気に入った。こやつに血液を提供してやろうではないか。もちろん本物を出すわけにはいかないのでトマトジュースとかで子供だましするけど。てか本物の血液なんて家にあるわけないし。
「さてさてトマトジュースはー…あれ、ない」
おっと、トマトジュースがないとはな。ご都合主義にも限界があるようだ。だが野菜ジュースがあった。これをコップに注いでっと…
…おお、オレンジだ。見事なオレンジ色だ。人参ベースにりんごや柑橘をブレンドした、鮮やかなオレンジ色のジュース、これを血液と言い張るのは少々無理がありそうだ。仕方ないな、トマト缶を潰して…おっ?
ここで、調味料棚にある塩だの醤油だのに混じって私が発見したのは、ズバリ食紅だ。多分姉が使ってるんだろう。ご都合主義も捨てたもんじゃないのである。迷わずそれを手に取ったあと、付属のスプーンとも言い難い超ちっちゃい匙で少量の食紅をジュースに投下した。
…たちまちジュースは真っ赤に染まる。よし、フルーティー&ベジタリティーな血液風ジュースの完成だ。…ベジタリティーって何だよ。それと実際の血液はもっと黒いらしいけど、そこまでリアリティを求めるのは色々とアレなのでこのまま出してみるとしようか。
「ん…これ、ちょっと甘い?」
「アレンジした」
うーん、やっぱり毎日飲んでる人にはその違いが分かるらしい。でも血の味の再現をこんな一般人に求める方が無理がある。本物飲みたいなら医者に頼んでくれ。
「ところで、何しに来たの?」
「えっと…ごめんなさい、実は隠してる事があったんです…」
質問無視かよ。まぁいいけど。私も彼女が来た理由、そもそも何者かも知らないで家に上げたわけだから聞いたっていいだろう。それに、隠し事をこうして明かしてくれるということはきっと私に愛着が湧いたってことなんだろうし、聞けるなら聞いておこう。
「私…実は、吸血鬼なんです」
「あー…うん…。」
うん、知ってた。飲み物で血液欲しがる時点でおかしいと思ったもん。イタリアンジョークとか言って流してたけど流石に限界だ。ガーリックポテチも多分本能で避けたんだろう、史実通りなら弱点の一つだし。
というわけで知らない人を上げてしまったことになるので、早速お帰り願いたいところだが…念の為。
プルルル プルルル
ガチャッ
『もしもし、突然だけど吸血鬼の友達っている?』
『え?吸血鬼?いやいやそんなー』
『じゃあイタリーから来た金髪の友達はいる?』
『留学生はそもそもいないはずなんだけどなぁ…』
『あーわかった、切る』
『ねーどうしてそんなこと聞くのー?』
とりあえずあの人は身内の誰の知り合いでもないという確信を得た。そうとなればどうやって帰させてあげようか、という思慮を巡らすことになるが……気づいた。
…吸血鬼って、確か夜行性だったよな?ほら、日光弱点じゃん。それで今は午後の1時ぐらい、つまり真っ昼間だ。なぜ、こんな時間に普通に活動してるのだ…?まさか、この人は吸血鬼のフリしてるただの痛い人間だったりするのか…!?
勇気を振り絞って、私は問うた。
「きみ…本当は誰なの?」
最後の審判だ。返答次第では帰ってもらうをすっ飛ばして、警察に突き出すことも考えなければならない。答えてくれ。私の頭をよぎった最悪の仮説をここで否定してくれ。
「わ、私は……
プルルル プルルル
「…妹!?」
ガチャッ
『思い出した!今日いとこ来るんだったよ!』
『吸血鬼のか!?』
『それは知らないけど!いやー、久々に来るって言ってたのに忘れてたー…!』
『じゃあ家にいるのはいとこ…!?』
『えっとー…多分そうじゃないかな?』
というわけで彼女は吸血鬼でもなくただの痛い人間でした\(^o^)/
しかしいとこよ、小学生だというのにどうやってこんな趣味を得たんだろうか。将来が楽しmゲフンゲフン将来が心配だ。
\ピンポーン/
『あっ、多分いとこの親来たわ、切るね』
『うん、わかった』
勝手に1人でお宅にお邪魔するとは随分と腕白な子だったなぁ。でも、思えばそんな性格だった気がする。さて、あとは親に任せよう。
「こんにちは、宅急便です」
「えっ」
まじかよ。完全に油断してたんだけど。いとこにどうやって説明したものか。もしくはあっちも(多分)オタクなわけだし明かしちゃってもいいのか。…ん?
「うち、蟹なんて頼んでませんけど」
「え?あなたのお宅宛になってますよ?」
「いや頼んでないです、家間違えてませんか?」
「まぁそう言わずに受け取ってくださいな、モモさん」
「なっ、なぜ私をそう呼ぶ…!?」
「ふふっ…」
何なんだこの配達員、私のあだ名を知っているだなんて…!?書いたのは本名だけのはずだ、私はいつの間にこいつに弱みを握られたのか…!?やめろ、一体何をする気なんだ!?
「いとこのお母さんでーす!」
「ちょ……!?」
「ドッキリ大成功〜☆」
「っえ?えっ?!」
「モモ姉ちゃん引っかかった〜☆」
「お前それ…カツラだったのかよ…」
思い出した。アイツらいっつもこんなんだ。私たちがいとこの家に来るときも大体なんかのイタズラが仕掛けられてて毎回毎回引っかけてくる。そして今回は自ら仕掛けにきた。なんという親子だ。でも親子の仲がいいのは嬉しい話、そういうことにしておこう。
「あの、すいません○○(私の本名)さん…」
「誰か呼んだ?てか今の声誰だ?」
「宅配便なんですけど…」
「あっ」
なんか忘れてると思ったんだけど君だったか。いやはや、偽宅配便と私が会話している間に来てたのか。ポッケにハンコを入れてたままだったのでそれで応対した。そしてフィギュアちゃんを無事に受け取った。
「…私もドッキリしてみたくなったな」
「お、やるやる〜?」
そして、その3.5に続く…




