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病室へ入ると、いつもとはうって変わって、ベッドにぐったり横たわる母の姿があった。
大きな点滴袋が吊り下げられ、病状のものものしさを増長させた。
「お母さん…。」
呼び掛けると、うっすら目が開く。
「…来なくていいわよ。…寝てるだけだから。」
そう言う母の口調は、とても弱々しく感じられた。
ちょうど父も駆けつけ、医師からの説明を聞くため病室を離れる。
弱々しい母の姿を見ているのがつらくて、カーテンをそっと閉めた。
空いている処置室に案内されると、すぐさま主治医が来た。
そして、頭を下げる。
「今日、お腹の水を抜く処置をしたんですが、抜いたことによって脱水症状を引き起こしてしまいました。今は点滴で落ち着いたところです。」
お腹の水というのは、胆汁のことだ。
母は、お腹に胆汁がたまってしまっていた。
胆管に癌ができていて、詰まって胆汁が流れなくなっていたのだと、前の検査の時に医師が言っていた。
全然実感がわかなかった癌という病気が、今回のことで一気に近付いた気がした。
同時に、死が身近であることを実感してしまった。
それは、父も同じようだった。