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咎人

「えっ……。いや、お前もあれ見えてんの?」


 湊の質問に、俺はもう驚きをはるかに通り越して聞き返した。


「お前もっていうことは、見えてるってことでいいんだな」


「ああ……。見えてる」


「そうか……」


 俺の答えを聞いた湊は、少し悩むような仕草を見せた。


「……今日の放課後、時間あるか?」


「予定はないけど、なんで?」


「ついてきて欲しい所がある」


 湊はやけに真剣だな。

 断らない方が良さそうだ。


「わかったよ。放課後だな」


 俺がそう言った時、急に窓の外が暗くなった。


「なんだ! 何が起きてるんだ?」


「……奴だ……」


 慌てふためく俺とは対照的に、湊は冷静に呟いた。


「……天久。次の授業はズル休みするぞ」


「へ?」


「ついてこい!」


 もう俺は走り出した湊を追いかけることしかできなかった。

 状況判断などもってのほかだ。

 必死になってついて行くと、湊は立ち止まり振り返った。


「ついたぞ」


「ここって……」


 走ってきたのはまさかの保健室。

 本当にズル休みする気なんだろうか。


「先生。 こいつ、見えるみたいです」


「そっか。仕方ないわね」


 この短い会話で全部わかったのか? どういう関係?

 俺は湊、そして養護教諭の幹坂縁(みきさかより)先生へと喉まで出かかった質問を飲み込んだ。


「あの、先生……」


「とりあえず、伴君。頼める?」


「わかりました」


 俺の話は聞かれる事は一切なく、どんどん2人の間だけで話が進んでいく。

 湊は側にあった椅子に腰掛け、そして立ち上がった。


「え、何で今座った?」


「ほら、よく見て」


 幹坂先生に言われて見ると、


「……湊、その格好何? コスプレみたい……。ていうか体2つあるじゃん!」


 俺の目には、湊の姿は制服で力なく椅子に座っているものと、全身が黒いコスチュームを纏って立つ2つが見えていた。

 立っている湊の両手足に枷がはめられ、そこから切れた鎖が繋がっている。


「説明お願いします」


 湊は壁へと歩いていき、そして消えた。


「え? だって、壁が! はぁ?」


 だめだ。頭が追いつかない。


「……説明欲しい?」


「はい! 今すぐに!」


 今までの人生で一番食い気味の返事をした。


「仕方ないわね。伴君たら、説明押し付けるなんてひどいわ……」


 ため息をつきながらも、先生が俺に話した内容は要するにこういう事だ。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 人には死んだ時に一度成仏して転生するか、成仏できずに地獄に堕ちるかの2種類の道がある。

 もちろん、大罪を犯せば地獄に堕ちることになる。

 しかしながら、ほんの小さなこのサイクルの狂いがあった時、地獄へ堕ちるべき魂が転生するという。

 その転生先て生まれたのが俺たちのような人間、「咎人(とがにん)」らしい。

 生まれた「咎人」には前世の記憶はないが、1つの能力が発現することがある。

 地獄に堕ちた罪人は無条件で罰を受けているのではなく、地獄の「断罪人」に抗う力を与えられるそうだ。

 抗うと言っても「断罪人」との力の差は大きく開き、勝てる事はまずない。

 罪人達は全てを諦めるまで、徹底的に踏みにじられるのだ。

 その、罪人が持つ抗う力が「咎人」に受け継がれたものを「罪の象徴(シンボル)」と呼んでいる。

 その「罪の象徴」が発現した「咎人」は「断罪人」にその存在を察知され、地獄へ連れ戻そうと狙われるらしい。

 そういえば、さっき湊の体が2つに見えたけど、あの黒くて鎖がある方が湊の魂らしく、「咎人」は体と魂を分けることができるそうだ。

 その魂は普通の人間には見えないようで……。

 普通に考えたらありえないとしか思えないけど、見えちゃったからな……。


「どう? 理解できた?」


「理解したというか、させられたというか……」


「なら、あれ見てて」


 先生は窓の外を見るように言った。


「外に何が……って、戦ってる?」


 見ると、例の首なし巨人と湊が戦っている。

 その湊の手には、身の丈ほどのゴツい大鎌が握られていた。


「あれが湊の……」


「そう、あれがミッチの『罪の象徴』。『紅血の運命——The doom of blood』なのみゃ」


「みゃ?」


 突如、後ろの湊の抜け殻から変な語尾の声が聞こえてきた。

 振り向くと、さっきまではいなかった黒猫が湊の膝の上に座っていた。


「見てたんですか? ミーシャさん」


「新入りをびっくりさせようと思ってみゃ」


 もう、喋る猫が現れたくらいで驚かない。俺も異常なことに慣れちゃったのかな?


「先生。この猫は?」


「驚かないのね。まぁいいわ。彼女はミーシャさん。伴君の『罪の象徴』よ」


「『罪の象徴』って、あの武器以外もあるんですね」


「そうみゃ。ミーシャと『紅血の運命』で一対の『罪の象徴』みゃ」


 へー。武器と動物で1つの能力か。俺のはどんなのだろ?


「ていうか、ドゥームって悪い方の運命の意味だろ。そんな名前でいいのか?」


「罪人の能力だからね……。仕方ないんじゃない?」


 ふと俺はミーシャさんの方に目を向けると、そこに姿はなく今まで座っていた湊の体が立ち上がった。


「おっ。湊が戻った」


「ちょっと移動するみゃ」


「……みゃ?」


 俺の本日2度目のセリフが出たところで、大きな音がして壁を突き破り湊が吹っ飛んできた。


「は? おい! 大丈夫か!」


 壁突き破ってくるほどって何があったんだよ!

 お前さっき壁すり抜けてたよな!


「大丈夫だ。問題ない」


 たしかに湊はもう立ち上がっている。


「そうだ天久。1つ言い忘れてたけど……」


「何?」


「あの『断罪人』だが、お前を狙ってるぞ」


「マジか……」


 ちょっと待て。俺まだ何もできないのにそんなのありかよ。

 壊れた壁から見える首なし「断罪人」。

 そいつは俺へと剣を突き出した。

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