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夢が現実になった日

 ジャラジャラと鎖が擦れる音が響く。

 俺の手足が鎖で拘束されていた。当然動くことはできない。

 そして、顔を上げて見えるのはいつもの光景。首から上が暗闇に包まれて見えなくなっている大男が立っている。

 男が持っているのは、血濡れた巨大な剣。ところどころに刃こぼれが目立ち、錆びているところもある。

 見えるのはそれだけだ。あとは暗闇が続いている。

 そして何の前触れもなく、男は俺目掛けて持っている剣を振り下ろした。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


「……くそっ。またあの夢かよ……」


 寝起きとしては最悪だ。

 いつも、鎖で拘束されてあの大男に殺される直前で目が覚める。


「いつからだ。あんな夢を見るようになったのは……」


 思い返せば、中学の頃から見るようになったんだったっけな。


「まだこんな時間か……」


 充電中のスマホを見ると、午前4時半。アラームは5時に設定してあるが、二度寝するほど眠たくもない。

 俺は布団から出て、キッチンへと向かった。もちろん朝ごはんの準備だ。


 毎朝、俺は2人分の朝ごはんと弁当を作る。妹と俺の分だ。


「おはよう。旭飛(あさひ)兄ちゃん」


「おはよう。いつもより早いな」


 起きてきたのは妹の凛音(りおん)だ。


「まあね。でも、兄ちゃんはいつも早く起きてるんでしょ?」


「今日はちょっと早めだけどな。ほら、朝ごはんできたぞ」


 いつもと同じ、2人だけの朝。

 これが天久(あまひさ)家の日常だ。

 母さんはもうすでに仕事に出ている。

 そして父さんは、俺たちが幼い頃に病気で死んでいる。だから記憶もほとんどない。


「ごちそうさま」


 そんな事を考えていたら、もう凛音は朝ごはんを食べ終わっていた。

 俺もさっさと食べきるとするか。


 使った食器を洗い、制服に着替えた。

 ちなみに、俺の通う繋碌北(けいろくきた)高校の制服はブレザーだ。まぁどうでもいいか。

 そんな感じで準備を終わらせると、インターホンの音が鳴った。


「天久氏、学校に行きますぞ」


「おい詠治(えいじ)。何だよその喋り方」


「いや、おもしれぇかなって思っただけ。特に意味なし」


 こいつは霧間(きりま)詠治。

 同じクラスで、俺たちが住んでるマンションの1つ上の階に住んでいる。


「じゃあ凛音ちゃん。兄貴連れて行くわ」


「はーい。いってらっしゃーい」


 妹よ。なぜそんなに棒読みなのか。


「凛音ちゃんって俺に素っ気なくね?」


「かもな」


「それでもさ、あんな妹、俺欲しい。今日の俺の一句はそんな感じ」


 こいつ、どうしようもねぇな。


「今、『こいつ、どうしようもねぇな』って思っただろ」


「思ったけど、何で?」


「意外とお前、顔にでるタイプっぽいぞ」


「うわー。まじかー」


「嘘だよ。あとさ、お前ら兄妹って、ほんと似てるよな。面倒になったら言葉に気持ちが込もってないとことか」


 そうか。側から見たら似てるんだな。

 そんなどうだっていい話を延々と聞かされながら、俺たちは高校へ向かった。


 ✳︎ ✳︎ ✳︎


 午前中の授業がいつも通り終わり、俺と詠治は弁当を食べていた。


「今日の旭飛君のお弁当はどんなかなー?」


「昨日とほぼ同じだって。それよりも、お前いっつもパンだろ? 白飯食えよ」


「朝と晩に食ってるから問題ねぇよ。でもやっぱり弁当見てると食べたくなるな。その卵焼きくれよ」


 今日の詠治のパンは焼きそばパンだ。ちょっとうまそう。


「じゃあ卵焼き1個とその焼きそばパンで交換な」


「このパンは俺の命の源だせ。そんな卵焼き1個で換えれる代物じゃないのです」


 おいおい。お前が言い出したんだろうが。


「弁当話は置いといて、旭飛さんに少々ご相談があります」


「なんでしょうか」


 詠治がこうやって話しかけてくる時は考えていることは1つしかない。


「午前中の授業ノート見してください」


「嫌」


「即答かよ! もうちょっと慈悲をくれたっていいじゃん! 慈悲を!」


「ずっと寝てたお前が悪い」


「寝てたって言うけどさ、お前だって寝てたじゃん」


 そこを突かれると痛いんだよなぁ。


「俺は寝て起きてを繰り返すからいいんだよ。ノートは取れたらいいだろ」


「なんだよ。俺はずっと寝っぱなしみたいに」


「実際そうだろ」


「わかった。じゃあ別の人にあたってみる」


 俺に見せてもらうのを諦め、詠治は教室をうろつきだした。

 クラスメイトの1人くらいは見せてあげる優しいやつもいるだろう。

 とっくに弁当を食べ終わっていたので、弁当箱をかばんに片付け、何気なく窓の外の方に目を向けた。


「……っ!」


 言葉が出なかった。

 俺の視界に飛び込んできたのは、夢で見た首から上がない大男だった。

 ん? ちょっと待て。ここ3階だぞ。

 3階の位置に肩があるってこいつでかすぎだろ。


「どうした旭飛。顔真っ青だぞ」


 俺の様子に気付いたのか、詠治が話しかけてきた。


「どうしたじゃねぇよ。あれ見ろって」


「あれって何だ? 何かあるか?」


 詠治にはあれが見えていないのか?

 じゃあ何で俺にはこんなに鮮明に見えてるんだよ。

 俺の視界の先で、大男はまるで何かを探しているかのように歩いていった。


「何だよ……、あれ……」


 俺は呟いていたが、詠治には聞こえなかったようだ。


「天久。ちょっといいか」


「うおっ! 何だ委員長か。おどかすなよ」


 大男に気を取られていたから過剰に反応してしまった。肩を叩かれただけなのに。


「こっちに来てくれ」


「俺も行った方がいいか?」


 詠治も一緒に来るつもりらしい。


「いや、大丈夫。天久1人で」


 俺と委員長、伴湊(ばんみなと)は教室を出た。


「なぁ委員長。どこに向かってるんだ?」


「委員長と呼ぶのはやめてくれ。なんか恥ずかしい」


「次からそうするよ。で、どこに?」


 湊は急に立ち止まり、真剣な表情で俺を見た。


「天久。お前、あの怪物のこと見えてるだろ」


 5月26日の昼休み。

 俺の平凡な「日常」は、大きく変わり始めた。

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