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翌朝、私はまだ陽も昇っていないような薄暗い時間に起きた。目覚まし時計なんてないけど、緊張していたせいか、エマに声を掛けられる前に自分で目を覚ましていた。
自分のクローゼットから簡素なズボンとシャツを出して着替え、その上から目立たない色のドレスを選んで着る。
「エマ、大丈夫そう?」
「はい」
少しごわごわするけど、そこは仕方ない。
「よし、行こう」
エマに声を掛けて、部屋からそっと抜け出す。
昨日、あれから自分でも必要な物を用意して、エマと更に計画を練った。私一人ではここまでの計画を立てるなんて正直無理だったと思う。
(正直、上手く行くかは分からないけど、やれるだけやらないと……)
バレたら色々と大変だけど、私の突拍子もない行動にはレイも多少慣れてるから、案外レイはすんなりと事態を受け入れてくれるかもしれない。
まだ使用人の一部しか起きていないような時間だから、館の中はかなり静かだった。物音を立てないようにするのは大変だけど、逆に私も他の音が聞きやすい。誰にも見つからず、エマの誘導で使用人が使っている出入り口から外に出れた。
「少し離れた場所に馬車を手配しています」
「本当? 良かった……」
頼んだ時間が遅かったから、馬車は難しいかもしれないと心配していたけど、手配できていたようで助かった。無理なら徒歩か走って行くしかなかったから、かなり負担が減る。
薄暗い通りをエマの言う方角へと進む。運が良いのか、少し霧が出ているからある程度離れてしまえば迎賓館からは見えなくなるだろう。
少し歩いて角を曲がった所に、一台の箱馬車が停まっていた。多分昨日も使った紋章なしの馬車だ。御者席にいるのは迎賓館でいつも馬の世話をしている人だけど。
エマが御者に一言二言声を掛け、馬車に乗り込む。特に見つかった気配もなく、馬車が動き出してほっと息を吐いた。
(エマがいてくれて良かった……)
本来なら私の身の回りのことをしてもらうだけでいいのに、色々なことをさせてしまって、エマには本当に感謝してもし足りない。
(あとは、誰にも見つからずにカンザキさんを連れてサンティエから出るだけ……)
そこが上手く行けば、ある意味勝ちだと私は思っている。
私達が一緒にいなくなったことに周りが気付くまでに時間がかかるだろうし、そこから探し始めても私達の目的地を知らない状態では、簡単には追ってこれない筈だ。
唯一、エマだけは私がイニティウムに行きたいことを知っているけど、エマには一度迎賓館に戻ってもらった後、頃合いを見て抜け出してもらうことになっている。私のためにとフェガロ家が雇った使用人なのだから、私がいないのであれば迎賓館に留まる必要はない。
上手く抜け出せれば、エマの方に追手がかかる可能性は低い。ここはソレイユ国だ。レイが使える人員は少ない。人手が少ない状態なら、エマよりも私達の足取りを追わせた方がいい。
ソレイユ王が手を貸せばまた事態は変わってくるけど、私がカンザキさんを連れて逃げたという確証が得られるまではそう簡単に兵を動かしたりしないだろう。
エマがカンザキさんの身代わりをしたことがバレれば、一気に露見するだろうけど、それまでにサンティエを出ることができていれば、逃げ切れる可能性もある。エマは、捕まってしまえばどうなるか分からないけど――。
(一応、逃げれなかった時のために、全ては私の責任であるということを書いた手紙を部屋に置いてきたけど……)
もちろん、それだけではエマの身の安全は保証できない。
「エマ、何かあったら、私のことは気にしなくていいから絶対逃げてね……この手紙を伯父上に見せればきっと匿ってもらえるから……」
そう言って私はエマに手紙を差し出した。封蝋には私個人の紋章を使っているから、伯父も疑ったりはしないだろう。
エマは少し沈黙した後、「はい」と頷いて手紙を受け取った。
使用人の立場的に私を見捨てるような行動は取れないだろうかと心配したけど、頷いてくれたことに安堵する。
「エマ、本当にありがとう。エマがいてくれたから、色々と一人ではできないこともできたんだと思う。今回の事もそうだけど、普段の生活とかセシル王女のこととかも含めて全部。馬車を下りたらもう言う機会がないかもしれないから、今の内に言っておくね。今まで、本当にありがとう」
下手をすればもう会えない可能性だってある。そう思うと、感謝の言葉を口にせずにはいられなかった。
「勿体無いお言葉……少しでもお役に立てましたなら幸いです」
もし全てが上手くいって、セレーネに帰ってもエマと会う機会があったら、何か個人的にしてあげたいと思う。私個人に何ができるかは分からないけど。
馬車は誰にも止められることなく進み、下級役人の宿舎に到着した。
私は一つ深呼吸をして馬車を下りる。
辺りに漂う薄霧はまだ晴れていない。
エマは御者の男性に近付くと「これを」と言って銅貨を数枚渡していた。
「帰りは別の馬車を使いますので、待つ必要はありません。くれぐれもこの事は内密に。王女殿下のご希望です」
「は、はい……」
男性は縮こまるように何度か頷くと、手綱を繰って来た道を戻って行く。
まさか賄賂まで用意しているとは。エマは本当に用意周到だ。昨日、あの短い時間で馬車やその他諸々を用意してくれたことといい、エマは私が想像しているよりも遥かに有能な女性なのかもしれない。
エマに小さく礼を言ってから、私は気を引き締める。ここからは、私がいかに上手く衛兵を騙せるかにかかっている。
昨日と同じく脇にある入り口から入り、階段を上る。
(多分、馬車の音は聞こえたはず……)
下級といえど役人が寝泊まりしている場所だから、王宮からの馬車だと思われた可能性もある。
(手短に済ませないと、関係ない人まで起きてくるかもしれない……)
そう思うと自然と足早になる。
カンザキさんがいる部屋が二階で良かったと思いながら階段を上りきり、目的の部屋のドアをノックした。
椅子を引きずるような音がした後、ドアに設けられている覗き窓が開く。暗がりの中、ランプの灯りが除き窓の向こうに見えた。
「……誰だ?」
「セレーネ国王女、ニナ・スキアーです」
そう言いながら、スキアー王家の紋章を掲げて見せる。
「は……」
衛兵らしき男は唖然とした声を上げて固まった。
「お、王女殿下、でいらっしゃいますか……?」
突然のことで衛兵は動揺しているけど、スキアー王家の紋章はちゃんと分かっているようだ。
「そう名乗りましたが? 我がスキアー王家の紋章をご存じないのでしょうか?」
敢えてそんな風に言うと、衛兵は焦りながら否定する。
「い、いいえ! そのようなことは、決して……!」
「では、ドアを開けて下さる? こんな場所で長く待たされるのは初めてだわ」
もう一押し、と言わんばかりに圧を掛ければ、衛兵は「は、はいっ」と音を立てながらドアを開けた。
できればもう少し静かに開けて欲しかったとは思ったけど、状況が状況だから仕方ない。
私も意外と王女らしく振る舞えるんだな、と変な感心をしながら中に入った。
「そ、それで、このような朝早くに、どのようなご用件で……?」
衛兵の視線はドアと私を行ったり来たりしている。護衛の人間がいないのを不思議に思っているのかもしれない。
「マナミ・カンザキの様子を見に来ました。服はずっと同じものを着ているようですし、顔色も悪かったので、差し入れもかねて」
「は、はぁ、このような朝早くに、ですか……」
「彼女の置かれている状況からして、堂々と来れるわけがないでしょう? 朝早くでないと、私も迎賓館を抜け出せませんし。用件が分かったのであれば、早く通してもらえません? 弟に見つかったら貴方のせいだわ」
「い、いえ、ですが、許可なくそういったことは……」
「服とパンを与えることもできないと? ソレイユではまだ罪人でもない少女に必要な物すら渡せないのですか?」
「いいえ、決して、そういうわけでは……!」
身分が高い者には逆らえないみたいだけど、未だ渋っている衛兵にどうしたものかと考える。
(何かあった時に咎められることを恐れているんだろうけど……)
ここは少し計画を変更するしかない。
「貴方が何を疑っているのかは分からないけど、心外だわ。エマ、荷袋の中を見せてあげて。ここの衛兵は私のことを疑っているみたい」
「い、いえ、そんな、滅相も――」
慌てて否定する衛兵を無視して、エマに袋を開けてもらう。
袋の口から見えるのは、平民の女性が着る服と紙に包んだパンだ。
「エマ、パンが見えないわ。見せてあげて?」
「はい」
エマは紙の包みを解いてパンを見せる。私の夕食になる予定だったものだから上等なパンだ。
「これで疑いは晴れました?」
「い、いえ、私は決して王女殿下を疑っていたわけではなく……」
「では、通してもらえる? ――ああ、それとも、もしかして賄賂を要求されているのかしら?」
「え、あ、いえ……!」
衛兵は首を横に振るけど、私はそれににっこりと微笑って見せた。
「気付かなくてごめんなさい。堂々と言えるわけありませんよね? エマ、何か渡せるものはある?」
「銅貨と銀貨でしたら――」
「い、いりません! 頂けません……!」
あまり大きい声を出されてもマズイ。この手は駄目だったか、と私は思考を切り替える。
「あら、じゃあ、何が駄目なのかしら……」
「で、ですから、上司の許可を得ておりませんので……許可を得てからでないと……」
「たかが服とパンを渡すだけなのに? こんな時間に上司を起こして許可を取るのですか? 私は急いで迎賓館に戻らなければならないというのに……」
はぁ、と私はわざとらしく溜め息を吐く。
「困りました。元々、マナミ・カンザキの様子を見る件は、ソレイユ王であらせられるフェリクス陛下から仰せつかったことですのに……これでは役目が果たせませんわ……」
ソレイユ王の名前はあまり使いたくなかったんだけど、ここまで来たら仕方がない。様子を見る件は全くの嘘というわけでもないし。
「へ、陛下から……!?」
「内密に承った件ですから貴方が知らないのも無理はありませんけど、役目を果たせなかったとあれば、フェリクス陛下に事情を説明して謝罪をせねばなりませんね……」
「そ、そういうことでしたら……!」
「いいえ、貴方も上司の許可なく勝手なことはできないのでしょう? 構いませんわ、私が恥をかくのを我慢すればいいだけですもの。フェリクス陛下の信用は失ってしまうかもしれませんが、今後私がリュミエール王家の方々の前に現れなければ問題ないでしょうし」
一衛兵に私のことがどれだけ伝わっているか分からないけど、今のソレイユの現状を知っていたら結構な問題だと分かるだろう。
「あ、いえ、そんなっ」
しどろもどろになる衛兵に、私は困ったように微笑みかける。
「ああでも、持ってきた服とパンが勿体ないので、エマに渡してもらうのは許して下さる? 自分でマナミ・カンザキの様子を確かめられないのは残念ですけど、貴方にも立場があるから仕方ありませんよね」
「は、はいっ」
ようやく首を縦に振った衛兵に、内心ガッツポーズをする。
「エマ、そういうわけだからよろしくお願いね。ああ、服はその場で着替えてもらって、着ていたものを預かってきて? ここでは洗濯もままならないでしょうから、持ち帰ってこちらで洗いましょう」
「はい、かしこまりました」
自分でカンザキさんに事情を説明できなくなったのは痛手だけど、エマなら何とかしてくれるだろう。とりあえず、エマの服を着て、何も言わずに出てきてもらえれば後はこっちでどうにかできる。
(にしても、結構時間掛かったな……)
レイだったらもっとスムーズにエグい言葉を吐いて衛兵を頷かせられただろう。私も一応、レイだったらどう言うだろうかと考えて言葉を選んでみたんだけど、レイとは出来が違うからこれが精一杯だった。
(でもま、エマを中に入れることはできたし……)
時間が押しているかもしれないから、この後も余計に気が抜けない。
部屋の外で誰かが話している声で目が覚めた。
まだ外も薄暗い時間に一体誰だろうかと思いながら身体を起こすと、ノックと共に使用人らしき女性が入ってきて愛実は身を固くする。
「だ、誰?」
女性は、「おはようございます」と軽く一礼する。白い布の帽子から覗く髪は、この国では数の少ない黒だ。
「ローザ様のご命により参りました。エマと申します」
ローザと聞いて、昨日彼女が訪ねてきた時に傍に控えていた女性だと思い出す。
「わ、私に何か……」
エマと名乗った女性は愛実の傍まで来ると、声を潜めて話す。
「申し訳ありませんが、詳しく説明している時間はございません。用件は一つだけです。今すぐ私と服を換えて何も言わずに部屋を出て下さい。後は部屋の外にいらっしゃるローザ様が連れて行って下さいます」
「ど、どこに……」
「ローザ様がご存じです」
「きゅ、急にそんなこと言われても……」
状況が分からず、愛実は混乱し始めるが、エマは構わずに服を脱ぎ始めた。
「えっ、ちょっ……!」
服を脱ぎ、荷袋の中から簡素な服を取り出しながら、エマは淡々と話す。
「貴女の現状は貴女が考えている以上に悪い。恐らく、このままここに留まれば、今日中に牢に移されます」
「ろ、ろうって……牢屋……? 何で私が……」
「魔力を持つのは王家か王家の血が流れる貴族だけ。それが二国の常識です。平民は魔力を持ちませんし、魔力を持っている王族や貴族から自然に移ることもありません。ソレイユの人々は、貴女がセシル王女から魔力を奪ったと考えています」
だから牢に入れられるということだろうか。それはつまり、自分が罪人と見なされているということに他ならない。
「そ、そんな……私、そんなこと、してない……!」
「貴女が何を言おうとも、現状では貴女が一番怪しいと考えられています。二国の存続にも関わることですから、ソレイユは何かしらの対応を取らなければなりません。理解できましたか?」
そう言った時には、エマは既に服を着替え終わり、後ろで纏めていた髪を下ろしていた。愛実が今そうしているように。
「さぁ、早く着替えて下さい。時間がありません」
エマにそう言われて、愛実は服を握り締めた。
自身の現状は、自分で想像しているよりも悪い――。その言葉が重く圧し掛かる。
魔力については自分が望んでそうなったわけではない。そう主張すれば、実際にそうなのだから、国の偉い人が信じて対応してくれると思っていた。
だが、そうではないと、今目の前にいる女性は言い、愛実を外に出す準備をしている。
(このまま、ここにいたら、牢屋に連れて行かれる……)
エマは、ローザが外に連れて行ってくれると言っていた。
正直な所、エマの言葉を――ローザを信じていいのかは分からない。
(何で、ローザが……ライバルキャラなのに……)
一瞬そんな風に思ったが、すぐにここはゲームの世界ではなかったことを思い出した。ローザも、ゲームのローザ・フェガロではなく、レイの姉だというセレーネ国の王女だ。
(信じて、いいの……?)
ゲームだと思っていた頃の愛実は、ローザに対してかなり警戒心を持っていたし、酷い態度も取ったことがある。嫌われている可能性の方が高いというのに、何故自分を助けてくれると言うのだろうか。
(分からない……でも、牢屋になんか入りたくない……)
牢屋に入れられたとして、カミーユやクロードが助けてくれるという保証は何処にもない。今を逃せば、外に出られるかどうかも分からない。
「き、着替えます」
愛実はベッドから下りて、着ていた服を脱ぐ。半分自棄になっている自分を感じながら、それでも手は止めなかった。
エマがカンザキさんの部屋に入ってしばらく、そこまで時間が経ったわけじゃないけど、ただ待っているという状況は時間が長く感じられるのか、衛兵がそわそわとし始めた。
「そういえば、彼女はこちらでも朝食を出されているのかしら?」
私は衛兵の気を逸らそうと、彼に話しかける。
「は、はい、それはもちろん……スープとパンを少しですが……」
衛兵の言う少しがどの程度かまでは判断が付かないけど、そう多くはないことは確かだ。私が持ってきたパンの方が量が多いに違いない。
「じゃあ、今日はもう朝食はいらないかもしれませんね。パンは一食分持ってきましたし。もし朝食を持ってくるなら、少し遅めにしてあげて下さい。朝早くに起こしてしまったから、しばらく寝かせてあげたいわ」
「は、はぁ……」
これで少しはエマが動きやすくなるだろうかと考えていると、部屋のドアが開いた。
俯きがちに、使用人の服を着て出てきたのはカンザキさんだ。白い帽子を目深に被っているから顔は見えにくいけど、荷物を持つ手が軽く震えているのが分かった。
かなり緊張しているようだ。私は早々に立ち去ろうと声を掛ける。
「エマ、ありがとう。護衛の誰かに見つかってしまうかもしれないから、早く戻りましょう。貴方も、ご苦労様。今回のことは貴方にも立場があるから仕方なかったと心に留めておくわ」
「は、はい……」
私の言葉をどう捉えたかは分からないけど、衛兵は少し顔色を悪くした。
「エマ、行きましょう」
今の内に、とカンザキさんを促して外に出る。階段を下りて通りに出ると、来た時よりも空が白んでいた。
急がないと、と内心焦ってはいるけど、誰の目があるか分からないから何食わぬ顔で通りを歩く。それでも自然に歩く速度は速くなっていた。
そうして角を曲がったところで、辺りを確認してから更に細い路地を探して入る。表から見えない所までカンザキさんの手を引いて行き、物陰に隠れたところで大きく息を吐いた。
緊張で汗が滲んでいるのが分かる。
「ごめんなさい、急にこんな所に入って。時間がないから、詳しいことはサンティエを出てから話すわ」
そう言って、手早く上に着ていたドレスを脱ぎ、カンザキさんが持っていた荷袋から空の荷袋と帽子を出す。ドレスを適当に丸めて荷袋に詰め、髪を纏めて帽子の中に入れた。
(よし……)
近付かれたら女だと分かるけど、遠目には少年に見えるだろう。
「あの、ねぇ……何で、貴女が……」
カンザキさんはどこか怯えと猜疑心の籠った目で私を見る。
正直、これまでの私達は良い関係とは言えなかった。彼女がこんな風に私を見るのも無理はない。
でも、今はそうも言ってられない状況だ。私は真っ直ぐに彼女を見つめた。
「それも後から話す。今はとにかく、私に付いてきて欲しい」
少しためらったかのように間を置いた後、カンザキさんは小さく頷いた。
私はほっと息を吐く。ここで更に時間を費やすわけにはいかない。
「良かった。走れる?」
「え、あ、はい」
カンザキさんが持っていた荷物も受け取り、一纏めにして肩に担ぐ。さっきよりも明るくなってきているから時間がない。
こっち、とカンザキさんを連れて路地裏から出た後は、東門の方へと東西に延びる大通りを走った。
目的は平民が耕作地や近隣の町に向かうのに使う乗り合い馬車だ。開門前に門の近くで乗る人間を集めて、開門と同時に王都を出るのだ。普通に王都を出るよりもこれに紛れ込んだ方が目立たない。
カンザキさんの体力が心配だったけど、出発する直前の馬車に何とか間に合った。
息を切らしながら、馬車の御者に乗りたい旨を伝える。
「何処までだ?」
「隣町まで、二人」
「二人で銅貨一枚だ」
荷袋から銅貨を一枚取り出して渡すと、馬車の荷台を顎で示された。
(良かった……これで何とか……)
肩で息をしているカンザキさんの背中を軽く撫で、もう出発するからと荷台に乗せて自分も乗り込む。
馬車が動き出したのを感じて、ちらりと来た道を振り返ったけど、追手のような人の姿は見当たらなかった。
(大丈夫、まだバレてないはず……)
もし、エマが入れ替わったことが衛兵に見付かっていたとしても、迎賓館と東門は方角が違う。まずは迎賓館の方に行くだろうから、その間に馬車は王都から離れた場所まで進んでいるはずだ。
大丈夫、ともう一度自分に言い聞かせていると、スカートを握り締めているカンザキさんの手が見えた。
緊張か、それとも不安や恐怖か――。
どれかは分からないけど、私の心臓もずっと早鐘を打っているから、似たようなものだ。
そっと彼女の手に手を重ねて握る。振り払われたら気まずいなと思ったけど、予想に反して彼女は手を握り返してくれた。
ゲームの内容に囚われて、私も積極的に彼女と仲良くなろうとはしなかったけど、少し行動を変えていればもっと早くに仲良くなれていたかもしれない。
そんな風に思った。




