55
いつも読んで下さる皆様、ありがとうございます。
今回同行するロゼール・ブルクミュラー夫人と簡単な自己紹介を交わした後、私達は北門を出て太陽の塔へと続く道に入った。
木々に覆われた道は、前回来た時よりも静まりかえっている。先遣隊は大分先まで行っているのか、微かな足音も聞こえてこない。
そのまましばらく歩いたけど、ダークウルフの群れに遭遇することもなかった。前回はこの辺で一回は遭遇したのに。
(まぁ、そもそも、森とはいっても王都のすぐ傍に魔物が出ること自体おかしいから、本来はこんなものなのかな……)
セレーネでも年に一回は叔母上が月の塔に行っているが、道中で魔物に遭遇したという話は一度も聞いたことがなかった。ソレイユでもきっと似たようなものだろう。
それから更に十分ほど歩くと、道の脇にダークウルフの死体が数体放置されているのが見えた。先遣隊が倒したのだろう。辺りを探ると怪我をしたダークウルフが三、四頭出てきたけど、近衛隊が威嚇するだけであっさりと逃げていった。
他の魔物が出てくることもなく、薄暗い森の中で光が差す場所に出ていた。前回ワイバーンが現れた場所だ。
少し警戒したけど、羽が空を切るような音はしない。今の所近くには何もいないようで、そっと息を吐いた。
ふと、レイがこちらを見ているのに気づいて、何もいない、と首を横に振ってみせる。ヴォルフ達も気にしていたようで、皆ほっとしているようだった。
(それにしても、枝葉が伸びるのが早いな……)
ワイバーンの炎に焼かれた後はもっと大きな穴が開いていた。それが半年足らずで半分ほどの大きさになっている。
(塔から漏れる魔力が増えている可能性も……?)
レイの話では、やはり春から夏にかけて太陽の塔の魔力の減りが早かったそうだ。結界に必要な魔力は一定量しか消費されないし、塔や結界に異常はなかったそうだから、異様に減った分の魔力は外に漏れていった可能性も考えられる。
(でも、そうなると、結界の核が魔力を保持できなくなってるってことになるか……あ、いやでも、異常はないって話だから、核も大丈夫ってことか……?)
考えれば考えるほど、ますます分からなくなる。
もともと塔の影響で辺り一帯の植物は成長が早い。穴が半分ほど塞がっているのはこの辺では普通なのか、それとも早いのか、それさえも判断が付かない。
外に漏れる魔力の量が増えていたならそれはそれとして何か対策が必要だけど、じゃあ、外に漏れてるわけでもなく、かつ消費量が上がったわけでもないのに減っていたとしたら、核にあった魔力はどこに行った――?
そこまで考えて、ふとセシル王女の姿が脳裏をよぎった。
身体の外に漏れ出ているわけでもないし、魔法を使っているわけでもないのに、魔力がどこかへと消えてしまっているセシル王女。
(似てる、気がする……)
魔力が消えているという点だけ見れば、の話だけど。
(核の魔力はそもそも結界の生成に消費されてるからな……単に魔力消費量が上がっているだけなら、消えてはいないし……)
核を間近で見れれば何か分かるだろうかと考えていると、不意に耳が遠くから聞こえてくる音を拾った。
低く響いてくる狼の唸り声と兵士達の声――。
「ヴェルナー」
「どうかされましたか?」
「先遣隊が戦ってる」
私の言葉に、ヴェルナーは前の方を歩くレイ達に報告に行く。
既にダークウルフの群れと遭遇している先遣隊は、多かれ少なかれ疲弊しているだろう。急いで合流しようということになり、一行は歩く速度を上げた。
そこからどれくらい歩いたか。森の奥から響いてくる喧騒は、私以外の人にも聞こえているようだった。どこか切羽詰まったような声が届くたび、護衛隊の警戒が強くなる。
――っ、退がれ……!
――無理に突っ込むな……!
――しっかりしろ……! 治癒班、こっちだ……!
今までの兵達の動きを見る限り、ダークウルフの群れ程度でそこまで苦戦するとは思えない。しかも確実に負傷者がいる。
(一体何が……)
まさか、またワイバーンのような魔物が現れたのではないかと、胸の中がざわつく。
そう考えたのは私だけではなかった。
「クロード殿下、我々は先に行きます! 後衛、二手に分かれて前後の護衛をしろ! 残りは私と来い!」
クラウスさんが声を上げる。予め伝えてあったのか、ソレイユの兵達はすぐさま二手に分かれた。
「クラウス……っ、頼んだ……!」
クロード王子は一瞬言葉に詰まるも、クラウスさんを送り出す。
駆けていく一団を見送りながら、ワイバーンの時みたいに無理をしないといいんだけど考えていると、レイが「私達も行きましょう」と声を掛けてきた。
落ち着き払っているように見えるけど、緊張が僅かに顔に出ている。
そっと近寄って手を握ると、レイは少し驚いたようにこちらを見た後、ふっと安堵するかのように微笑った。
ありがとうございます、と小さな声が聞こえた時にはもう、レイは前を見ていた。
ソレイユの兵と連携を取るようにと、ヴォルフ達に声を掛けながら歩き出したレイの後ろを私もついていく。
ふと、何か視線を感じるなと思って軽く視線を巡らせば、クロード王子と目が合った。何だか微笑ましいものを見るかのような眼差しに、そういえばこの人は私達が姉弟だともう知っているのだと思い出す。
さっきのやり取りを全部見られていたのかと思うと気恥ずかしくなって目を逸らす。
クロード王子からの視線もすぐに感じなくなり、こんなことを考えている場合ではないと目の前のことに集中する。
(負傷者がいるなら、防御の手伝いよりもまず治療だな……)
範囲回復魔法のようなものがあればいいのだろうけど、残念ながらこの世界にはない。術者が範囲内全員の状態を把握して精霊に伝えられればできそうだけど、まずそんな術者はいないだろう。
(全員の怪我を治して、とか簡単な言葉で精霊が全部を理解してくれればいいんだろうけど……)
でも現状そんなことは言っていられないから、状況把握と治癒魔法の速さが問われることになるに違いない。
クラウスさん達が早くも合流したのか、指示を飛ばすような声が聞こえてくるけど、状況は少しも好転していないようだった。
近付くにつれて徐々に魔力の塊を感じるようになる。遠くにソレイユ兵の後姿も見えるようになったけど、魔物の姿はまだ見えない。
それでも、肌が粟立ってくるのが分かった。
まだいくらか距離があるのに、魔物の魔力を感じるのだ。普通のダークウルフ程度の魔力なら、私は感知できないはずだ。
緊張で鼓動が速くなる。歩く速度も周りにつられて速くなっていく。
ようやく森が途切れたと思ったら、開けた場所に出ていた。木々の葉で覆われていた視界に塔が現れる。
いや、それよりも――。
「何だ、あのダークウルフは……」
誰かの唖然とした声が聞こえる。
大人の背丈を優に超える大きさのダークウルフが、ソレイユの兵達の前に立ちはだかっていた。
――太陽の塔に着く一歩手前で、ボスみたいなダークウルフが。
瞬時にゲームの記憶が蘇った。
最後に出てくるのは大きなダークウルフが一頭のみ。ただHPが多いだけで、戦闘中こまめに回復していれば問題なくクリアできた。
でも、それはゲームの話だ。
巨大なダークウルフからはかなりの魔力を感じるし、周りには普通のダークウルフもいる。
(何で、こんなのが……)
ワイバーンもそうだし、この巨大なダークウルフも異様だ。こんな魔物が以前から王都の周りにいたとは思えない。それに――。
(どうして、今更ゲームをなぞるように……)
私や周りが知らなかっただけで、実は前からいたのかもしれないけど、私にはそう思えて仕方なかった。
そうやって私が現実に戸惑っている間に、兵達は臨戦態勢に入っていた。
「両殿下! お退がり下さい!」
その言葉にはっとするのとダークウルフの魔力が膨れたのはほぼ同じだった。
思わずそちらに視線を向ければ、獰猛な目と目が合った。
(あ――)
不味い――。脳内で警鐘が鳴るけど、既に遅かった。
「ローザ様っ!」
防御魔法を、と考える間もなく、ヴェルナーの張り詰めた声と共に地面に押し倒される。衝撃に咄嗟に目を閉じたけど、風が呻るような音と共にヴェルナーの呻き声が聞こえてすぐさま目を開ける。
振り向けば、彼の右腕が血に染まっていた。
(アミュレットの効果があるはずなのに、これだけの深手を負うなんて……!)
種族としてはダークウルフなんだろうけど、ワイバーンと同等だと考えた方がいい。
すぐに治癒魔法を、と思ったけど、体勢を立て直す前に首筋が寒くなるのを感じた。ダークウルフの視線がまだこちらに向いている。
(“風よ、癒せ!”)
辛うじて一番深い傷は治せたけど、それ以外は無理だった。
すぐには動けそうにないヴェルナーから離れようと地面を蹴る。
「ローザっ!」
レイやクロード王子の声が聞こえたけど、振り向くことはできなかった。兎に角、他を巻き込まない場所まで移動しないと被害が大きくなる。
私がそうやって逃げている間に、他の兵達がダークウルフに攻撃魔法を放つけど、それでもダークウルフは私に狙いを定めていた。
何度か防御魔法で身を守りながら森へと走る。あの体格なら大樹が群生する森の中は動きにくいはずだ。
運が良ければ諦めるかもしれないと、木の根を飛び越えて大樹の裏に回った。
荒く吐き出す。あのダークウルフは、と耳を澄ませるけど、森の中まで入ってくる足音はしない。
ほっと肩の力を抜いて息を整える。
(良かった……でも、このままここにずっといわるわけにはいかないな……)
様子を見つつ皆の所に戻らないと、と考えていると、落ち葉を踏む微かな音が耳に届いた。
次いで視界に入ってきた黒い塊に、反射的に身体を捻る。
「っ――」
薄暗い中でも見えたダークウルフの牙は巨木の幹へと突き刺さった。
冷や汗が背筋を伝う。
震えそうになった手を握りしめ、思うように動かない足を叱咤してその場から逃げる。
(森の中にもまだいたなんて……!)
塔の周りにいた普通のダークウルフが追ってきたわけじゃない。今のは森の奥の方から出てきた。
木の根に足を取られながらも、立ち止まったら終わりだと自分に言い聞かせて森の中を走る。
攻撃魔法も初級なら使えるけど、今の私ではまだ決定打に欠ける。間近から急所に当ててどうにか深手を負わせられる程度だろう。もちろん、その場合は私も怪我を覚悟しないといけない。
(森から出るか……いやでも、あのダークウルフに見つかったらまた狙われるかもしれない……)
どうにかレイ達がいる場所の近くまで森の中を移動できれば、と考えていると、ダークウルフの唸り声と共に、地面が唐突に鋭く隆起した。
「っ!」
辛うじて避けれたけど、そこに今度は水の塊が飛んでくる。
(間に合え……!)
風よ、と自身を守る風の盾を作り出す。
風の盾に遮られて水は四散したけど、盾が消えて視界が開けた時にはもうダークウルフが目の前に迫っていた。
(次の、防御――)
間に合わない、という言葉が脳裏に浮かんだ。
避けるのも厳しい。
なら、腕を犠牲に牙を凌いで、攻撃を――。
ほんの一瞬、時間がゆっくりと進んでいるように感じた。
左腕を顔の前に出し、衝撃と痛みを覚悟したその時、横から飛んできた炎の塊がダークウルフの身体を包んだ。
「ローザ!」
クロード王子の声が響く。
はっと顔を上げれば、鞘から剣を抜いたクロード王子が、襲い掛かってくるダークウルフを斬り伏せていた。
「大丈夫か!?」
「は、い……なんとか……」
上手く状況を呑み込めていないけど、どうにか言葉を紡ぎ出す。
(何で、ここに……あれから、追ってきていたってこと……?)
別の方向からもダークウルフの悲鳴が聞こえてきてそちらを見遣れば、クロード王子の近侍と思われる近衛兵が数名いた。
ダークウルフの方ばかりに集中していたから、彼らの足音すら拾えていなかったみたいだ。
まだ状況の全てを把握できてはいないけれど、とりあえず助かったのだと、詰めていた息を吐き出す。
「怪我は?」
「目立ったものは……」
息を整えながら、自分の身体を見回してそう答える。擦り傷とかはあるけど、大したことはないから数には入れない。
「本当に、大丈夫なんだな?」
もう一度確認してくるクロード王子に、今度はしっかりと頷いた。
「はい、お蔭様で。助かりました。ありがとうございます」
クロード王子は深く息を吐くと、ゆっくりとこちらに手を伸ばしてきた。
肩に置かれるのかと思った手が背中へと回る。それを不思議に思った時には抱き締められていた。
「頼むから、危ないことはしないでくれ……心臓が止まるかと思った……」
徐々に強くなっていく腕の力に、この人も余裕がなかったのだと思い知る。
「……すみません、他に良い方法を思いつかなかったので……」
あの時は、とにかく怪我をしたヴェルナーや他の人達から離れようということしか頭になかった。それが最善でないことは分かっているし、クロード王子だけでなくレイ達にも心配を掛けたと思うけど、あの時私にできたのはそれくらいだった。
「申し訳ありませんでした……」
「いや、ローザが無事で良かった」
クロード王子は最後にそう呟き、腕を離した。
「ダークウルフがまた集まってくる前に皆がいる所に戻ろう」
「はい」
頷けば、自然と右手を取られていた。
手を繋ぐのは初めてではないけれど、私の手を引いて歩くクロード王子の後ろ姿に、どこか頼もしさのようなものを感じる。
そんな風に感じたのは初めてだな、と頭の隅で考えながら森を出た。
途中、襲い掛かってくるダークウルフを数頭撃退して、レイ達の元へと戻った。
巨大なダークウルフの攻撃はまだ続いていて、レイやカミーユ君も防御魔法を使って応戦していた。後続部隊が加わったことで戦況は良くなったみたいだけど、ダークウルフもまだまだ弱る気配がない。
「レイ! すまない、戻った! こっちは大丈夫だったか!?」
クロード王子が声を上げるとレイが振り返る。
「クロード! ローザ! こちらは何とか、といったところですね……そちらは大丈夫でしたか?」
「ああ。ローザも怪我はなかったみたいだ」
「クロード殿下のお蔭です。レイ殿下、勝手な行動をして申し訳ありませんでした」
丁寧に頭を下げると、レイの溜め息が聞こえてくる。
「全くです……ですが、怪我人が増えずに済んだのも事実ですね……」
苦々しい顔をしながらもそう言ったレイに、自分の行動は完全に間違っていたわけでもないと少し安堵した。
「殿下、ヴェルナーは……」
「後ろで治療を受けています。貴女も、ダークウルフの目に留まらないように退がっていて下さい。またあのようなことになれば私の心臓が持ちません」
「分かりました。治癒班の手伝いをしています」
「ええ、そうして下さい」
では、と二人に軽く会釈をして踵を返そうとすると、「ローザ」とクロード王子に手を取られた。
「どうかなさいましたか?」
「あ、いや……先遣隊の中にも深手を負った者がいるみたいだ。余力があれば、その者達も頼みたい」
「もちろんです」
そう頷いて、後方の負傷者がいる一角へと足早に向かった。
そのほとんどがソレイユ兵の一帯で、セレーネの鎧を着ているヴェルナーはすぐに見つかった。一緒にいるのはオリヴァーだ。彼がヴェルナーの治療にあたっているらしい。
「ヴェルナー!」
一番深かった傷はあの時治せていたからか、ヴェルナーの顔色はそれほど悪くなかった。
「ローザ様、ご無事で……」
「最後まで治せなくてごめんなさい……」
「いえ、ローザ様のお蔭で利き腕を失くさずに済みました」
けれども他の傷はまだ残ったままだ。一番酷いのは右脚の傷だろうか。オリヴァーが懸命に治癒魔法を掛けているけど、傷はまだ塞がっていない。
「オリヴァー、手伝います」
「お願いします」
「“風よ、この者の傷を癒せ”」
魔力を籠めて風の精霊に呼び掛けると、傷は徐々に塞がっていった。右腕の傷に比べたら軽かったから、魔力もそれほど消費しなかった。
「ありがとうございます、ローザ様。後の傷は私が処置しますので、どうか他の兵の所へ」
オリヴァーはそう言って、負傷しているソレイユ兵の方へと目を向ける。
恐らく先遣隊だろう。あの巨大なダークウルフの攻撃を受けてしまったのか、治癒班が複数名で治療に当たっているけど、状況は思わしくないようだ。
オリヴァーに頷き返し、そちらへと向かう。
「あの、良ければ代わります」
そう声を掛けて、一番深い傷に治癒魔法を掛けた。これだけの傷になると流石に時間がかかるけど、治せないことはない。
ふぅ、と息を吐いて治癒を終えると、治癒班の人達からお礼を言われる。
男性にも治癒魔法の適性がある人がいるからこうして治癒班が編成できるのだけど、上級治癒魔法が使える人はいない。中級魔法や上級魔法が必要な大怪我は、止血をしながら複数名で少しずつ治すという方法しか取れないのが現状だ。
(やっぱり、魔法による治癒をするなら女性の存在は不可欠だ……)
治癒院には女性の治癒師もいるけれど、ごく僅かだし、そこにたどり着く前に死んでしまう人達もきっといるんだろう。
深手以外は治癒班に任せ、一人一人治していっているとブルクミュラー夫人に声を掛けられた。
「ローザ・フェガロ様、どうか無理はなさらずに……私達には太陽の塔の核に魔力を籠めるという役割がありますから……」
心配そうこちらを見つめながら、ブルクミュラー夫人は続ける。
「恐らく、私一人の魔力では足りません……足りたとしても、核に魔力を籠める方法は特殊なため、最初は上手く籠められないこともあると聞いています。私も辺境伯家に嫁いだ身ですので、負傷した兵を前にして治癒魔法を使わないというのは大変心苦しいです。ですが、どうか結界維持のため、十分な魔力を残しておいて下さい……」
核の魔力は、ゲームならヒロインが一人で補充することができるものだ。そのヒロインの位置にいるカンザキさんがいるなら十分だし、本来私はここにはいないはずの人間だ。ゲームの知識がどれだけ当てになるのかは未だに分からず仕舞いだけど、カンザキさんも選ばれてここに来ているのだから、魔力量は十分だと思っていいのだろう。
もっとも、ブルクミュラー夫人はそんなこと知るはずもないから、私が治療に専念しているのを心配するのも無理はない。
そんなことを考えていると、ふと別の所から視線を感じた。治癒班のソレイユ兵と意識のある負傷兵だ。
私が何を言うのか、緊張した面持ちでこちらを見ている彼らに、私は微笑って見せた。
「大丈夫です。ご安心下さい。まだまだ余力はありますから」
ブルクミュラー夫人に向けてそう告げる。
「私もフェガロ家の人間ですから、怪我をしている人をただ黙って見ていることはできません。それに、帰り道で魔物が出ないとも限りませんから、やはり兵の回復も優先事項の一つです。可能な限り、負傷者の治療もしたいと思います」
元々、魔力量は多いのだ。魔力の補充にどれくらいの魔力量がいるかは分からないけど、余裕のある人間が治療にあたるべきだと思う。王女であることは言えないから、こんな風にしか言えなかったけど。
そうして次の人の治療に向かっていると、前線から歓声が上がった。
そちらに目を向けると、森の向こう側へと逃げていくダークウルフ達の姿が見えた。あの巨大なダークウルフを倒すことはできなかったようだけど、何とかなったみたいだ。
私はほっと息を吐きながら、負傷兵の方に向き直った。きっとすぐに太陽の塔の中に入ることになるだろうから、今の内に傷を治しておかないといけない。
更新が大変遅くなり、申し訳ありませんでした。




